サスペンションが新しい。しゃがれたエキゾーストノートが新しい。コンパクトさを思わせる減量ボディーが新しい。なにより、メーターパネルに見る時代性が新しい。そこまで新しいのに、6時間も走らせ、乗った後の印象はやっぱりゴールドウイングそのものだった。でも、そこに見た「らしさ」と「新しさ」そしてその魅惑とは。たっぷり紹介したい。
■試乗&文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
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ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
マイナス41kgのインパクト。
試乗の簡単なブリーフィングを済ませ、まず開発陣が僕達に見せたのは減量を印象付ける体重測定だった。4輪のコーナーウエイトを量る精密な測定器に旧型、新型を載せ、その車重を比較してみせたのだ。取り囲むジャーナリスト。粛々と進める作業。言ってみれば、それだけなのだが、やはりマイナス41kgというインパクトはデカイ。この日、僕達の試乗に用意されたゴールドウイングツアラー・DCT+エアバッグモデルの車重は383㎏。ハイ、確かに新型だって充分な重量級だ。それでも、先代のゴールドウイングのバガー系モデル、F6Bの2013年型モデルの385㎏より2㎏軽く、翌年マイナーチェンジを受けてリバース機能を持ったF6Bだと392㎏になるから、9㎏も軽い。といったらちょっとした驚きではないでしょうか。さらに、ゴールドウイングのエアバッグ+ナビ付きモデルだとその重量は425㎏だったから、どれだけ軽いかが解る。
スペック的に見たら、先代は5速MT、これから乗るのはDCTの7速だ。
実際に新しいゴールドウイングツアラーと対峙すると、一クラス小型になったようなコンパクトさを感じる。先代のゴールドウイングと3サイズを比べると、全長×全幅×全高で、それぞれ-55mm×-40mm×-95mm~+30mmとなっている。全高は電動スクリーンの可動領域の差によるもの。
とにかく外観のボディーの面構成を見ても、ふっくらした印象だった先代から直線基調のものになっている。スクリーンを可動式として面積を小型化したり、フェアリングデザインそのものをコンパクト化している。左右のシリンダー上部、ライダーの膝前にみっちり並んでいたスイッチ類は、すべて左右のスイッチボックス(つまり手元)か、タンクシェルター中央分にレイアウトされている。この部分だけをみても、ゴージャスツアラーから、スポーツツアラーに変身! というフレーズを思い付くほど、跨がったライダー視点から見える風景が異なっている。
ダブルウイッシュボーンサスの効果。
歴代ゴールドウイングの中でも、1100時代に登場したインターステートや上級モデルのアスペンケイドの登場で、ロングディスタンスツアラーとしてのシンボルとなったゴールドウイング。その後も1200、そして1500と進化を続けてきた。デザインも1500にモデルチェンジした時点で現在へと続くメカニズムを包み込むようなカバードスタイルが完成したとしていいだろう。
例えば新型は先代同様、片持ちスイングアームのプロアームを採用する。RC30 だったら、それだけで自慢のディテールになるが、そうした部分を外観意匠に包み込んだ点で目立たないのがゴールドウイングの特徴でもある。先代では初期型こそフロントフォークやディスクブレーキなど徹底したカバード仕様は後期型になるほど薄れたが、基本的に新型もその系譜は踏襲している。
その中でコンパクト感の源泉の一つにもなっているのがフロントサスペンション形式にダブルウイッシュボーンを採用したことだ。アッパー、ロア上下2本のアームでフロントフォークと、フォークホルダーを懸架することで、いくつかのメリットがもたらされた。
フォークとフォークケース、上下のアームにより、転舵と剛性保持を受け持ち、前輪を懸架するダブルウイッシュボーン。ホイールストロークを受け持つスプリングとショックユニットを一体化させた(いわゆるリアサスのような)フロントクッションユニットは、その動きを減衰させたりすることに役割を集約することができる。つまり転舵とスプリング+減衰の仕事を分割しているのが特徴だ。
