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MT-09の派生モデルから独立して
リニューアルしたトレーサーとトレーサーGT。
マイナーチェンジ内容も、GT独自のアップグレード内容も
ニッポンのツーリングバイクとしての魅力を高めてくれた。
ロングランならアドベンチャーだね、って風潮を
ひっくり返しそうな完成度なのだ。

■文:中村浩史 ■撮影:依田 麗
■協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

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ライダーの身長は178cm。(写真の上でクリックすると、片足→両足、両足→片足着きの状態が見られます)

 
スタンダードよりもGTの方が人気!?

 旧MT-09トレーサーから改名してトレーサーGT。これは、これまでMT-09の派生モデルだったものが独立したブランドになる、みたいな感じなのかな。それほどトレーサー人気と完成度は、すこぶる高い。
 カテゴリーでいうと、クロスオーバー、昔でいうオンロード寄りのマルチパーパス、ツーリングバイク、さらにはちょっとアドベンチャー風味もあり、みたいな感じ。少し前のTDMとか、もう少し前のテネレ(はちょっとオフロード色が強いか)であり、XJR1300やFZ-1みたいなスポーツバイクのいいところどりのポジショニングにいるのだと思っていい。

 MT-09シリーズから独立したトレーサーは、2018年モデルでビッグマイナーチェンジを敢行。詳しくは下のパーツ写真説明に詳しいけれど、やはり派生モデルというよりは、完全に独立したブランドに育てよう、というヤマハの心づもりが見える。
 そのトレーサーはMT-09トレーサーって呼ばれていた2017年にもマイナーチェンジ、初期モデルにアシスト&スリッパークラッチを追加、トラクションコントロールを初期モデルのON/OFFから、2/1/OFFの3段階に変更していたんだけれど、この2018年モデルでまたも大変更。さらにトレーサー900 ABSとトレーサー900 GT ABSの2本立てとして、より独立性を際立たせている。もうMT-09から巣立っちゃったんだね、そんなパッケージに変更されたのだ。

 今回の試乗はトレーサーGT。GTバージョンは、スタンダードに比べて①メーターがフルカラーTFT液晶マルチファンクションディスプレイになって②グリップヒーター③クルーズコントロール④シフトアップ方向のみにクイックシフトを追加し、⑤フロントフォークがフルアジャスタブルに⑥リアサスのプリロードをリモートアジャスト式に変更。これでスタンダード比8万円高に抑えている。アフターマーケットでモディファイしづらいクイックシフトやクルーズコントロール、フルカラー液晶メーターが追加されての8万円アップはバーゲンプライスだよね!
 YSP店に聞いてみると、お客さんの反応はやはりGTの方がいいようで、やっぱり問い合わせもGTの方が多いんだそう。けれど、スタンダードは2018年10月から12月28日、つまり年内いっぱい「ツーリングサポートキャンペーン」てのが展開されていて、「GTじゃない方」のトレーサー900の新車を買うと、16万2000円分の用品クーポンがプレゼントされるのです。
「ボクのはGTじゃない方。ちょっと悔しいけど、クルーズコントロールやフルカラーディスプレイは要らないさ(笑)。定価の価格差を考えたら、GTよりも3000ドルくらいお得なんだよ」と言ったのは、トレーサー900オーナーのスティーブ・クラウスさん。スティーブさん、なんとこの日の撮影中、撮影場所に、たまたまツーリング最中に通りがかって、お、トレーサーだ、って立ち停まってくれたのだ。
 都内でIT関係のお仕事をなさっているアメリカの方で、もう10年以上、日本にお住まいだという。これまではずっとレンタルバイクで週末ごとにバイクを楽しんでいたんだけれど、このトレーサーのツーリングサポートキャンペーンを見て、購入に踏み切ったのだそう。そうだね、3000ドルっていえば約30万円だもん(注:正確には定価の差額とキャンペーンクーポンで24万8400円相当がおトクです)かなりオトクなキャンペーンだ。年内、急げ!

