■試乗・文:河野正士 ■写真:DUCATI
■協力:DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/
ドゥカティは2019年モデルとして新型車「ムルティストラーダ1260エンデューロ」を発表した。先に発売した「1260/1260S」そして「1260パイクスピーク」同様、排気量を64ccアップしたテスタストレッタDVTエンジンを搭載。またシャシーやDSS(ドゥカティ・スカイフック・サスペンション)などのセッティングをアップグレードした。ここではその車両の詳細と、10月中旬にイタリア・トスカーナで開催された国際試乗会でのインプレッションをお届けする。
事前情報では、排気量を拡大した新型エンジンの採用が主なトピックであったが、実際には数々のアップグレードが施されていた。2016年、ムルティストラーダ・ファミリーに加わった「エンデューロ」は、前後17インチホイールを装着しオンロードでの走行に軸足を置きながらオフロードへと走行領域を広げたムルティストラーダの基本的なDNAから一歩踏み込み、フロント19インチホイールを装着し、前後サスペンションストロークを200mmに延長するとともに最低地上高を高め、電子制御サスペンションDSSのセッティングも大胆に見直した。また30リットルの大容量燃料タンクの装備に加え、スタンディングを強く意識したライディングポジションを造り上げるなど、よりオフロード走行に重心を移して開発されたモデルだ。
今回のアップグレードでは、そのオフロードへの軸足やオフロード重視の姿勢を変えることなく、より幅広いキャリアや体格のライダーに間口を広げ、ドゥカティで世界中のあらゆる場所を走り、その走りを堪能できるということが開発の目標となった。排気量を拡大したエンジンの搭載は、その目標達成のための第一の矢、と言うわけだ。
エンジンは、1260同様、DVTのセッティングも変更されていた。これまで低中回転域にあったトルクギャップを解消。それによって3500回転以下のエンジン回転数で最大トルクの約85%を発揮している。その回転域を常用するワインディングや街中などではメリットを強く感じた。コーナーや交差点の手前でエンジン回転が落ち込んだときも、シフトダウンをさぼって、アクセル操作のみでふたたび流れに乗れ、またその流れをリードすることもできる。
前夜に降った雨の影響が残った今回の試乗会前半は、青空が見えていたものの、前車のリアタイヤが濡れた路面から巻き上げた霧状の雨水がシールドに付くようなウエットコンディション。欧州の路面はそのような状況でとくに滑りやすくアクセルやシフトの操作に気を遣う。そんなときエンジン回転が落ち込んでもシフトダウンを必要とせず、低い回転域からでもスルスルと車体を進めてくれるこのエンジン特性は大いに助けとなった。
↑撮影時の動画を観ると、自分が感じている以上に前後サスペンションが大きく動いていることに気がつく。本人的には、そんなに荒れた路面を走っていた記憶というか感覚を持っていない。前後サスペンションのストロークを減らしたものの、DSSのセッティングをしっかりと煮詰めたDSS EVOへと進化した結果だ。 |
車体周りで大きく変わったのは前後のサスペンションストローク量の変更とそれに合わせたDSS EVOのセッティング、それとハンドル形状の変更によって変化したライディングポジション。そして同形状ながら素材の肉厚を薄くして軽量化を図ったスイングアームだ。
前後サスペンションは、ともに1200時代からストローク長を15mm減らした。シートカウルやシート形状は変更されていないので、この前後サスペンションのセッティング変更によってシート高を10mm下げ、860mmとした。今回、オプションでラインナップされているシート高840mmのローシートも試したが、座り心地や車体の操りやすさを考えると、多少足着き性を犠牲にしてもスタンダードシートの方が好感が持てた。わずか10mmとはいえ、前モデルから足着き性が改善され、極端に傾斜が付いた荒れた林道でないかぎり、足着きにはさほど不満を感じなかった。
それよりも、ストローク量を抑えたサスペンションは、想像していたよりずっと良いフィーリングだった。いや帰国後に旧モデルである「1200エンデューロ」を再度テストしたが、1260のフィーリングはやはりモダンだったことが明白となった。
1200のサスペンションは、スポーツモードであってもよく動き、それはやはりオフロードに軸足があることを強く感じた。1200のスポーツモードですら、1260のツーリングモードのように感じてしまったほどだ。
↑大きなギャップやジャンピングスポットは試乗コースに組み込まれていなかったが、荒れた林道やトレーニングコースでの簡単なジャンプスポットで、サスペンションのストローク不足に対する不満はまったく感じなかった。それよりも姿勢制御が行き届き、車体の重さを感じる場面が少なかった。 |
