大阪および東京モーターサイクルショーで日本初公開されたドゥカティ・スクランブラー・ファミリーの新型車スクランブラー1100。スタンダードモデルである「スクランブラー1100」に加え、スポーツバージョンの「スクランブラー1100スポーツ」、より上質なパーツを装着したカスタムモデルの「スクランブラー1100スペシャル」の3モデルがラインナップ。日本では夏前後の発売が予定されている。そして日本導入に先立ち、ポルトガル・リスボンで国際試乗会が開催された。そこで体験した「スクランブラー1100」を紹介しよう。
■試乗・文:河野正士 ■写真:DUCATI
■協力:DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/oCWFRJocFTc |
2014年に発表され、2015年から市場投入されたスクランブラー・ファミリーは、2017年末までに4万6000台を販売した。単純に販売した3年で総販売台数を割ると1年で1万2000台となる。2017年のドゥカティ全体の総販売台数は5万5871台。8年連続で成長を続け、2017年は前年比0.8%増となった。そのなかで年間1万台を超す販売台数を記録するスクランブラーが、ドゥカティ・ブランドのなかでどれほどパワフルなブランドであるかは、容易に想像がつく。
ご存じのようにスクランブラーは、「ドゥカティとは異なるブランドである」と、デビュー時から謳い続けている。もちろん開発や製造はドゥカティ社内で行われているが、モデル開発におけるあらゆる場面、そしてブランディングや販売戦略において、ドゥカティとスクランブラーは明確に区別されている。したがって環境性能と運動性能を高次元でバランスさせるため、水冷化や電子制御技術を積極的に開発および採用するドゥカティ・ブランドのプロダクトとは違い、スクランブラー・ファミリーはバイクが本来持つメカニズムとそれによって生み出される純粋な乗り味を大切にし、またその機械的な美しさや金属素材が持つ独特な力強さを守り続けてきた。そしてそれによってスクランブラー・ファミリーは、ライバルたちがひしめくネオクラシック・カテゴリーとは少し距離を置き、独自の路線を悠々と歩くことができた。
今回試乗したのは、より上質なパーツを装着したカスタムモデルの「スクランブラー1100スペシャル」。前後サスペンションは1100スタンダードと同じ。ハンドルには1100スポーツと同じ低く構えたバーハンドルを装着。このスペシャルのみ、前後にスポークホイールを装着している。 |
そのスクランブラーが空冷の1100ccエンジンで欧州の排出ガス規制であるユーロ4をクリアしたこと、さらには車体の動きや加減速の状態などを測定するIMUを搭載し、それを元にしたコーナーリングABSやトラクションコントロールを標準装備したこと。さらにはアクセル操作に対するエンジンのレスポンス/最高出力/トラクションコントロールの介入度が異なる3つのライディングモードを装備したことは、世界中の二輪市場で存在感を高めるネオクラシック・カテゴリーで勝負すると、判断した証と言えるだろう。
そうなったとき、今回搭載した空冷2バルブのデスモドロミックエンジンは、非常に魅力的だ。その排気音はもちろん、エッジの効いた不等間隔のシリンダー内の爆発感は、唯一無二。パフォーマンスはもちろん、自分が何者であるかを主張するエンジンの存在感は、ネオクラシック・カテゴリーにおいて、不可欠な要素だからだ。
試乗コースは、郊外のワインディング。スクランブラー・ファミリーであることから、街中や海沿いのコースをノンビリ流すかと思いきや、徹底的にワインディングを走った。 |
そしてスクランブラー1100を走らせると、なんとも言えない懐かしさを感じた。ドゥカティのデスモ・エンジンは、ロングストロークのビッグツインエンジンとはまったく違う、ビッグボア、ショートストロークエンジンが生み出す“硬い”爆発感が特徴だった。しかし制御技術の進歩やさまざまな技術革新によって、それは徐々に丸みを帯びて来たというのが個人的な印象だ。しかしスクランブラー1100では、その懐かしい“硬さ”を感じる。それでいながら、扱いにくさを感じないのである。
開発者たちに話を聞けば、彼らはパワーよりも中低回転域で発生する大きなトルクと、そのトルクの出方にこだわり開発を重ねたと語った。それを証明するかのように、88Nmの最大トルクは4750回転という低いエンジン回転域で発生している。今回の試乗では道幅が狭く、葛籠折れのワインディングを多く走った。そこではエンジン回転が大きく落ち込むような場面もあったが、シフトチェンジやアクセル操作にさほど神経質にならず走ることができたのは、そのエンジン特性によるところも大きい。
トルクフルなエンジンは、道幅が狭く、奥で曲がり込んでいるようなコーナーが続くワインディングでは非常に心強い。エンジン回転が落ち込んでからでも、アクセル操作だけで車体をグイグイ加速していける。 |
またフレームおよびスイングアームも、この1100用に新たに開発されたものであり、銘柄こそ同じながら120サイズのフロントタイヤも新規開発されている。それによってスクランブラーらしいオーセンティックなスタイリングを持ちながら、近代的なスポーツライディングも楽しむことができる。1100ccモデルらしい威風堂々としたスタイルをあえて造りあげたというだけあって、タンクやシートはマッチョだが、前述したエンジンフィーリングで車体をグイグイ前に押し出していくし、モンスター・シリーズでアップハンドルにおけるスポーツライディングのカタチを造り上げたドゥカティだけに、ハンドリングも軽快だ。
スタイリングは、どこから見てもスクランブラーだが、排気量を拡大したエンジンと、ライディングをサポートする電子制御技術の投入で、さらに走る楽しさを高めた。1100の投入によって、スクランブラー・ファミリーはその守備範囲をさらに広げたと言える。 |
カフェやデザートスレッドなど、共通エンジンを使ってモデルレンジをヨコ方向に広げて行ったスクランブラー・ファミリー。そこにスクランブラー1100の3モデルを追加することで、スクランブラー・ファミリーはその守備範囲をタテ方向にも大きく広げたと言える。
今回試乗できたのは「スクランブラー1100スペシャル」だけだったが、前後にオーリンズサスペンションを装着し走りのポテンシャルを高めた「スクランブラー1100スポーツ」や、スペシャル/スポーツとは異なるややアップライトなハンドルを装着したスタンダードの「スクランブラー1100」が如何なるフィーリングなのか、大いに気になる。それを試すには、夏前後の日本導入を待つしかないのだが……。
ライダーは身長170cm、体重68kg。両足のかかとが少し浮くものの両足をしっかりと地面に着けることができる。 |
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