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前回のコラムで、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)のザクセンリンクサーキットでの強さを「マンガみたい」と評したが、予想していたとはいえ今回の優勝により9年連続ポールトゥウィンと記録を伸ばしたわけで、この事実の前にはもはや唖然とせざるをえない。過去に同様の記録があるかどうかを調べてみると、たとえば1965年から1973年まで、イマトラ(フィンランド)でジャコモ・アゴスチーニが9年連勝を飾っているのだが、この当時は入賞者やファステストラップの記録は残っていても、ポールポジション記録が保存されていないため、それが果たしてポールトゥウィンだったのかどうかは判然としない。いずれにせよ、今回のマルケスが達成した記録は、余人にはほとんど不可能な偉業であるといっても差し支えないだろう。しかも「なんとか凌ぎきった」り「ぎりぎりでライバル勢を交わした」りした結果ではなく、あくまで軽々とやっているかのように見えてしまうところが、この9年連続ポールトゥウィン記録の凄味でもある。
ただし、このおそらくは前人未踏の記録が来年以降も継続するのかどうか……、ということに関しては、戦いの舞台であるザクセンリンクサーキットのMotoGP継続が現状では不明瞭であるために、なんともいえない、というのが現在の状況だ。
ザクセンリンクサーキットは、現状のコースで1998年に開催されてから今年で21年目を迎える。当地での開催は、契約上2021年まで担保されていたのだが、関係者間の話し合いにより、来年からはニュルブルクリンクに移るのではないか、とも言われている。ニュルブルクリンクは、1997年までドイツGPとして(1990年までは西ドイツGPとして)ホッケンハイムと交互開催するような格好でレースが行われてきたのだが、ザクセンリンクとはコース特性も土地柄の気象状況も大きく異なる。そこに舞台を移したときにマルケスがいったいどんな走りを見せるのか、ということにも興味は尽きないが、関係者間での協議の結果、来年もザクセンリンク残留、となった場合には、さらに記録延長への期待がかかることになる。
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2位はバレンティーノ・ロッシ(Movistar Yamaha MotoGP)、3位にはマーヴェリック・ヴィニャーレス(同)が入った。ヤマハのダブル表彰台は昨年のオーストラリアGP以来。このときもマルケス優勝、ロッシ2位、ヴィニャーレス3位、というリザルトだった。
ロッシとヴィニャーレスは、今季それぞれ2位と3位を数回獲得しているものの、ヤマハは昨年のオランダGP以来優勝がない。今回のレースウィークでも、ロッシが金曜フリー走行終了後の囲み取材で「去年の8月から制御が良くなっていない」と述べた。「何度もヤマハとこの問題について話しているので、良くしてくれると前向きに考えたい」とややオブラートにくるむ様子も見せたものの、おそらくこれは、自らの発言を通じてメディアに記事化させることで、この領域の改善が喫緊の急務であるとヤマハの開発陣にプレッシャーを与えよう、という婉曲な刺激なのかもしれない。
決勝レース後にふたたびこの問題について訊ねられた際には
「加速時の制御はまだもっとほしい。シーズンは長いので、これからもがんばって日本にプッシュしたいと思う」
と述べた。
ヴィニャーレスも同様の見解のようで、
「車体面はステップを踏んで着実に良くなっている。制御面も、良くはなってきたけどまだ改善の余地がある」
と話している。
いずれにせよ、今の彼らは加速でのロスを埋め合わせるために乗り方やスロットルコントロールで対処している、ということなのだろうが、タイヤマネージメントでマルケスと互角以上の勝負をできるようにならなければ、現在のチャンピオンシップポイント差は少しずつながらも確実に広がっていく一方だろう。ちなみにランキング首位を走るマルケスと2番手ロッシの差は46点。ヴィニャーレスはその10点背後につけて、現在はランキング3番手である。
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今回、ウィーク序盤の走り出しから好調に見えて、レースペースでも高い水準を維持しているかのようだったドゥカティ勢は、ファクトリーのホルヘ・ロレンソが、いつものようにスタートを決めてレース序盤を引っ張ったものの、最後は順位を落として6位。
フロントはソフト、リアはミディアムというコンパウンドで決勝に臨んだロレンソは、レース後に
「(優勝を飾った)ムジェロでもモンメロでも、フロントはソフトだった。フロントは問題がなく、むしろ今回問題があったのはリアだった。序盤はとてもうまく走れていたけど、(タイヤのパフォーマンスが)落ちてきてからは、1コーナーでは特にワイドになってしまった。ラスト3周などは50メートル手前でブレーキしてもラインが大きくはらんでしまっていた」
と話した。
ドゥカティ勢のリザルトは、GP18を駆るサテライト勢のダニロ・ペトルッチ(Alma Pramac Racing)が4位、GP17のアルバロ・バウティスタ(Angel Nieto Team)が5位。そしてファクトリーのロレンソが6位、アンドレア・ドヴィツィオーゾが7位、という順位だった。
この結果に対してドヴィツィオーゾは
「4台のドゥカティの今日のリザルトには驚いてない。いつものことが起こっただけ」
と冷静に話した。
