■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■協力:Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home
ドゥカティ・スクランブラー。2015年のデビューから、シンプルな空冷2バルブLツインをパワーユニットに載せ、自らの歴史をスパイスにしたボディーを纏ってトレンドを刺激する赤いドゥカティの黄色い刺客だ。さすがライフスタイル物だけあって、そのファミリーにも意識の高いモデルが揃っている。そこに加わったモデルがデザート・スレッドだ。コンセプトの下敷きになったのは、スクランブラーで挑むデザートライディングの歴史。「今のスクランブラーをオフ仕様にしたらこれくらいでしょ」という意外にも本気の仕上げに驚きながら走りを楽しんだのだのである。
ライダーの身長は183cm。(写真の上でクリックすると、片足→両足、両足→片足着きの状態が見られます) |
デザート・スレッドって?
齢50代も半ばになる自分ですら実はスクランブラーがキラキラした時代は遠い昔だ。1950年代半ばから後半にかけてダートライディングを楽しむライダー達はロードバイクをオフロード仕立てにして走り回った。今で言うオフロードバイクが確立する以前、ロードバイクに大径ホイールと少し長いサスペンションを取り付けたダート走行向けバイクのことだ。
ロードもオフロードもまぜこぜで走るからスクランブラー。デュアルパーパスの由来も実はこの辺にありそうだ。いまあるオフロードバイクからすれば断然ロードバイク寄りだが、当時のライダー達はそれをあやつり野を越え山を越えた。中でも、アメリカ西部のライダー達は裏庭にある砂漠を駆け回ったに違いない。アメリカのムーブメントは、ダート遊びに夢中でドゥカティをはじめ、世界中のバイクメーカーに「スクランブラー」を所望していた。
そんなライダー達がアリもののロードバイクや、スクランブラーをベースに生み出した砂漠ライディング用カスタムバイクを当時「デザート・スレッド」と呼んだそうだ。このドゥカティ・スクランブラーに加わったデザート・スレッドは、そうしたライダー達が目指したサボテンの丘の向こうへとイメージを飛ばす、いわば冒険的な一台なのである。
でも、ボクの目には今日乗るドゥカティのデザート・スレッドがものすごく懐かしく見える。というのも、このバイク、スクランブラー時代を飛び越え80年代初頭に登場したモノサス搭載のトレールバイクに見えるからだ。
シートがタンクにのしかかる直前、2本サスリアショックからリンク式モノサスへと行く過渡期、カンチレバータイプのトレールバイクにである。足が長くてオフロードへのやる気が満ちあふれ、当時オフロード初心者だったボクの目を釘付けにしたあのバイク達、である。
フレームもサスペンションも専用設計!
2015年に3台のドゥカティ・スクランブラーからはじまった現代版スクランブラーを少し紹介しておこう。現在、ドゥカティ・スクランブラーはそのファミリーを増やし今や11モデルがラインアップされている。もっとも排気量が少ないのが、かつてドゥカティが初めてスクランブラーを生み出した1962年にちなみ、SIXTY-2と名付けられたモデルで、唯一400㏄を搭載し、いわゆる普通二輪免許で運転ができる。兄貴分よりパワーは少ないが持ち前の楽しさは太鼓判、ワクワクする走りが持ち味の一台だ。
さらに2018年は上級モデルとして1100が登場した。1100、1100スペシャル、1100スポーツの3機種がそれだ。
そして現代スクランブラーのルーツ的なポジションなのが800モデルだ。アイコン、フルスロットル、クラシックからはじまった展開にストリートクラシック、マック2.0、カフェレーサーが加わった。いずれもカスタムビルドされたかのような造り、各部への拘りが持ち味だ。
そしてこのデザート・スレッドは2017年に登場したモデルである。オフロードを走るために強化されたフレームを持ち、前後に200mmのストロークを持つサスペンションを備える。ベイシックなアイコンが前後とも150mmのストロークだから思い切った数値である。また、サスペンションコンポーネントも専用となっている。アルミリムとスポークで構成されるデザート・スレッドのホイールは、前輪が19インチ、後輪が17インチ。また、ピレリ製のスコーピオン・ラリーSTRというブロックタイヤライクなストリートタイヤを標準装備する。このタイヤ、デザート・スレッド用OEMとして世界デビューを果たし、その後アフターマーケットでも話題となっているタイヤだ。その他のスクランブラーがダートトラック風なトレッドのタイヤを履くのに対し、タイヤのトレッドからして、こちらは砂漠イメージなのだ。
