■文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝/南 孝幸
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
デビューして3年、スズキGSX-S1000 ABSは
スズキのヒットモデルであり
ロングセラーの道を着々と歩み始めている。
今やどこへ走りに行っても
GSX-S1000 ABSに出会わない日はない、といっていい。
これから数回にわたって、ライバルモデルが登場します。
CB1000Rに、MT-10、Z900、そしてGSX-S1000 ABS。
第一弾、GSX-S1000 ABSは「長く乗るにつけ、良さがわかる」バイクだ。
ライダーの身長は178cm。 |
華々しいデビューを飾っても、今ひとつ人気が持続しないモデルがあるなかで、スズキGSX-S1000 ABSは、メーカーが目指す「長く愛される」ロングセラーへの階段を一歩ずつ上っているモデル。それくらい、GSX-S1000 ABSは休日のパーキングエリアで、ワインディングで、そしてサーキットのスポーツ走行でも本当によく見かけるようになりました。スズキのスマッシュヒット!
初期モデルの発売が2015年7月だから、もう3年。デビューイヤーに2500台ほどを売り上げて、今では決してフレッシュなモデルじゃないというのに、国産ビッグバイクの販売ランキングでは、ずっとベスト5近辺に食い込んでいて、17年の年間販売台数も約1000台ほどをカウント。3年目でのこの数字は、なかなかのヒットモデルです。
今では休日にツーリングに出かけてGSX-S1000 ABSと会わない日はない、と言っていいほど。あちこちでよく見かけるモデルの中では、GSX-S1000 ABSオーナーは、ちょっとツウっぽいというか、一時の人気に左右されない芯を持ってる、そんな感じがする場合が多いですね。
なにしろ、GSX-S1000 ABSは懐が深い。ご存知の通り、GSX-R1000用の水冷4気筒エンジンを積んでいる「スーパーネイキッド」として生まれたGSX-S1000 ABSなんだけれど、ベースエンジンの性格のようには強すぎない、何にでも使えるオールマイティなバイクなのだ。
スズキの開発コンセプトは「走って楽しいバイク」というもの。この目標って、ちょっとざっくりしすぎていて曖昧にも感じられるんだけれど、ここからさらに的を絞りこんで、開発要件を肉付けしていった。
走って楽しいとは? それは意のままに扱えること。
意のままに扱えるとは? パワーは強すぎず、使う頻度が高い回転域で力を取り出しやすいこと。車体でいうならば、ビッグバイクの重量を感じさせず、軽快さと安定性を両立していること。
さらに足着きが良く、スタイリングがカッコイイ、サウンドもキモチいいバイクにしたい――。GSX-S1000 ABSは、スゴい欲張りなバイク。けれど、それを達成したからこそ、今の人気があるのだと言っていい。
たとえば街乗りをすると、145psもある強力なエンジンなのに、クラッチミートからスッと車体が前に出て、ビッグバイクにありがちな(それが魅力のひとつでもあるんだけれど)発進トルクがドン! という大馬力感がない。ちょっとアクセルを開けすぎたら、自然に、いつのまにかトラクションコントロールが介入してくれる。
ツーリングに行くと、4000rpmも回していれば十分。6速80km/hは3300rpm、100km/hは4200rpmほどで、そのままスーッと走れるし、ここからパッと開けたときの反応も鋭い。これは、ワインディングをちょっとスポーティに走る時も同じで、ブン回さなくても──というか、1000ccスポーツモデルをワインディングでブン回すなんてナンセンスなので、4000~5000rpmでもう、十分。おなか一杯! なんというか、GSX-S1000 ABSを選ぶライダーは、そんな用途に使わない気がするんだよね。オトナというか、成熟したオーナーたちが多い気がする。
もちろん、GSX-R1000 ABS譲りのハイパワーも感じることはできる。これも、GSX-S1000 ABSを見ることが多いサーキット走行会にも参加したことがあるんだけれど、今度は高回転域のパワーの出方がきれいで、8000~9000回転くらいまでスムーズに回ってくれる。もちろん、GSX-R1000 ABSと並走すると、速さやラップタイムではかなわないけれど、たとえば初めてサーキットを走る時の「こわごわ感」は少ないし、スポーツランとしてサーキットランを楽しむなら、こんなに快適で高性能を味わいやすいバイクは珍しいといっていい。高性能を味わう、ではなく、味わい「やすい」というところがミソで、かつてスズキは「わかりやすい高性能」というキャッチフレーズを掲げてスポーツバイクを開発していた時期があったけれど、その考えは今でも脈々と続いている、というわけなのだろう。