「プラクティスではスピードを発揮できたけど、でもプラクティスはあくまでプラクティスだから、ラップタイムに集中できる。レースはまた別もの」と話し、「プラクティスでもレース終盤でも、去年よりずっと速く走れているのはポジティブ。それについてはハッピーだけど、同じバイクだからDNAは同じ。やはり高速コーナーでは、ヤマハと同じように旋回できない。そこがレースでもっと苦労した部分。ただ、総じてドゥカティはこのコースで去年よりよくなっているのは確か」と、自分たちは着実にしっかり前進できているとも話した。
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ドゥカティ絡みのことでいえば、ロレンソが来季ドゥカティファクトリーからRepsol Hondaへ移籍することはほんの一ヶ月ほど前に発表されたばかりだが、あれからいろいろなことが発生したので、このニュースはすでに旧聞に属しているような趣さえある。
少し話題が飛ぶようだが、じつは今回中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)がHRCのアイディアによる新しいセットアップを金曜午後のFP2から導入し、それが非常に好感触だったようで、決勝レースこそ転倒に終わったものの、週末を通して非常にいいパフォーマンスを発揮した。この新しいセットアップは、中上によると「自分とロレンソのライディングスタイルが比較的似ているんじゃないか、ということで、来年のロレンソ用セットアップを試すわけじゃないにしても、レールに乗って旋回するような乗り方をうまく活かせるセットアップをHRCが提案してくれました」とのことだ。
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具体的には前後を20mm伸ばして車高を10mm上げているそうなのだが、じっさいにこれで中上はぐっと走りやすくなったようで、土曜の予選ではQ1で危なげない2番手タイムを記録し、Q2進出を果たしている。決勝は5周目にブレーキングのミスから最終コーナーでフロントを切れ込ませ、転倒で終えたものの、HRCレース運営室長の桒田哲宏氏は「転倒がなければ、おそらく9位か10位くらいでは確実に終えていたのではないか、と思います」と話している。次戦以降の中上のパフォーマンスには、日本人選手という以外の面でも、注目をする価値はありそうだ。
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来る人がいれば去る人もいる。というわけで、今回の走行セッションが始まる前の木曜に、ダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が単独会見を開き、今季限りでの引退を発表した。この一ヶ月ほどは、引退説を経てヤマハ陣営の新設サテライトチームへ移籍するのではという見方も有力になっていたが、今回のウィークを前にふたたび引退説が囁かれ出し、じっさいに本人の行った発表はそのとおりの内容だった。
2006年に最高峰クラスへ昇格した最初のレースで、いきなり2位を獲得して周囲の度肝を抜いてから、すでに12年。日本で言えば、干支がひとまわりする長期にわたり、ペドロサはずっと最高峰クラスを戦い続けてきた。その間、毎年少なくとも一度は優勝を果たし、最高峰クラスデビューイヤーのランキング5位を皮切りに、2位、3位、3位、2位、4位、2位、3位、4位、4位、6位、4位、と常にチャンピオン争いの一角を占めてきた。最高峰クラス12年間半の、ここまでの表彰台獲得総数は優勝31回、2位40回、3位41回。
彼のレースは残り10戦。この10回のレースで、少なくとも一度は優勝を獲得し、ここまで保ってきた「毎年最低一度の優勝」を継続して現役活動に終止符を打ってほしい。
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去る人がいれば来る人もいる、その2。ということで、最後にゴシップめいた話を少々。これまでも時おり噂に上っていたアレックス・マルケスの最高峰クラス昇格だが、どうやらこの週末に水面下で大きな動きがあったようである。彼のマネージメントを担当しているエミリオ・アルサモラが、アヴィンティア・レーシングのオーナーと交渉を持った模様で、とはいえ焦点のシートは競争率も高く、まだ最終的な落着には至っていない様子。最終的には、誰がどれだけの金額を用意できるか、ということにかかっているようなのだが、スペイン系チームがスペインライダーのペア(同チームのもう一名はティト・ラバトが残留の方向)でまとまるのはスペイン的に最も美しいソリューションだろうから、おそらくこの方向で話が進むのではないか、と邪推しているのだが、さて、じっさいにはどう動いてゆくでしょうか。
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そうそう、毎年多数の転倒者が発生するザクセンリンクサーキットの11コーナーは、今年初頭に急逝したラルフ・ヴァルドマンの名前が追贈されている。左が7つ続きながら丘を登り、急に右へ旋回して下るこのラルフ・ヴァルドマンコーナーでは、今まで毎年多数の転倒者が発生していたのだが、今年は全クラスを通じてゼロ。路面が良くなりタイヤ性能も向上したことのあらわれなのでありましょう。
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というわけで本日ここまで。次回第10戦はサマーブレイク開けの8月第1週、チェコ共和国ブルノであります。それまでの期間、わたくしは鈴鹿サーキットに赤福氷を食べに行きます。では。
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