こう書くとややこしいが、いわゆるコンベンショナルなテレスコープタイプのサスペンションは、クッションユニットそのものが前輪を懸架し、衝撃吸収のためにストロークし、そして旋回するためにユニットごと転舵する。重量車であるゴールドウイングの場合、そのフォークのインナーチューブの外径サイズは太くなり、左右2本のフロントフォークのスタンスも広い。
また、ブレーキングや路面要因によりストロークすると、インナーチューブとアウターチューブの間にあるブッシュに摺動抵抗が生じながらストロークする、という特性を持っている。また、乗り味の要である剛性バランスも重要だから、転舵、懸架、衝撃吸収、保持剛性などテレスコープタイプのサスペンションはシンプルだけど、仕事役割が多いことになる。
ユニットが転舵で左右に切れるのはダブルウイッシュボーンのフォークも同様だが、構造上、フォークホルダーから上は転舵しない(いわゆる自転車のフォークとフレームの関係にも似ている)から、フレームのフロントエンド周辺のスペースをコンパクトにできるのだ。先代と比較すると、転舵時の慣性マスは40%以上軽減できたという。
このサスペンションの採用も、新型のコンパクトネスに貢献している一つなのだ。また、ストロークすると車体側に前輪が接近する特徴を持つテレスコープタイプのサスペンションとは異なり、上下2本のアーム長、ピボット位置により、ストロークする時、孤を描くように前輪軸が動く。つまりサスがストロークしても、タイヤがエンジン側に接近しないのだ。また、ジオメトリーの設定によりブレーキング時のノーズダイブ感の低減にも効果を持つ。
このエンジン側に突っ込んでこない前輪の恩恵で、前輪分担荷重にとって理想的な位置にエンジンを前進させて搭載することや、そもそもコンパクト設計となったエンジンとの相乗効果でライダーやパッセンジャーの快適性を向上させつつ、乗車位置を先代比36mm前進させることができたという。これはハンドリングに大きく効きそうだ。
また、リアサスペンションのショックユニットのマウント部分にはボールジョイントを使うことで、リアスイングアームが荷重でたわんだ場合でも作動性を良好に保てるため、乗り心地向上にも役立っているという。
そしてアルミダイキャスト製となったメインフレームは剛性バランスを最適化する目的もあり、リアショックユニットのアッパーマウントブラケットを別体パーツとするなど、ユニークなトライも行われている。
オーバースクエアからスクエアになった水平対向6気筒。
新型のエンジンはコンパクト化を図るために様々な手法が採られている。排気量そのものは、先代の1832㏄から僅かに増えた1833㏄。そのボア×ストロークは73mm×73mm。圧縮比は10.5だ。先代がそれぞれ、74mm×71mm、9.8だったから、ボアを縮小し高圧縮比化されている。
このボア小径化による効果と、クランクシャフトに高剛性な部材を使うことでクランクウエブを薄肉化。それにより、シリンダーボアピッチが9mm短縮されている。水平対向エンジンがもつ左右シリンダーのオフセットも4mm短縮させている。このほか、先代ではクランク前端にあったクランクポジションセンサーのピックアップ部をクランク後部に移動。これによりエンジン前部のカバーからクランクまでの距離を7mm短縮している。全体では、エンジン前端から左シリンダー後部までの距離が先代比29mmも短くなっている。
バルブ周りはOHCなのは同様ながら、ヘッド周りのコンパクト化に貢献するホンダのソリューション、ユニカム方式が採用され、吸排気バルブも従来の2バルブから4バルブ化された。インテーク側はフィンガーフォロワーロッカーアームを、排気側はローラーロッカーアームを介してバルブを駆動するもので、2018年モデルのCRF450R、RXに採用された最新の新世代ユニカム方式を採っている。従来、インテーク側はカムがバルブを直接押していたが、ロッカーを介する点で新しい。この方式だと、カム山を低くしてもロッカーアームの形状でもリフト量を変えられる可能性があり、カムの小型化にも有利だという。
この吸排気バルブ用ロッカーアームの支点となるロッカーアームシャフトを双方で共用するという小技も使われている。
コンパクトネスはもちろん、長いモデルライフを持つ(であろう)ゴールドウイングだからこそ、こうしたヘッド回りが今後のパワーアップや環境規制強化など、拡張性を求められたときに余地をもった設計なのだろう。
