■試乗・文:青山義明 ■撮影:依田 麗
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
「パーソナルコンフォートサルーン」というテーマで、ワンランク上の125㏄スクーターとして開発され、2010年の登場から常に通勤快速マシンとして、人気を博してきたPCX。今年4月にまず3代目に標準モデル「PCX」および「PCX150」が進化。そして9月に量産2輪車世界初となるハイブリッドシステムを搭載した「PCX HYBRID」が登場。さらに11月30日(金)にピュアEVモデルとして「PCX ELECTRIC」が登場する。
ライダーの身長は178cm。(写真の上でクリックすると、片足→両足、両足→片足着きの状態が見られます) |
特別感のあるEVモデルの演出
すでに発表されているとおり、PCXの電動バージョン・モデルが11月30日(金)より発売となり、「PCX」、「PCX HYBRID」、そして今回の「PCX ELECTRIC(エレクトリック)」という3つの動力方式によるPCXシリーズのラインナップが完成となった。
このエレクトリックは、4月から発売されている3代目PCXをベースに、エンジンや燃料タンクの代わりに、電動ユニットを組み込んだモデル。ホンダとしては、1994年3月に発表した「CUV-ES」、そして2010年4月に発表した「EV-neo」に続く3機種目となる電動スクーター。先の2台は原付一種モデルであったが、今回のPCX ELECTRICはホンダとして初の原付二種EVとなる。
外観はフロント周りの造形こそPCXと同一だが、リア周りは大きく異なっている。リアタイヤの稼働スペースを確保するためにホイールベースが延長(標準車・ハイブリッド車の1315mmに対し、エレクトリックは1380mmと65mm延長)されており、それに伴いサスペンション長は長くなり、エレクトリック専用となるハガータイプのリアフェンダーも相まって、リアからの眺めは少し華奢な印象だ。また、シート下はバッテリースペースとなっているため、ヘルメットの収納はできない(小物の収納スペースは確保)。
ボディカラーはエレクトリック専用色「パールグレアホワイト」のみの設定。またアクセントカラーにキャンディブルーを使う。ほかにもシグネチャーランプの裏側のブラケットやテールランプのインナーレンズをブルーとしている。ハイブリッドモデルも各所にブルーを配していたが、それとは異なるブルーの配色でエレクトリックの特別感を表現している。
シンプルな構成のEVシステムを搭載
その動力部分となるEVシステムは、シート下のボディセンター部に充電池「Honda Mobile Power Pack」を搭載し、モーターはスイングアームの後端にあり、その出力軸からダイレクトにホイールを回すこととなる。
今回バッテリーパックは可搬型としている。車載充電器も搭載しており、駐車スペース近くに100Vのコンセントがあれば、車体にバッテリーパックを入れたまま、装備してある充電プラグ(コード長2m)で充電が可能。近くにコンセントが無ければ、バッテリーパックを下ろして、オプションの専用充電器で室内でも充電ができるということで、充電環境に左右されることなく車両が使えるようにしたということだ。
このバッテリーパックは2個装備しているが、1個ずつ使用していくのではなく、1個が48Vのバッテリーパックを、2個直列で接続して96Vで走行する(モーター出力は最大4.2kWを発揮)。つまり、2個ともに車体に装備しなければ走行はできない。充電時間は、全くのゼロの状態から満充電まで、車載充電器で充電した場合で約6時間、専用充電器の場合は約4時間/本となる。ちなみに充電する際は車載充電器なら2つのバッテリーパックを並列に最適充電するが、取り外して充電する場合は、1本のみ充電してもう一本を充電せずに次の走行へ、ということはお勧めできない仕様となる。
円筒形のリチウムイオン電池をアルミケースに収めたバッテリーパックは1本あたり10kgとなかなかの重さだ。ただ、車載の際はストレージに沿ってパックを差し込み、ロックプレートを回転させることでバッテリーパックの固定とコネクター接続が同時に行われるため脱着は非常に簡単。
搭載されているのは効率が良く発熱も少ないIPMモーターだが、減速機を介さないダイレクト駆動。熱対策なども気になるのだが、冷却対策等への付加物をなくし自然冷却としているシンプルな構造となる。
