■文:中村浩史 ■撮影:松川 忍
■協力:SUZUKI http://www1.suzuki.co.jp/motor/
BMWのGSシリーズを筆頭に
現在は「第二次」アドベンチャーブーム。
ただし、アドベンチャーとはいえ
オフロードにガシガシ踏み入っていくのは非現実。
日本の「アドベンチャー」って、こういうバイクだ!
ライダーの身長は178cm。 |
アドベンチャーといえば、真っ先に思い浮かぶのは、やはりBMWのGSシリーズ。この、1980年に誕生したR80G/Sをルーツとするモデルたちは、あの頃はアドベンチャーだなんて呼ばれず、「ビッグオフロード」なんて呼ばれていたっけ。
そのR80G/Sは、’81年にはパリ・ダカールラリーに出場し、優勝。その後も’83年から3連覇したBMWを、今度はホンダのワークスパリダカマシン、NXR750が破ることになる。この辺が「第一次」アドベンチャーブームじゃないかな。BMWのGSをはじめ、ホンダ・アフリカツイン(’88年発売)、ヤマハ・テネレ(’83年発売)が人気モデルになったし、カワサキ・天涯(’89年発売)なんてモデルもあったっけ。
その時、’88年にスズキから登場したのがDR-BIGだった。アフリカツインもテネレも2気筒エンジンを採用したのに対し、DR-BIGは750ccの、その後には800ccまで排気量アップした単気筒エンジンモデル。大ヒットモデルとは言えないけれど、ペリカンとか怪鳥、なんて呼ばれた、間違いなくスズキ車の歴史に残るエポックメイキングモデルだ。
あれから30年。いま再びアドベンチャーモデルがキテいる。BMWのGSシリーズはずっと販売が続けられて、800ccだった初期モデルが、1000cc、1150ccを経て1200ccへ。一方の日本車と言えば、まずヤマハが2010年にXT1200Zスーパーテネレを、’15年にはホンダがCRF1000Lアフリカツインを復活させた。
そしてスズキは、実はその第2期アドベンチャーブームに先鞭をつけるように、いち早く’02年にVストローム1000をデビューさせている。現在、日本国内仕様が発売されているVストローム1000は、’07年にモデルチェンジした後期モデルということだ。
実際に、日本に第二次アドベンチャーブームが到来したのは、ホンダがアフリカツインというビッグネームを復活させてからだろう。実際の販売実績の数字は別にしても、Vストロームもアフリカツインに引っ張られるように、注目度が高くなってきたように思う。テネレはちょっと出遅れちゃったけどね。
アドベンチャーカテゴリーっていうのは、そのルーツはビッグオフロードモデル。けれど、もちろん250ccのトレールクラスのように、ぐいぐいオフロードに踏み入っていくモデルではなく、「オフロードも苦にしない」ビッグツーリングバイクだ。
日本では久しく、ツーリングバイクといえば4気筒ビッグバイク、さらにハヤブサやZZ-R1400的メガスポーツがイメージされていたけれど、バイク乗りたちのツーリングスタイルが成熟したこともあって、街中も高速道路も、ワインディングも荒れた地方の下道も快適に走れるアドベンチャーカテゴリーに移行してきたのだろう。それってすごく自然だと思う!
いま、休日のツーリングスポットや高速道路のサービスエリアにいるアドベンチャーモデルは実に多い。しかも、しっかり走り込んでいるような他府県ナンバー、汚れも誇らしく、パニアケースやトップケースを装着したり。クルマでいうと、セダンやワゴン、ミニバンじゃなくて、クロカンやSUVモデルに当たる存在なんだろうなぁ。
ハヤブサとVストロームで長距離を走ると、どうしたってハヤブサの方が速くて俊敏だけれど、ハヤブサの「超高速」性能を使い切ることは非現実的だし、特に俊敏なフットワークは、ロングツーリングで疲れを感じることにもなってしまう。
そこでVストロームだ。旧TL1000S/RのVツインエンジンを搭載したアイポイントの高いリラックスポジションは、法定速度でクルージングするのが快適この上ない。例えばハヤブサで80km/hで走るのは、なんだか急かされるようで、ハヤブサが「もっと!もっと!」って言っているようで、ちょっと落ち着きがないのだ。その点、Vストロームの80km/hは、平和この上ない。ダラーッと、のんびりと、快適に距離を重ねていける――そんなフィーリングなのだ。
エンジンは低回転からトルクのある特性で、これがあのTLのエンジンとは信じがたい(笑)。初期TLは、ギアレシオの問題もあるんだけれど、低速スカスカ、そのかわりに高回転までガンガン回る水冷DOHC4バルブVツインだったから、SVでもかなり良くなってはいたけれど、Vストロームのイージーさは感動すら覚えるほどなのだ。