また、エンジン始動方式もアップデイト。発電機能を担うジェネレーターにバッテリーから電力を供給、スターターモーターとして活用するISG、インテグレーテッド・スターター・ジェネレーターを採用。アイディアとしてはACGスターター同様ながら、ISGはヘリカルギア駆動となる。いずれにしても、始動音から「キュルキュルキュル」が無くなっている。なにより、発電系と始動系モーターを共用することで、新型のテーマでもあった軽量化に貢献している。
もちろん、電子制御系も大きくアップグレード
2018年の今、プレミアムクラスのバイクは電子制御系デジタル装備が満載だ。そのデジタル関連がどのようにアナログ感触に落とし込まれ、ライディングの魅力を演出し、機能しているのか。その拘りとチューニング術が問われている、とボクは思っている。
もちろん、新型ゴールドウイングにももはやデフォルト、というべき装備は多い。スロットル・バイ・ワイアー(TBW)の採用はもちろん、走行シーンを想定したライディングモードも搭載されている。ツアー、スポーツ、エコノ、レインという4つのモードを切り換えると、スロットル操作に対するレスポンス、トルクコントロール(いわゆるトラクションコントロール)のライディングモード連動制御(ゴールドウイングツアラー)や、電子制御となるデュアルコンバインドブレーキとABSの制動具合、前後サスペンションの減衰圧をスイッチ一つで変更してくれるのだ。つまり、エンジン、ブレーキ、サスペンションが変わることで、ライダーの意図に近い「1台」にトランスフォームするわけだ。
他にも、坂道発進の補助アイテムがあり、ライバル達の多くが装備するヒルスタートアシスト、電動プリロードアジャスターも、ライダー1人、1人+荷物、2人乗り、2人乗り+荷物という4つのセットをイラストで選択するタイプに変化させるなど、アップデイトも行われている。
TBWによりクルーズコントロールの制御も滑らかになっているという。
見えない所よりも……。
ボディーに隠れた部分もそうだが、多くのユーザーにとって注目なのは乗る度に実感できるライダーとのインターフェイスの進化だろう。ライディング中ながめることになるインストルメントパネルは、中央にTFTカラーモニターを採用し、左右に速度計、回転計を配置した横に幅広のレイアウトだ。ナビ装備の仕様を用意した先代とは異なり、今やAppleのCarPlayを使って、音楽や電話、そして地図アプリとSiriを使って目的地設定をしてナビを使うことができる。ガラケー愛用の御仁も、いよいよゴールドウイング用にiPhoneとBluetoothのヘッドセットがあると便利な時代です。
そうした“見え方”が新しいのはもちろん、スイッチ類もハンドル回りから操作できるのも嬉しい進化だ。
あ、軽い!
ナニはともあれ用意してくれたヘッドセットをヘルメットに装着してもらい、キーを受け取った。LEDライトが造る切れ長なフェイス。全体のコンパクトさを印象付ける押し出しよりもクールさを前に出したデザインだ。ボクには新型の前後フェイスはどこかNSXを思わせる。ともにホンダのフラッグシップだから、意図した共通性ならこれはこれでカッコいいと思う。
もちろん、キーはスマートキー。ま、新しいPCXもスマートキーですから、ゴールドウイングではもはや必然でしょう。
キーを持っていれば、跨がってイグニッションスイッチを回せばゴールドウイングが起動する。左右とリアのトランクも最近のクルマ同様、触れるだけでオープナーがアンロックしてくれる仕組みだ。トップケースを開け、自分のiPhoneを所定の場所に据え付けUSBソケットにライトニングケーブルを接続する。左のスイッチボックスからホームボタンを押すと、モニターの中にCarPlayのアイコンが出る。そこからマップを選択すればナビ画面として活用できる。
スイッチ一つでヘッドセットに音を飛ばすか、スピーカーから音を出すかも直感的に操作可能だ。
さあ、走り出そう。サイドスタンドを外し車体を起こすと、思わず「軽ぅ!」と言葉が口をついた。シュっと起きる。383㎏という数値から連想した鉄の塊感がない。スタータースイッチを押すと、一瞬置いて(というか、キュルキュル音がしないのでそう思うだけかもしれない)エンジンが始動する。その音はフラット6そのもの。それでいてシューンというスムーズさだけではなく、開ければシャウトするんだろうなぁ、という予感をさせる排気音を奏でている。
DCTのセレクターも質感があり、NからDを選んだときも、カチョンという今まであったエンゲージ音がコクンという程度に低減している。これにも高級感あり。
