■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
125はコミューター、スクーター、簡単で刺激がない……なんて思ってませんか? ワールドクラスが揃う125は今や百花繚乱。その視点から行くとGSX-S125 ABSは、究極のライトウエイトスポーツと言える出来映えで、まるで、かつてこのクラスにもあったレプリカブーム再来を予感させるような、高性能ぶりを楽しんだのである。
ライダーの身長は183cm。(写真の上でクリックすると、片足→両足、両足→片足着きの状態が見られます)(※撮影車両は、車体色変更以前のモデルです) |
装備は今風。
スズキMotoGPマシンを思わせる「トリトンブルーメタリック」というカラーリング。それが醸し出す「走り」のイメージ。全体のスタイルは、シートカウルからタンク、サイドパネルを経て、ヘッドライトの先端までぐっと低くなるようなシェイプで造られており、停まっていても速さを主張している。タンク下のフレーム風パネルはカバーだと解っていても、まるでアルミツインスパーフレーム採用!と言われているように溶け込んでいる。
パッと跨がっても、コンパクトだが窮屈さはなく、スポーツライディングに没頭できそうな予感がする。バーハンドルだが、それは上体をアップライトにするためではなく、ヒップポイント、ステップに置く足、そして良い場所にライダーの手を置きたかったから、という意図が伝わる。跨がっただけで、リアタイヤ、フロントタイヤの位置が分かり、それを意識できる感じなのだ。
そのコクピットに備わるメーターパネルはけっして豪華ではないが、コンパクトなフル液晶ディスプレイが採用されている。そこには必要なものすべてと、次回のオイル交換時期まで表示されるから、すでにバイクに慣れ親しんだライダーはもちろん、これからその世界に入って行くライダーにとっても嬉しい装備に違いない。「メンテナンスをしっかりね!」というメッセージまで付いてるなんて。テイストと機能性。バイクにはいくつもの視点があるが、これほど整ったコクピット環境からバイク界に入ったら、その後の要求も当然高いものになるだろう。
もちろん、走りに必要なものもきちっと備わっている。回転系と連動するシフトライトなど、3000rpm以上であれば、11500rpmまで500rpm刻みで任意の回転数に設定ができる。慣らしの回転数に合わせて設定したり、燃費がよいゾーンを見つけてシフトアップタイミングを決めたりする楽しみもある。
装備の自慢ポイントはまだまだある。ヘッドライトがフルLEDなのは今や時代にもっとも敏感な125クラスだからこそ。大型バイクと比較してもショボさは全くない。
エンジンだって攻めてる。
GSX-S125 ABSを眺めるほど次第にこのバイクを造ったエンジニア達の拘りが見えてくる。兄弟車にGSX-R125 ABSが有ることからもわかるとおり、このバイクは、R 125のストリートファイター(というかネイキッド)ポジションだ。だから、性能はGSX-R一族として一本スジを通すべき、という社内ミーティングがあって、このクラスからスズキファンを養成しようではないか、と結論づけられたのではないか、とすら思うほどなのである。
その理由はキレッキレに攻めてるそのボア×ストローク値だ。エンジンのシリンダー内径をボア、ピストンがシリンダー内を上下に動く距離をストロークと呼ぶことは知られているが、エンジンのキャラクターや時代性がここに現れる。
例えば他の125㏄クラスのエンジンを見る。どれも単気筒だ。まず、ヤマハのスクーター用で、ブルーコアコンセプトのエンジン。NMAXやトリシティが積むそれは、水冷OHC4バルブヘッドで52.0mm×58.7mmというボア×ストロークだ。そして世界で125スポーツバイク復権の急先鋒役を務めたKTMの125DUKEのそれは、水冷DOHC4バルブエンジンで58.0mm×47.2mmとなる。このスペックは2018年に登場した話題のCB125Rも同じだ(ヘッドはOHC2バルブ)。そしてGSX-S125 ABSのそれは水冷DOHC4バルブ 62.0mm×41.2mmとなる。
これをストローク量÷ボア径の数値で割ったレシオを見ると……、
ヤマハのスクーター用エンジンが1.128
KTM DUKE、ホンダCB125Rのそれが0.813
そしてGSX-S125 ABSが0.664
超高回転型で知られる600ccクラスのスーパースポーツバイク、GSX-R600を例にとると、ボア×ストロークが67.0mm×42.5mmで、そのボア×ストロークレシオが0.634となる。それにGSX-S125 ABSのエンジンは近いのだ。スゴイ!
一般的にストロークが長いと低回転からトルク特性が豊かなエンジンになり、短いと高回転、高出力型などと言われる。ボア×ストロークで性能が語られるほど今は単純ではないが、それにしても攻めている。これがライディングフィールにどんな影響を与えているのか。さっそく走り出すのが楽しみになった。
やっぱり、攻めてる!
