MotoGPライダー アレックス・リンス インタビュー 「エースライダーの静かな闘志 そして、目ヂカラに圧倒される」

スズキに加入して3年目、エースライダー アレックス・リンス選手は冷静な大人だった。スズキの着実な進化に貢献してきたという自信、そして初勝利への執念を感じさせる24歳は、静かで、丁寧で、少し圧倒されるほどだった。モトGPライダーのオーラに少々圧倒されつつ、今年こそ勝てるのではないかと感じさせた。

■インタビュー:ノア セレン 
■撮影:依田 麗 
●写真協力:SUZUKIhttp://www1.suzuki.co.jp

Q:昨シーズンは着実なステップアップを重ねてきたシーズンに思います。これはスズキのバイクの進歩によるところが大きいですか? それともバイクの乗り方への理解の深まりも影響していますか?

A:バイクの進歩は確実なもので、レースごとに少しずつ確実に熟成が進みました。これと連動してライダーも進歩を続け、シーズンを通して、必ずしも毎レースで結果に結びついていたわけではないものの、前進してきたと思います。何か変更を加えた際、ほとんどの場面でそれは良い方に働き、新しいチャレンジが上手くいかなかったということは本当に少なかったシーズンです。また昨日までのセパンでさらに新しいコンポーネントを様々試し、2019年仕様も去年の確実な進化の延長線上にあると感じ、今とてもポジティブな印象を得ています。


Alex Rins

Q:その2019年仕様ですが、戦闘力が大きく向上しているような手ごたえはありましたか?

A:うーん、少し良い、という感じでしょうか。なんて言ったら良いかな、劇的に速いというわけではないのですが、去年モデルと比べるとセパンの各ラップをコンマ2秒ぐらい速く走らせることができました。それだけ見るとあまり向上していない感もありますが、レースが終わる頃にはそのコンマ2秒が積み重なって、大きな違いになるのです。

Q:去年はコンセッションの都合もあり、開発のスピードが速かったのではないかと想像しています。対して、マシンがここまで仕上がってくると向上させる余地が少なくなってくるのではないかと思うのですが、壁にぶつかったりはしていませんか?

A:確かにまだまだ100%ではないバイクを100%に近づけていくのは比較的容易かもしれません。去年の進歩により、バイクはコンペティティブさを獲得し、信頼できるパッケージに仕上がったと思います。完成の域に近づくにつれどこを改善できるのかというのは、重箱の隅をつつく作業になっていきますが、それでもいつでも向上の余地はあります。例えば、去年のバレンシアの後にもっとパワーのあるエンジンを希望しました。パワーを出すのは簡単なことなんです。だけれどそれがタイム、もしくはレース結果に繋がるとは限らなかった。だから常にベストバランスを探る作業であり、そういう意味では常に煮つめ続ける作業なのです。

Q:バイクの進化が早いと、ライダーも同様に早い進化が求められるものですか?

A:そもそもGSX-RRと僕のスタイルはよく合っていると思います。コーナリングスピードが速くてスタビリティが高い。トップスピードはライバルに譲るかもしれませんが、レース終盤になってタイヤが減ってきても劇的な落ち込みもない。こういったトータルバランスの向上が一歩一歩行われていくわけで、進化は常に前の仕様の延長線上にある。バイクもライダーも共に進化していくのです。



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Q:エースライダーとして、あなたの意見はバイクの進化に多く反映されるものですか? それともバイクの進化に合わせる場面も多いのですか?

A:スズキはメーカーとして勝ちたい。僕も個人として勝ちたい。今年で3年目ですが、メーカーとライダーは良いコンビネーションを築けていると思っています。僕の意見はもちろん聞いてくれるし、お互い共通の目標に向かって着実に進んでいるだけです。その中で難しさはなく、スムーズで気持ちの良い関係でやっていけています。

Q:昨シーズンのスズキは確実に上位常連になってきてはいましたが、勝利という意味ではビニャーレス以来まだありません。表彰台のてっぺんを獲得するには何か一つ、足りないものがあるのでしょうか。今回のテストでその何かを見つけたり……していませんか?