気になるEVとしての性能だが、1充電あたりの航続距離は、41km(60km/h定地走行テスト値)となる。え? それだけ? ちょっと危惧してしまうような数値が発表されたわけだが、60km/h定地走行モードは、ずっと時速60kmで走行した場合の可能走行距離であってガソリン車の場合は効率が良く、実際に使用するよりもかなりいい数字が出ることとなる(EVではこれが逆になることもある)。一方、WMTCモードは発進・加速・停止といったパターンも取り込んだ測定値でより使用実態に近いという。参考までにこのエレクトリックのWMTCモード走行値は50km以上であるという。
ちなみに、使用用途を検証した結果、必要性能として、常用速度域は20~50km/h、最高速度は60km/h、1日の走行距離は50kmで仕向け地各国の80%以上のユーザーの使用距離をカバーできるとしている。確かに実際にはこれだけしか乗らない、としても気になるものだし、いつも残りの電気量を気にしながら走るというのは精神衛生上よろしくない、と購入に踏み切れない層がいるのは確か。しかし、一方で、残電気量をしっかり使い切って走っているEV慣れしているユーザーも多数いることは確か。関東近県から都内中心部への通勤を考えると、若干足りないかな? というところだろう。
今回は極めて短い試乗時間だったが、実際に走行を体験した。まず、そのスタートだが、スマートキーを持った状態で、イグニッション・スイッチをONにしてから、リアブレーキを掛けた状態でスターターボタン(?)を押す必要がある。スターターボタンを押した状態でメーターに「READY」表示が点灯。これで走行が可能になる。アクセルをひねればスタートだ。走行モードなどの設定はない。
走り出しはEVらしさが強調されてはいるものの、他のPCXシリーズと極めて似たような走行の印象だ。もちろん音と振動がない分、上質さは、このエレクトリックのほうに軍配が上がる。ただ一点、クラッチなどを噛まさないため、車両停止時に若干コギングの現象がみられる。他が上質なだけにこの部分はもう少しごまかすことができたらよかった。ただ走行に関しては、回生エネルギーの回収もないので、アクセルの微妙な操作ということとも無縁だ。そういった点でも通勤にも最適な一台となりそうだ。
現段階では法人企業、個人事業主、官公庁に限定したリース専用車となる。バッテリー管理などを考慮すればリース販売というのもうなずけるし、慎重になるのもわかるが、もう少し広く手に入れられる環境を作ってもよいのかと思うところもある。特に現在、某バラエティ番組で電動バイクの認知度は高まっており、市場としても受け入れてもらえる絶好のタイミングだと思う。実にもったいない。
(試乗・文:青山義明)
PCX ELECTRICの開発者の皆さん。中央が本田技術研究所二輪R&Dセンターの開発責任者、三ツ川誠さん。 |
補器類用の12Vバッテリーは、シート下の駆動用のリチウムイオンバッテリーの前方に置かれる。PCUや車載充電器も車体センター前方部に集中して配置する。 |
メーター表示も、シンプル。今回のPCXシリーズ同様、反転液晶表示で、時計、バッテリー残量、出力制限などのアラート表示、シートの開閉、充電インジケーターなどの表示。必要な情報だけがシンプルに見やすい表示となっている |
PCXのフューエルリッドと同じところに車体用のプラグが内蔵されている。このリッドから2mの範囲内に電源コンセントがあれば充電が可能だ。 |
バッテリーの脱着機構を新開発。ロックプレートを回転することでバッテリーホルダーが着脱され、バッテリーボックスの下面の下にあるコネクターの上下動も同時に行う機構となる。そのため、複雑な作業を必要とせず、モバイルパワーパックを多少ラフに挿入してもコネクター端子を傷めることはない。 |
オプションで設定されている専用充電器は、植木鉢のような形で、バッテリーの受け部がせり上がっており、バッテリーパックを落とし込むと緩やかに受け部が下がっていき、自動的に充電端子とかみ合うように設計されている。こちらは、充電器のフチにインジケーターランプが装備されており、充電状況がひと目でわかるようになっている。 |
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