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オーナーが語る、トレーサーのいいところ♪

 スティーブさんに少し話を聞いた。バイクの良し悪しって、オーナーさんの意見がいちばんわかりやすいもの。
――どうしてトレーサーにしたの?
「車格が大きくて、それに負けないトルクがあるからね」
 そう、トレーサーはまずもって、サイズが立派だ。僕は身長178cm/体重80kgと、スティーブさんに比べたらやや小さいけれど、日本のライダーでは平均よりやや大きめ、重め。
 トレーサーはシート高が850/865mmに可変できて、これはMT-09よりも30/45mm高い。もちろん、足着きも悪くなるんだけれど、身長170cmを越えるくらいの体格ならば心配ないと思う。実はシート高が高いと足着きが悪くはなるけれど、クルージング中にヒザの曲がりが緩くて快適だし、重心が少し上がることで、運動性も良くなるのだ。
 スティーブさんが言う「トルク」っていうのは、これはもうMT-09のエンジン特性の素晴らしさだ。初期モデルからかなり洗練された並列3気筒のパワーフィーリングは、アイドリングすぐ上からトルクが出ていて、それも体をグイッと持って行かれるくらいに強い。
 うわ、力あるなぁ、アクセルのオンオフが多い街中ではぎくしゃくしちゃって乗りにくいな、と思ったらパワーモードを「B」固定にすればいい。ちなみに「A」がモアパワー、「B」が標準、「C」はレスパワー。最初は楽しくて「A」をずっと使ってるんだけれど、時間かけて乗っていると「B」のよさがわかるね。レスポンスは穏やかだけれど、力モリモリ、な感じ。初期モデルの「A」モードはもっとガツガツ来たから、かなり洗練されてきた。
 高速道路のクルージングでは、トップ6速固定で、80km/hは3100rpm、100km/hで4000rpmといったところ。まだまだ上は余裕があるし、6速40km/hで走っていたってガクガクしない。本当にこのMTシリーズの3気筒(ファンはもうエンジン形式の「711」=ナナイチイチって呼び始めてる)は、近代稀に見る傑作エンジンだ。
 街中を走っていて、トントントンと早めにシフトアップしていけば、ちょっと交通量の少ないバイパスなんか、60km/hで2500~2600rpm。おだやかで、力強いけれど、ここからドンとアクセルを開けると、みるみるスピードが乗って来る。
 前にテストコースで乗ったときには、180km/hなんてイッキだし、そんな速度域での力強さよりも、ナナイチイチは100km/hや150km/hまでの加速がすごく強い。これが、日常の使い勝手を重視したパワー特性ってこと。

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――ハンドリングはどうですか?
「アジャイルだね! クイックでアジャイルだよ」
 アジャイルっていうのは「俊敏性」でいいのかな。すばしっこい、キビキビ走る感じのニュアンスだ。かつてバレンティーノも、ヤマハのMotoGPマシンのよさを「アジリティ」だって言ってたから。
 ただしこのアジリティ、MT-09よりはスポイルされている。理由はもちろん重量なんだけれど(MT-09は車両重量193kg。トレーサーGTよりも22kgも軽い)この重量増は、いい意味で安定性に振れていて、トレーサーGTの動きが鈍重だって感じたことはまるでなかった。クルージングの時はしっかりとした安定性があって、レーンチェンジのようなアクションは、サスペンションの反力がシュッと反応して機敏にこなすことができる。
 もちろん、ワインディングをがんがん攻めるモデルではないけれど、バンクスピードがゆっくりめで、バイクがバンクしている時でもどっしりとした安定感があって、前後タイヤがしっかりグリップしている。これ、怖くないキャラクターで、すごく好ましいと思う。
 もちろん、そんな用途がメインではないけれど、ヒザスリするようなアクションだって安定感があって、すごく安心して攻めていけるのだ。

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エンジンも、車体もいい。でももっといいのは?

 トレーサーの運動性能は、オーナーさんだからもちろん、べたぼれ。けれど、1万ドルもの大金を掛ける決め手は何だったんだろう。
――スティーブさんはどうしてトレーサーにしたの? 値段以外で。
「そうだね、僕は1台しか持ってないから、何にでも使えるユーティリティがよかったんだ。ツーリングがメインだけれど、都内だって走るしね。トレーサーはなにかに偏っていないのがいい。日本はこういうユーティリティのバイクが多い。でも僕はトレーサー一択だった」
 今どきのバイク乗り、しかも最近のユーザーともなれば、このユーティリティもバイク選びのすごく重要なポイント。街乗りやちょい乗りをベースに、ワインディングやサーキットランをしたいのか、カノジョや奥様とタンデムで走りたいのか、時々ダートに行きたいのか、やっぱりツーリングに行きたいのか。
 つまりトレーサーGTは、普段の使い道がツーリング多し、のひとに自信を持ってお勧めできるモデルだ。それも、ツーリングのルートにワインディングを組み込むようなオーナーだけでなく、荷物満載でキャンプツーリングに出かけたり、タンデムでロングランしたりって用途にもいい。最新モデルは、よりツーリング性能を伸ばしたようなマイナーチェンジで、スクリーンがよりウィンドプロテクションを上げて、シートも長時間走行に向くように改良、GTのクルーズコントロールは、ちょっと設定速度域が狭いけれど(法規なんだからしょうがない・笑)、高速走行ですごく助かったし――。
 ライバルはホンダNCシリーズ、スズキはSVやVストロームかな、カワサキはNinja650とかZ650――。その中でトレーサーが人気なのは、そういうトータルな性能だからゆえ、なのだ。
 