ハンドリングのフィーリングも同じこと。これは、俊敏さと安定性を上手に秤にかけて、安定性を感じやすいハンドリングとしている。安定性を多く取りすぎると重ったるく感じてしまうこともあるんだけれど、GSX-S1000 ABSはそれがない。街乗りではひょいひょい振り回せるし、高速道路ではピシッと直進安定性がある、そんな両立の仕方だ。
これまで何度もGSX-S1000 ABSに乗ってきて、ひとつ気づいたこともある。それは、周りのライバル――それはCB1100だったりMT-10だったりZ900だったりがどんどん完成度を上げていく中、デビュー3年生のGSX-S1000 ABSを、少し古っぽく感じることもあるのだ。
これは、乗り比べて初めてわかるもので、具体的に言うと、リアが低くてシート高も低く、ステップが近いこと。リアが低いというのは、クイックに運動性を振りすぎていないことで、それはシートが低いのも同じこと。シャキシャキに運動性を上げたいならば、もっと車体姿勢を前下がり=後ろ上がりにして、シート高=ライダーの乗車位置も高くすればいいんだけれど、そうしていない。ここが、GSX-S1000 ABSの絶妙なところなのだ。
エンジンパワーも、ドンとくるより穏やかで、フットワークも俊敏というよりは安定性があって、特にフロントタイヤの接地感が大きいかな、スズキはこれを、街乗りのしやすさや高速道路の快適性につなげているんだと思う。長く乗って初めてわかる、スポーツツーリングバイクの懐の深さ──GSX-S1000 ABS人気の秘密は、ずばりここにあるのだと思う。
さらに、現行モデルは、初期モデルよりもパワー特性が洗練されていて、初期モデルで感じた荒々しさを感じなくなっていた。これは大きなパーツ変更があっての結果ではなく、どうやらECU(エンジン・コントロール・ユニット)が変更されているようで、目に見えない熟成が図られている証拠でもある。これも、スズキがGSX-S1000 ABSをロングライフモデルにしようとしているあらわれだろう。
自宅を出る、渋滞路を走って高速道路に乗り、ワインディングへ。
または自宅を出る、渋滞路を走って都心を抜け、交通量の少ないバイパスを使って距離を延ばすツーリングへ。
どの場面でも、GSX-S1000 ABSのオールマイティさは光る。1台持っていて、どんな用途にも使える、というのが人気モデルの秘密のひとつだけれど、GSX-S1000 ABSはそこにきれいに沿っている。唯一難を言えば、タンデムはお勧めしない(笑)。タンデムシートが小さいから、カノジョや奥様を後ろに、という考えは、短距離だけにしといたほうがいいかも。
それにもうひとつ。GSX-S1000 ABSの素晴らしいところは価格。GSX-S1000 ABS/1000F ABSの価格は、税抜き104万8000円/109万8000円で、ABS/トラクションコントロール付きの1000ccスポーツバイクがこの価格は、さすがスズキのコストパフォーマンス!
長く付き合える1台を探している、そういうバイク乗りって、少なくない。そういう向きは、ぜひGSX-S1000 ABSをご賞味あれ。
(文:中村浩史)
足着き性というより、足を「降ろしやすく」シート両サイドを削るのはスズキのお家芸。タンデムシートは小さく、快適性も今イチ。タンデムシート裏にはコードフック用のフラップが内蔵され、タンデムステップ部のフックと合わせ、荷物の積載性も高い。 |
ヘルメットホルダーはタンデムシート下のフックにヘルメットのDリングをひっかけるタイプ。 | テールランプはLED、前後ウィンカーはバルブ式。テールエンドはショート&アップシート+別体式ナンバーステーで、車体をコンパクトに見せるデザインとしている。 | リアサスはプリロードと伸側減衰力調整機構つき。サスペンションスプリングは柔らか目でよく動く設定。今回の試乗では標準よりプリロードをかけ気味で走行してみた。 |
エンジンは歴代GSX-Rの中でも、名エンジンと言われるK5/K6モデルをベースに、ストリート向けのカム、専用設計の吸排気系を採用。エキパイもGSX-Rよりワンサイズ細く、出力特性をGSX-S専用としている。K5/K6モデルをベースとしたのは、歴代GSX-Rの中でも低回転トルク型で、よりストリートでの使い勝手が良かったからなのだという。 |
GSX-S1000 ABSの人気ポイントのひとつが、このショートマフラーによる「音」。エンジンをかけたときのサウンドをより太く低く聞かせるよう、念入りにサウンドチューニングしたという。 | GSX-R用をベースに、より軽快で俊敏なハンドリングを目指したGSX-S専用フレーム。K5用は押し出し材を使用したメインフレーム、GSX-S用は鋳造材を使用している。 |
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