会場となった日本平のホテルから海へと続く細い道を下ってゆく。7速DCTは下り坂を感知して4速で適度なエンジンブレーキを効かせて走る。40km/h程度でもしっかり後輪が速度上昇を抑えてくれるので、ラクチンだ。
ブレーキはリアの制動感がもう少し高いと嬉しいな、という感じか。ブレーキの操作感や制動力に関しては慣れてくるほど、良い味に感じてきた。市街地の停止直前、20km/h程度からリアペダルだけで制動する場合のみ、もう少し操作力を減らした減速感を引き出せるとより好みだ。
自分と新型ゴールドウイングのチューニングが進むほど、乗り味がコンパクトでしっとりにもスポーティーにも自分次第で走りを描けるコトが解ってきた。例えば、高速道路の入口から本線合流するまでに回り込んだランプを駆けるような時、フロントタイヤの接地感がとてもよくわかる。
ライダーがあえてナニもしなければ、ゴールドウイングの旋回感は一体感がありながらもゆったりとしてもいる。少しハンドルバーを曲がる方向と逆に押してやるとシュッとした曲がり方も見せる。どうやらこの辺は狙った味付けのようで、先代がもっていた「意外に鋭いのね!」とにんまりするような部分を、あえて引き出さないしっとりしたハンドリングにしているそうだ。
ステップを踏んでスパッと寝かした時の前輪の転舵感も気持ちが良い。もちろん、ゆったりと寝かして行く時、フロントタイヤの切れていく速度は穏やかになるからナチュラル感はしっかりと表現されている。
また、ダブルウイッシュボーンとなって、前輪懸架の支持がフレーム本体となっているため、テレスコープタイプでは不可避なグリップエンドへ伝わる路面のコツコツ感が極めて少ない。手から感じる乗り心地がいいのだ。
高速道路で実感したのは、フェアリング類のエアマネージメントもなるほど、という完成度だった。試乗当日は風が強い状況で、時には直進していても横風で車体を寝かせながら走るという状況だった。高速道路では向かい風の場面もあったが、その中をゴールドウイングは快適に走り続けた。スクリーンを最も低い位置にしていても、最上段にしても快適さは増すが、巻き込みドラッグで背中が前に押される感触もなし。これは疲労感低減に大いにプラスとなる。シートやライディングポジションもコンパクトに感じるし、この辺に車体バランスの最適化と重量低減の合わせ技をした新型はランチをはさんで6時間走らせたが「え、もうそんなに経ちましたか!」という印象だった。
7速DCT+フラット6の威力。
これまで2気筒、4気筒と組み合わされたDCT。ゴールドウイングのフラット6とはどうなのだろう。まず最初に驚いたのは、まるでトルコンATのごときクリープするがごとく低速まで駆動伝達を粘ってくれること。これは低速ターンの時など実に頼もしかった。2人乗りでUターンした時の駆動の伝わり方も安心感があったし、右折待ちでソロリソロリと前進するような場面でもNC系のようにスっと駆動がアイドリング回転付近で消えることが無かった。
開発担当者によれば、アイドリングプラス100回転ほどでクラッチを切ること自体はNCやVFRとも変わらないそうだが、そこはフラット6、排気量とマルチシリンダーの成せる技で、アイドリングがコレまでのモデルよりも低く、結果的に低速まで駆動力が活かせるとのこと。そして、駆動を切る時のクラッチの制御にも、低速での取り回しを考慮して半クラッチ制御で粘り感を出しているのだとか。なるほど。これはいい。
DCT7速はギアレシオ的に先代の1速から5速までの減速比内を7つに振り分けたようなものだそうだ。同時に新型のMTモデルの1速~6速とも同様。MTモデルの1速~3速の範囲を1速~4速までをよりクロスレシオ化したようなレシオを採用しているのだ。
ステップアップ比が近いだけに、例えば下り坂でダウンシフトしても、滑らかなエンジンブレーキに感じるし、今回のテストルートでは、5速でも充分に速度抑制力を感じられた。ライディングモードによりシフトプログラムも変化するので、エコノでは2000rpm以下でアップシフトが行われ、ツアーでは2000rpmプラスで、スポーツではさらに高い回転までキープする、というイメージだ。もちろん、走行状況で変化するし、エコノでも追い越し加速でアクセルを大きく開ければ、その後は学習機能が働いて高めのエンジン回転数を維持してくれたりもする。