跨がってもしっかりオフ風味。
跨がってみる。アイコンなどが備えるアップベンドなハンドルバーよりもフラットな形状になり、グリップエンドが高くない。アイコンなどではハンドルバーも往年のスクランブラーをオマージュしたディテールだった。シート、ステップ、ハンドルグリップの位置関係からライダーの上体が直立するよう感じになり、右手の開け閉めにガッツのあるレスポンスを示した2017年モデル以前ではドンツキ感がある印象だったのもこのポジションと無縁ではない。
このデザート・スレッドのグリップ位置は、両肩から腕を斜め下にすんなり落とした自然な場所にある。これもオフ車的なポジション。燃料タンクは他機種と同様、縦長感があって巧く時代感を醸している。今日乗ったブラックのデザート・スレッドが持つグラフィックは、ポップカルチャーとサイケとの中間点にあるような70年代ムード満点のもの。個人的に相当にグッとくる。
ステップはムルティストラーダにも使われるアルミ製のもの。ステップの上に装着されたラバーを外せばエッジの立った歯が現れるという仕掛けになっている。これならダートでもレースアップのブーツやハイカットのスニーカーでもソールが滑って恐い、ということもなさそうだ。
ブレーキペダルやチェンジペダルは肉厚なスチール製。本気でオフロードを考えたデザインになっている。転んで曲げても手や工具でエイヤ!っと戻せる仕立てだ。
シートは一体式ながらライダーの座面が少しくぼんだ形状になったシート。先端部分は絞り込まれたものだ。840mmというシート高ながら、足着き感は上々。なによりシートからすとんとまっすぐ足が路面に着けるのでしっかりとバイクの重さを支えられる。スリムなエンジン、フレームもその足着き感に+になる。
200㎏を越す車体を意識させない軽快さ。
エンジンは空冷Lツインらしい歯切れの良い音が印象的。LCDモニターのメーターは、丸型ながら全部がデジタル表示される。レイアウトもユニーク。回転計もつくが、その数値を細かく追いかけるより、実際に右手のひねり具合とライダーの感性で使いたいところ、「使ってね」というタイプ。神経質さはどこにもない。
その動き出しは以前のモデルに比べ扱いやすくなった。アクセルの開けはじめがとってもマイルド。上体がグワっと持って行かれることがない。
市街地でのハンドリングは左右にスイスイと寝て向きを変えるドゥカティ・スクランブラーのファミリー他機種よりも若干マイルドに感じる。それは左右に寝かす時の感覚がおっとりしている感じでもあり、ホイールベースの長さや、フロントホイールが19インチになったこと、さらにサスペンションが長いというのもそうした印象の源泉となるようだ。このばいくにはこのリズムが合っていると思った。
このハンドリングは充分に一体感があり楽しめる。800㏄エンジンが生み出すトルクにより速度はラクに乗る。クラッチも重すぎず操作感がよい。フロントブレーキはφ330mmプレートと大径ながら、こちらもがっつく制動力ではなく扱いやすい特性が特徴だ。サスペンションの動きと制動力はよく調教され、リアブレーキとのバランスも良い。バイク全体のチューニングが綺麗に整っている印象だ。
高速道路に入った。クルージングは排気量に支えられとても楽だ。ただ風との闘いになるので長時間飛ばす人にはツライだろう。だがこのデザート・スレッドで高速道路をかっ飛ぶ必要もないだろう。市街地、高速道路を通じてタイヤのノイズは低め、乗り心地にパターンから想像するゴロゴロ感もない。快適だ。乗り心地もマイルド。ハンドリングにも怠さはない。
峠も得意科目。
デザート・スレッドの車体とエンジンのフラットなトルク特性がとってもマッチングするのがワインディングロードだった。長いサスペンションながら、フワットした乗り味ではなく、しっかりと減衰が効いたダンパーによりロードスポーツ的な走りをしてもしっかり応えてくれる。S字の切り返しでも遅れ感が無く、下りヘアピンにアプローチしても、旋回性がもっと欲しい、というような場面は無かった。逆に想像以上に走ることに気分がよくなったほど。
スクランブラーがロードバイクベースなんだから、当たり前だろう、ということなのだが、前後に装着する長いサスペンションを見ればいわゆるフツーのスクランブラーとは異なるキャラのデザート・スレッド。それでも満足感ある走りを見せるのはさすがドゥカティ。フロントの接地感がしっかりある。
上りの逆バンク気味になるカーブでも安心して走るグリップをタイヤは発揮したし、車体を寝かしたバンク角のどこかから急に旋回力が落ちることもなかった。
なるほど、これはオモシロイ!