もちろん、スロットルを大きく開けると、スーパーVツインの片りんが姿を現す。けれどVストロームはそんなバイクじゃないものね、のんびりスーッと走ってこそ気持ちがいいオートバイなのだ。
けれど、Vストロームのキャラクターは、このハイパーVツインとアルミツインチューブフレームの組み合わせによる、もっとハイペースで走った時のピシッとスポーティな動きにある。のんびり走るけれど、たまにやってくる前車追い越しなんかで、ピシッとワープする。そんな動きが実にいい。
クルージングでは直進安定性の高さが光るし、ワインディングに差し掛かると、ハヤブサまでとは言わないけれど、結構なハイペースでコーナーをクリアするのも難しくない。さらに’18年にモデルチェンジされた現行型は、スーパースポーツ顔負けのモーショントラックブレーキが採用されていて、この安心感が実に頼もしい。
モーショントラックブレーキとは、ABSの介入を前後輪の速度差だけで制御するのではなく、車体の姿勢も検知して行なってくれるもの。さらにフロントブレーキ入力が一定量を超えると、自動でリアブレーキも効き始めるというコンビネーションブレーキも装備されているから、自然なABS介入のほか、前後輪連動もしてくれるブレーキなのだ。
それをちょっと、実験してみた。とはいえ、ライダー込み300kgもある車体をブンブン振り回すのは不可能なので、まずは直立した状態でガンとブレーキをかけてみる。
するとVストロームは、レバーやペダルへのキックバック(ABS作動時にグググッとレバーが押し戻されるような動き)もなく、スッと停止。これ、ハーフウェットの路面でもトライしてみたけれど、ブレーキをどんどん信頼してしまって、不安なくブレーキがかけられるのだ。
姿勢もセンシングしてABS介入度合いを制御するというから、コーナリング中にも、割と無造作にブレーキングしてみる。気持ちよくコーナーをクリアしている最中に、急にディボットがあったり、路面が立ち上がりの場所だけ濡れていたり、そんなツーリングあるあるなシチュエーション。
そんな時でもVストロームは、大きく姿勢を崩すことなく車体を直立方向に起き上がらせるようにスッと減速してくれる。これ、少しずつペースを上げていっても、変わらない動きなのだ。
スズキの説明では「コーナリング中にブレーキをかけても、物理限界の範囲で、バンクしたまま効率的な減速ができる」(Vストロームカタログより)とあるけれど、物理的限界なんてところまでいかなくとも、割と不用意にブレーキをかけても、Vストロームはビクともしないのだ。
この試乗中、不意にゲリラ豪雨を食らってしまった。アッという間に視界が悪くなり、西伊豆のワインディングを走っていたんだけれど、道のうねりや轍、そこに川が流れたりするものだから、とてもビッグバイクではペースを落とさざるを得ない局面。
けれどVストロームは、ビクともしないでがんがん不安なく前に進んでくれるのだ。高速道路でも雨を食らったけれど、ラチェット式に角度を変えられるスクリーンをカチカチと立て、頭をちょっと低くして走行続行。もう、ヘルメットにさえ雨粒が当たらない無音空間を作り出してくれた。ハヤブサだって同じ条件で走り続けられるだろうけれど、あのゲリラ豪雨はなぁ……。ハヤブサなら迷わずパーキングエリアに入るし、Vストロームなら、なんだかそんな走りも楽しくなってくる。条件が悪くなればなるほど、その力を発揮するのがアドベンチャーなのだろう。
雨風が止んだ普通の走行では、トップギア6速での80km/hは3000回転くらい。100km/hあたりで3600回転ほどで、Vストロームは、このエリアが本当に気持ちいい!
雨の日曜だって、嬉々として出かけたくなる――。アドベンチャーって、そんな新しい楽しみさえ教えてくれるカテゴリーなのかも!
(文:中村浩史)
フロントカウルから継ぎ目なく連続したデザインのタンク周り。650/250とのデザイン統一性もあり、V-Stromらしいデザインとなっている。ガソリン容量は20Lで、今回の取材での実走参考燃費は、平均燃費約21km/Lをマーク。メーターの瞬間燃費計ではやはり高速道路のクルージング時の燃費がよく、メーターでは6速100km/hで最高28km/Lを表示。 |
スクリーンは角度を手動で調整できる。座椅子をイメージしたというラチェット式のシステムで、ノーマル/15mmUP/30mmUPの3段階に調整できる。高さはスクリーンベースプレートへの取り付け位置を2段階に調整でき、これは工具が必要。オーナーの体格に合わせて高さを固定して、走行シチュエーションに応じて角度を可変させるとイージーだ。 |
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