その後、エコノならエコノの標準に復帰するまでの時間も適切。なかなか良く出来たDCTなのだ。
この日、多くをエコノで走行した。それでも加速力は充分、パワーもトルクも感じられる。かったるさのみじんも無い。また、DCTモデルにはアイドリングストップも装備される。それをアクティブにしてこの日は走ったが、停車後エンジンが停止するまでの時間も、アクセルを操作するのと同時に再始動する感覚も違和感なし。気持ちよくアイドリングストップを堪能できた。
今や、500ps超のV8ツインターボ搭載のクルマですらアイドリングストップする時代だから、これはもはやセレブのたしなみか。それもあって車載の平均燃費計はこの日、18.2km/lを示していた。これはWMTCのカタログ数値と合致。なるほど、これなら燃料タンクを25から21リッター容量へとしても300kmは楽に走れるわけだ……!。余談だが、MTよりもDCTのほうがカタログ燃費数値もよいのだ。
ウォーキングモードも秀逸。
この日、ゴールドウイングの快適性の中で高く評価したいのが前進後進を微速で行えるウォーキングモードだった。エンジン始動時、DCTの場合、左スイッチボックスにあるウォーキングモード切り換えスイッチを押し、あとはシフトスイッチプラスで前進、マイナスで後退してくれる。MTのリバースはモーターだが、DCTはエンジンの力を使って動いてくれる。さすがに383㎏の車体を押し引きするのはしんどい。この機能には多いに助けられた。なにより停めるところ探しにストレスがない。
快適さ、ラグジュアリーの質感について。
滑らかに働くクルーズコントロールを効かせて巡航をする時、ゴールドウイングの世界に満たされる気持ちになった。ゆったりして走り続ける。里山を抜ける道では軽快に、峠道ではその気になればスポーツできる運動神経も確認できた。ボタン一つでプリロードを変更すれば2人乗りでもお客様が乗っている感が極めて少ないハンドリングだし、荷物を、ラゲッジバッグを開けて収納、閉めて出発、という身支度の速さもプレミアム感醸成には欠かせない。
走りの満足感は抜群だった。1人でも2人でも感動共有をできる一台にまとまっていたと思う。好みで言えばトリップなどの情報や、ギアポジション、速度表示をTFTモニター内にちょっと大きめの文字でカラフルに表示して欲しい、そう思ったことぐらいだろうか。ま、重箱の隅をつつけば、フューエルリッドオープナーとヘルメットホルダーを引き出すレバーの造りは高くなっても、重くなっても質感重視で拘って欲しかった。
正直に言うと「ゴールドウイング」という世界は、絶滅危惧種なのではないか、と思っていた時期があった。次期モデルのウワサが聞こえてくるまで時間がかかったし、この価値観を慈しむライダーは年功序列で減るのでは、とも感じていたからだ。ハーレーのツーリング系もバガースタイルのモデルが人気だし、ニューウェーブとも言えるBMWのK1600GTL系もラグジュアリー、スポーツ、プレミアムという三位一体を表現している。ゴールドウイングやハーレーのウルトラ・クラシック系が持つ伝統的豪華さで演出をされたモデルは静かにフェードアウトするのだなぁ、と時の流れのようなものを感じ取っていたからだ。
しかし、今日、新型を走らせてこのバイクが持つ楽しさへの拡張性の広さ、そして利便性、さらには所有感が醸す心地よさ、これらが放つ芳香が素晴らしい世界であることを再確認した。この感触はまさに走る喜び。これに包まれつつ良い気分で試乗を終えたことを報告します。
(試乗・文:松井 勉)
カウル右側のコンパートメント内にあるフューエルリッドオープナー。トップシェルターに給油口がある。 | ラゲッジケース3つのリッドを開けた状態。それぞれにダンパーが備わり、防水性の高いウエザーストリップが開口部にとりつけてある。 | ETC車載器は左側サイドケースの中に。 |
タンデムステップに漂う上質さ。折りたたんでいてもスタイルに溶け込む仕上がり。 | キーはサイズ、質感ともに適切。ゴールドウイングのマークが入る。キーホルダーを通す部分は樹脂よりも金属製が理想か。撮影のためにキーホルダーを外したら、傷が入ってしまった。 | Apple CarPlayをセレクトしたときの画面。マップを選択すればナビとしても機能する。Siriを使って目的地を設定するコトも可能だ。 |
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