 ヤマハが1200テネレを発売して、数年後にアフリカツインが復活、やっぱりロングツーリングはアドベンチャーがいいな、って思っていた僕がいた。けれど、トレーサーGT、いいな。クルージングの快適さと、時々現れるワインディングでのスポーティな走りを両立しているのは、まちがいなくトレーサーGTだ。
 2018年の海外のショーでは、ついにヤマハがニューテネレをコンセプトモデルとして発表したけれど、現時点でのツーリングバイクforニッポンは、ヤマハではトレーサーだな、と思った試乗となりました。
 
(文:中村浩史)
 

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ブレーキは、φ298mmローターと対向4ピストンキャリパーをダブルで装備。ABSを標準装備で、フロントフォークはトレーサーにプリロード/伸び側減衰力を調整できるφ41mmの倒立フォークを装備、トレーサーGTにはひとつ上級グレードの伸び側/圧側減衰力を調整できるフルアジャスタブルのフォークを採用。タイヤはダンロップD222。 スイングアームは従来モデルを60mm延長したニューパーツ。ロングスイングアームはヤマハが初代YZF-R1で世に問うたアイテムで、それからは各社各モデルとも当たり前のように採用しているもので、トラクション性能が向上し、リアタイヤのグリップを高める。リアサスはリンク式モノサスで、 GTはリモートダイヤルでプリロードを調整可能。 MT-09用をベースとする水冷3気筒「ナナイチイチ」エンジン。レスポンスがシャープで、アイドリングすぐ上からトルクが厚く、高回転まで力強い名機だ。2017年モデルからアシスト&スリッパークラッチを採用し、エンジンフィーリングもすごく洗練された。GTのみ、シフトアップ方向のみのクイックシフター、クルーズコントロールを標準装備した。
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ステッチを露出させて形状もデザインも一新。サイドカバーもグラブバーも形状を変更している。シートは初期モデルから一貫して、取り外し式のシートステーの取りつけ場所を変えればシート高を850/865mmに変更できる仕組みで、もちろん工具は不要。シート高が上がった分、クッションも厚くなった。オプションのパニアケースは専用ステーが必要。
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ガソリンはハイオク指定、タンク容量は18L。今回の試乗での参考実測燃費は約19~23km/L。今回のモデルチェンジで外装パーツなどの形状、デザインも変更した。ハンドルバーやナックルガードも形状変更し、よりツーリングモデルとしての快適性を向上した。 タンデムシート下には、ちょうどETC車載器が入るくらいのスペースあり。GTって名前ならば近い将来にはETCも標準装備されるはず。タンデムシートはキーで取り外しOK、ライダーシートはタンデムシートで抑えられているだけで工具不要で取り外しOK。バッテリー上の樹脂製のヤグラ上のステーの取り付け位置を変えてシート高を変更する。
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スクリーンは形状と面積を拡大し、よりウィンドプロテクション効果をアップ。左右幅を広げ、スクリーン高はメーター前方のロックノブで工具なしで5mm単位で10段階上下させられる。いちばん高い位置でヘルメット上まで、一番下でヘルメットのあご位置まで整流。
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右ステップすぐ後方にトライアングル形状のエキゾースト出口のある3into1マフラー。ショートレイアウトはすっきりしていていいんだけれど、エンジン真下からサイレンサー直前までのチャンバー室、もう少しキレイに作り込んでほしいな、と思います。 テールランプは従来からLEDを採用。ウィンカーはオレンジバルブとクリアレンズの組み合わせで、一見同じデザインに見えながら、テールカウル形状やグラブバーなどの形状変更で高品質になった。パニアケースはオプション(7万4520円)で、容量は片側22L、フルフェイスヘルメットは収納できない。専用ステー(1万9440円)が必要になる。
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トレーサーGTは専用のフルカラーTFTメーターパネルを採用。数字がスピード、下にギアポジション、右に燃料計、上がタコメーターのバーグラフを表示する。下部の帯部には出力モード、トラクションコントロール、外気温、グリップヒーターの状態を表示し、その上にオド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費を表示。メーター左に12V出力ソケットを装備。 左ハンドルスイッチに走行モードやトラクションコントロールの設定スイッチと、GT専用のクルーズコントロールスイッチを装備。右スイッチにはキルスイッチ一体型のセルボタン、その下にメーター表示を選択するジョグダイヤルを装備する。ジョグダイヤルがやや小型で、選択してそのまま押し込んで決定、の動きがグローブしたままではしづらかった。
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■YAMAHA TRACER900 GT ABS(2BL-RN51J)主要諸元
●全長×全幅×全高:2,160×850×1,375mm、ホイールベース:1,500mm、シート高:850mm、最低地上高:135mm、車両重量:215㎏●エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、排気量:845cm3、ボア×ストローク:78.0×59.0mm、最高出力:85kW(116PS)/10,000rpm、最大トルク:87N・m(8.9kgf-m)/8,500rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、燃費消費率:28.4km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、19.7km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:18リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後180/55ZR17M/C 73W●メーカー希望小売価格:1,198,800円


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