太鼓判押せるオフ性能。
短時間だけどオフロードも走ってみた。まずは荒れ地。斜面や石が転がり、雑木林の枝が落ちたギャップの多い場所だ。ロードで見せた前輪のしっかりとした接地感があったから、前輪の分担荷重がそこそこあるね、と思っていた。これは柔らかい路面に行くと、もしかしてフラフラ取られるのかな、と心配したがこれまた杞憂だった。
デザート・スレッドはそんな路面でもしずしずと安定して走ってくれる。フロントに与えられたフルアジャスタブルのフォークは速度域に合わせて少し減衰をいじればさらに安心感が増すだろう。フロント荷重をかけたり抜いたりしやすいハンドルバー、ステップの位置関係も良かった。なんだか、マニアックなものいいだけど、オフロード派としてこの段階ですでに「できる!」と以心伝心するデザート・スレッド。その名に偽りなし。
フラットな林道も走ってみた。スタンディングポイジションがばっちり決まることや、その状態でブレーキングやシフトチェンジがしやすいステップ周りもあって走りをとても楽しめた。タイヤのグリップバランスも良好で、けっこうがんばってくれる。ブレーキングをしても無愛想に制動直後からABSが介入してこないことも好感が持てた。減速感をちゃんと引き出すコトが出来る。
カーブで少し寝かしながらアクセルを開ければ、ババババっと引き出しやすいトルク特性で後輪を軽く流し、フロントを行きたい方向に向けることも意外に簡単。その時の前後重量バランスも良好で、フロントタイヤの挙動に心配な点は無かった。これなら本当にデザートを走れるかも。
結論からいうと、このバイクはオモシロイ。ボクはスキになった。
オフロードのスキルがあってもこれからオフを楽しもうという人にもお勧めできる。今、免許制度の関係もあって250クラスからオフを始める、という人ばかりではない。アドベンチャーバイクがマイファーストオフロード、と言う人が多いのだ。そんな人にとって、高速移動も峠道も楽しめて、フラットダートに分け入る勇気が持てる。これで嵌れば、さらに250クラスに進む、という手もある。トルクがあって車重があるから、実はライダーが積極的にしなくても走りやすい特性があるのもこうしたビッグオフの隠れた魅力。幅広い遊び相手としてこのお洒落なバイクが機能するのは間違いないからだ。
(試乗・文:松井 勉)
エンジンは空冷Lツイン、OHC 2バルブ。ユーロ4対応になったユニットは、以前の803㏄スクランブラーが持っていたスロットル開けはじめのドンツキが姿を消し、マイルドで開けやすい特性になった。パワー、トルク感は同等に感じるため、上質感が加わった印象。ケースカバーやカムドライブベルトのカバーなど、デザインされたものがスクランブラーの特徴でもある。 |
ステンレス製のエキゾーストパイプ。その取り回しなどLツインを強烈にイメージさせる。マフラーエンドは2本出しとなる。エンジン下部を覆うスキッドプレートもオフロードを意識したものが装着される。 |
ステップ周りもデザート・スレッドならでは、の部分。ブレーキ、チェンジペダルは鉄製。転んで曲がっても力で戻せる素材を使う。また、アルミ製ステップは上部のラバーが簡単に取り外せることで、オフロードでもブーツのソールをしっかりグリップする。 |