1260でツーリングモードを選んで走行していたとき、やはりサスペンションストローク量が大きく感じていた。そして路面が乾きはじめ、ペースが上がり始めた試乗会では、走り方とサスペンションの動きがズレる部分が出てきた。そこでスポーツモードに変更すると、フィーリングがガラッと変わった。そこでのフィーリングは、それこそ前後17インチホイールを装着した1260や1260Sに近いほど。キュッと筋肉質になった前後足周りが、切り返しが続くワインディングでも車体を安定させる。サスペンションのストローク長を抑え、重心を下げたことによるメリットもしっかりと感じることができた。
そこで最大トルクは前モデルと同じながら、中回転域までのトルクを大幅に太らせた1260エンデューロは、そのトルクに乗って車体をグッと前に押し出し、車速を上げていく。低重心化と低中回転域でのトルクの増大は見事にリンクしていて、それは高回転域を得意とするスーパースポーツファミリーのフィーリングとは明らかに違い、またDVTエンジンやDSSなど同様の電子制御システムを採用する前モデル/1200エンデューロとも袂を分かつフィーリングとなった。
↑試乗は、DREエンデューロの拠点として使用されている、トスカーナ有数のワイナリー/ニポッツァーノの古城をベースに開催。そこから、オンロードはワインディングに、オフロードは林道&DREエンデューロ・トレーニングコースへと別れる。トレーニングコースの一部はワイナリーの農道。すぐ隣には、こんな感じのぶどう畑が広がる。 |
このフィーリングはオフロードでも変わることはなかった。オフロードモデルにとってサスペンションストローク量の減少は、走破性を損なう可能性がある。しかし1260エンデューロは、DSS EVOのセッティングでそれをカバーしている。今回のオフロードでの試乗は林道が中心で、後半にドゥカティのライディングスクール/DRE(ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス)エンデューロの会場を使用した。車体を大きくジャンプさせるような場面はほとんど無かったが、それでも速く/大きくサスペンションが動くような、ギャップを拾ったときなどにも底付感はなく、ストローク不足による不満を感じることは一切なかった。逆にストローク量を抑えつつも、的確なダンピング特性を断続的に造り出してくれることで、前後左右の車体の動きが抑えられていた。各部の軽量化に取り組みながら、ユーロ4に対応することはもちろん、おそらくはユーロ5も見据えた車体造りと環境性能の向上を目指したことにより、乾燥重量は前モデルと同様となった。決して軽くはないその車体の余計な動きを制御することのメリットは、想像以上に大きいと言える。もちろんそれはビッグアドベンチャーモデル初心者に対してだけでなく、車体を振り回すことができるエキスパートにとっても大きなメリットとなるだろう。
↑エンジンは1262ccのテスタストレッタDVTエンジンを採用。最大トルクの85%を3500回転以下の回転数で発揮。最大トルクも前モデルと比べ、5500回転で17%も増大している。サイレンサーは、基本形状は変わっていないが、サイレンサー内の構造やサイレンサーエンドの形状/素材を変更している。 |
↑前後サスペンションはザックス製。前後ともに前モデルからストローク量を15mm減らし、185mmへと変更。それに合わせ、電子制御のコンプレッション/リバウンドの調整機能付きDSSのセッティングも進化。名称をDSS EVOへと変更した。またリアスイングアームは、前モデルと同デザインの両持ちタイプだが、素材の肉厚を変更し、軽量化を実現している。 |
↑シート形状やステップ位置、ステップ形状は変更無し。しかしペダル上に装備していた防振ラバーの厚みを10mm薄くし、それによってライディング時の膝の曲がりを軽減。ハンドル周りの変更と合わせ、長時間走行でも疲れにくいポジションを造り上げている。標準装備されるDQS(ドゥカティ・クイック・シフト)は低い回転域からでも使いやすく、UP/DOWNともに使用できる。 |
↑オプションでラインナップされているアルミ・サイドパニア。両ケースで85リットルの容量を持つ。 |
↑60mmの可動範囲内で、片手で簡単に高さを調整できるフロントスクリーン。 |
↑前後スポークホイールを装着。そのホイールハブは新デザインを採用する。タイヤはピレリ製スコーピオントレイル2を装着。同サイズのオフロードタイヤ/ピレリ製スコーピオンラリーも装備可能する。 |
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| 『2015年モデルMultistrada1200/1200S 国内試乗 新型ムルティストラーダの完成度、日本で再チェック!』 |