エンジンを少し暖機する。軽やかな中に迫力を秘めた小排気量単気筒の音が頼もしい。スラッシュカットされたマフラーエンドには2つの排出口があり、なかなかの粒の揃ったいい音なのだ。軽くアクセルを煽ってみても、レスポンスは悪くない。
車体周りを見ても、前後に履くタイヤが(フロント90mm幅、リア130mm幅)17インチながら細身に見える程車体デザインは大柄だ。しかし、その軽快なデザインによりラジアルを履くライバルと比較しても踏ん張り感はしっかりある。
そして発進した瞬間、思わずエンジンの事を強烈に印象付けられた。クラッチを繋いだ瞬間、エンストこそしないが、ミートした回転が低すぎますよ、とばかりにアクセルを開けても加速が鈍い。躊躇無くクラッチをにぎり直し、アクセルを大きく開いて、Moto3のスタートのように回転を上げ眺めに半クラッチを繋ぎ直した。 5000rpmをキープして発進したら、こんどはしっかりと加速とアクセルの一体感が出た。最初のミートは3000rpmから4000rpmの間、動き出して3000rpmを少し割るぐらいだったから、なるほど、ショートストロークのエンジンが活気づくには回転数が低すぎたのだ。
慣れの問題だが、ここまでキッチリ割り切った感じの特性とは驚いた。もっと重量のある125DUKEだって発進はラクだったように思う。しかし、そこまでの印象と5000rpm以上をキープしておけばこともなげに走ることから、いきなりスポーツマインドを直撃された。
頭を切り換えた。これは緩くないぞ!
低いギアでは6000rpmあたりからは思い通りの加速がはじまり、その勢いはレッドゾーンのはじまる11500rpmまで途切れなく続く。伸びが良い。シフトアップしても加速の繋がりがいい。気持ち良い。
制限速度まで一気に加速し、6速までまとめてシフトアップして回転数を落としてみた。平地で速度を保つならそれでもスルスル走るが、キビキビ走らせるにはシフトダウンとアクセルを開ける組立のようなものが必要だ(当たり前だが)。さっと増速するなら2速落として、瞬間移動なら3速落として……など、右手を大きく捻る出番は125スクーターよりコチラの方が多い。高い回転にこのバイクの面白さが凝縮している。これが一般道の制限速度のなかでも意外と楽しめるのが嬉しいのだ。
そんな走りの後ろ盾になっているのがブレーキ性能だ。タッチは適度な剛性感と減速感がブレーキ操作の入力に同期した印象で、シビア過ぎず緩すぎずスキルを問わず安心して減速を行える感じだ。
少しだけワインディングも走ってみた。これが面白い。が、最初はなかなか手強いのだ。
難しいのではない。ハンドリングは素直だし、このバイクなりのポテンシャルを引き出す楽しみも備わっている。手強いのはその先の部分。例えば上りタイトターン。軽い車体と軽快な旋回力を活かすために必要以上にライダーがアクションを起こさないことだ。寝かし込むような操作をすると、アクセルとエンジンを結ぶ繊細なトルクの糸が弛んだようになってしまう。駆動力と旋回性、そしてラインや進入速度と脱出速度、なんて細部まで細かくプログラムしておくと最高のコーナリングファンを楽しめる。あっという間に夢中になって駆け回る自分がいる。
走る、曲がる、止まるのバランスがとても良いし、改めて勉強になる。これは面白い。
いい大人にこそ、
遊んで欲しい。
そんな繊細で楽しいゲームを味わうために、上りはで大きなバイクの2倍以上。加速がラクになる下りでも、減速からコーナリングに入り、バイクと対話しながら走る面白さが3倍近く詰まっているように思えた。そしてスズキの得意分野である割安なプライスで、明快にツンデレなバイクと暮らせるのだ。言うなればGSX-Sは、125クラスのエキスパートスポーツ機種だといえる。こう書くと、ビギナーには難しいのでは、と思うかも知れないが、まっさらな状況で乗ったらこんなもんか、と思うハズ。楽しく走るのは難しく無いし、その上を狙ったライディングはどんなスポーツバイクでも盛っている共通の深みの部分のことだ。
これ、もしかしたら長年バイクに乗り続け、次なるフェイズを探している人に自己啓発で乗ってもらいたいほど解りやすくバイクのことを教えてくれる。そう、大きなバイクの感覚で125を見るのではなく、125のスキニーボディーから大きなバイクを見直す良いチャンスなのかもしれないのである。
(試乗・文:松井 勉)
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