A:レースで勝つには全てが100%である必要があります。マシンもライダーもチームも、です。それにいくらかの運も必要かもしれません。例えば去年のバレンシア(リンス選手は2位)。これは事実を言っているだけですよ、言い訳しようというわけではありません。赤旗中断のあと、ライバルは新しいタイヤを履いて再スタートしたんですが、僕はそれまで履いていたタイヤだった。もし違う判断だったら勝てていた、かもしれない。勝利は色々な要素の積み重ね、組み合わせにより得られるものでしょう。



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インタビューの前日まで(2月6~8日)マレーシア・セパンで行われた合同テストにて。

Q:では今年こそ勝利を。

A:勝つ準備は整っています。開幕して4戦のうちに1勝は獲得するでしょう。

Qライバルに対するスズキの強みは何ですか? 勝利を実現するために、その領域はさらに強くなっていますか?

A:コーナリングスピード。これがスズキの強みでしょう。だけれど2019年はそこだけを追求しているわけではなく、ブレーキング時のスタビリティや最高速も同様に向上させています。セパンでは逆にすでに高いコーナリングスピードよりも他の部分でも向上に重点を置きました。エンジンの仕様も違いますからそれへの合わせ込みや、空力が主でしょうか。空力のアップデートだけで最高速は1キロほど向上しています。次のカタールテストまでにはさらにニューパーツが用意される予定ですから、勝利を見据え、一歩一歩、トータルでのパフォーマンス向上を確実に進めていきます。



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Q:そういったスズキの特性を踏まえて、得意なコースはどこでしょうか。

A:速いコースの方が得意でしょう。フィリップアイランドやセパンなどの方がパフォーマンスを発揮しやすい、かもしれません。でも僕はどのコースも好きなんです。どんなバイクでもより特性に合ったコース、もしくは100%の性能を発揮しにくいコースというのは存在するものですが、僕とスズキの組み合わせでは、どこが得意だとか苦手だとか、そういうのはあまりありません。個人的にフィリップアイランドは好きですけどね。

Q:オフシーズンのトレーニングは何か特殊なことをするのですか?

A:ジムで過ごす時間もありますし、モトクロスやダートトラックなど実際にバイクに乗るものなど、何でも幅広くやります。自転車やプールも多いですね。

Q:チームメイトはルーキーですが、彼はうまくモトGPに対応していると思いますか? またチームにうまく溶け込んでいますか?

A:そうですね、彼は速いライダーだと思います。モトGPへのステップアップは大変ですが、良く対応してラップタイムも良いのが出ています。チームワークも良いですが、なにせデビューイヤーですからこれからたくさんの経験を積んでいかなければいけません。



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2月23~25日までカタールで行われた最終合同テストにて。開幕戦は3月10日、同地にて行われる。

Q:ルーキーオブザイヤーが獲れそうですかね?

A:獲れるでしょう! 獲れたらスズキのバイクの性能を証明することにもなりますし、僕が関わってきた開発の方向性が正しかったという確証を得ることもできますので、彼のためだけでなく、チームとして、スズキとして素晴らしいことです。

Q:最初の4戦のうちに勝利をあげたいと言っていましたが、セパンテストでライバルたちの進化を見た今、感触はいかがですか。また2019年の最終的な目標は?

A:……我々ライダーは勝つためにやっています。チームも勝つためにやっています。だから目標は年間チャンピオン以外ありません。まだ開幕までには時間があるためセパンテストの結果でライバルと比較するのは難しいですが、良いラップタイムを刻むこともできていますし手応えはあります。レベルは確実に高くなっていますが、ライバルライダーは去年と同じでしょう。その高いレベルに我々もいます。

Q:では2019シーズン、期待してます。ちなみに公道でもバイクは乗りますか?

A:乗らないです(笑)


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……じゃ時間を見つけてスズキに乗らないと! この人たち(同席していたスズキの広報)がすぐ売ってくれるよ!

A:あはは! そうだね!

……ちなみにその髪の毛は地毛ですか?

A:そうだよ、伸ばしっぱなし(笑)

……ヘルメットがかぶりづらくならないの?

A:それが目安だね! ヘルメットがかぶりづらくなったら切ってるよ(笑)

後記:
ミル選手の若い勢いのようなものの後では、特に冷静さが印象的となったリンス選手。テーブルの上で手を組み、こちらを真っ正面から見据え、各質問に対して静かに確実に応えていく様子は自然とリスペクトさせられた想いだ。そして「ビニャーレス以来スズキに勝利がないが」などと質問した時にはその目の中に本当に炎が見えたかのようで、目ヂカラがちょっと怖くなってしまうほど。スズキと自分の着実な進化に手ごたえを感じつつも、まだ勝てていないという所はもどかしく思っているようだった。一つ勝てれば、その後も勝てそうな予感。応援したい。(ノア セレン)

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