■試乗・文:中村浩史 ■写真:ブリヂストン
■ブリヂストン TEL0120-39-2936 https://www.bridgestone.co.jp/
それにしてもタイヤを「いいの」に変えると
ここまでフィーリングが変わるとは思わなかった。
バトラックスT30からT31へ、A40からA41へ。
なにも何世代も一気に進化したってわけじゃない。
それでも、作り手の思いが十分に伝わるモデルチェンジだった。
バトラックス T31
T31は従来モデルT30を改良したスポーツツーリングタイヤで、主にウェット路面での性能向上を目指している。よくできたことに、この試乗会は前日に豪雨があって、朝から寒い曇り、という絶好のタイヤテストコンディション(笑)。雨でびちゃびちゃの路面からスタートして、乾いてきたら小雨が降るという。つまり、低い路面温度で、フルウェット、セミウェット、ドライすべての条件を試すことができたわけです。
まずは、従来モデルのT30を装着したMT-09でスタート。T30はもう、何度も履いたモデルに乗ったことがある慣れたタイヤで、これ自体なんの文句もないハイグリップタイヤだ。わざわざブリヂストンが「ツーリングタイヤ」といっても、スポーツタイヤに思えるほどグリップが高く、「スポーツタイヤ」だと思っても、僕の知り合いに1万5000km使ってもまだ交換していない、ってT30ユーザーがいるほどロングライフのタイヤ。
そして冷たい路面でT31を履いたMT-09に乗ってみると、ちょっとタイヤを硬質に感じる走り出し。とはいえ、そこからつながるグリップ感の希薄さがなくて、ほほう、こういうタイヤなのか、ってニヤリ。普通、カタく感じるタイヤって、接地感やグリップ感が希薄で、もっとギュッとタイヤつぶさないと安心できないのかな、なんて思いながら走るんだけれど、硬く感じて、そのおかげでハンドリングがひらひら軽い。特に切り返しなんか、明らかに違いを感じるほど。
それに、ウェット路面でも普通に走り出せる接地感とグリップ感がスゴい。これはT30にも感じていたことなんだけれど、それ以上にT31の雨路面でのしっとり感に安心した。徐々に路面が乾き始めてきたころ、少しバンクしたままの状態でこわごわとハーフウェットの路肩にも踏み入ってみたけれど、T30とT31の違い、正直いってはっきりしない。これは、濡れたエリアを走る時に自然とペースをセーブしちゃうからで、あれ、このペースでも平気なんだ…って安心感が、T30もT31も同レベル、ってこと。もともといいタイヤがさらにいいタイヤに変わったって、そんなにハッキリ評価できない、っていう乗り手の限界なんです。
試乗コースがクローズドだったから、ちょっとサーキットっぽい走りもしてみたんだけれど、低い路面温度の乾きたての路面だって、ヒザ擦ってリアタイヤがすりすりすり、って滑り始めるあたりまで走るのが、まったく余裕。ただし、同時に乗ったS21を履いたMT-09も用意されていて、そちらで走った方がより鋭く、軽く走れたことは付け加えておきます。調子に乗ってぶんぶん走っていて、T31のフロントタイヤが滑り始めてヒャッとするペースと同じコーナーでも、S21はまるで平気だったから、やはりこれがスーパースポーツタイヤとツーリングタイヤの差なのだろう。
ドライ路面を走った印象では、これはもうスポーツタイヤなんじゃないの、っていう印象が、T30同様まるで変わらなかった。バンクさせなくてもバイクが曲がっていくフィーリングで、切り返しが軽い印象。これは、ツーリング中にワインディングに差し掛かってもラクに走れて、レーンチェンジも抵抗なく快適にできる、って意味。走り終わったタイヤ表面はべたついていて、これも硬く感じた印象とは逆のこと。このあたりに、T31のタイヤ構造の秘密があるのだろう。
これで、データ的にT30とライフがまったく同じというから、ツーリングタイヤとしての完成度が本当に高いことがわかる。ライフは、前出の友人にT30からT31に履き替えてもらって試してもらおうかな。
バトラックス A41
A41は、アドベンチャー(ビッグオンオフ・ツーリングバイク)用A40のモデルチェンジ版。こちらも、T31と同じくウェット性能向上を主眼においていて、T30→T31よりも変化の度合いが大きいのだそう。ブリヂストンのタイヤ評価軸に、ウェット時とドライ時の「グリップ/ハンドリング/接地感」があって、そのほかにも直進/旋回安定性なんかがあるんだけれど、A40→A41はもう、この評価をすべて上回っている。それでいて摩耗指標、ロードノイズ、オフロード性能は同等。このところ日本でも人気が出てきたカテゴリー用のタイヤだけに、ブリヂストンも気合が入ってる!
このAシリーズのタイヤでも、Tシリーズと同じく「従来モデル(A40)」→「新型モデル(A41)」の順で比較試乗。試乗車はVストローム650で、乗り出しで感じたのが、あまりノーマルと変化が感じられなかったこと。
実はこれ、Vストローム650の純正装着タイヤがA40で、厳密に言えばアフターマーケット用のA40とは違うのだという。ノーマルっぽく感じたのは当然か。
かわってA41装着のVストローム650で走り出すと、その違いはハッキリ体感できる。もう、走り始めでロードノイズが格段に静かになり、ブロックタイヤっぽさを感じた振動さえ感じない。同じバイクなのに、サスペンションをリプレイスしたようなフィーリングになって、ミドルクラスのアドベンチャーモデルであるVストローム650が、まるでスポーツバイク! これは大げさな表現ではなく、同条件で順に乗り比べたからわかる差なのだ。
オフロードは走らなかったけれど、この試乗ではっきり分かったのは、乗り味が上質になったことと、軽快感というよりしっとりとした安定性が上がって、特に直進安定性が上がったこと。ウェット路面の接地感、グリップは大きく上がっていたのもハッキリとわかる。
つまり通常のライダーは、この違いを感じやすい、ってこと。2013年に発売されたVストローム650を例にとるなら、ほとんどのオーナーさんは、まだ純正タイヤを履いていることと思う。つまり僕は、ここからA41に交換した疑似体験をしたってこと。タイヤ交換で乗ったフィーリングがここまで変わったのは、初めてだなぁ。
ブリヂストンのブランド「バトラックス」は、2018年に誕生35周年を迎える。タイヤの歴史ってものを感覚でいうと、バイクの誕生初期にはきっと乗り心地優先で、次に摩耗、雨の安心感、それから直進安定性やハンドリングといった性能が求められて、それが細分化されて現在につながっている、と思う。バトラックスが誕生した頃は、ちょうど市販車がスポーツバイク、レプリカブームになっていく頃で、とにかくハイグリップを目指して、それが市販車用のOEM(純正採用)タイヤの性能向上につながり、さらにそこを上回るバトラックスを開発し……という流れできたのだろう。
市販車用のOEMタイヤっていうものは、第一に安全が担保されたもので、次に全天候の性能がまんべんなく広く、世界中のどのエリアや天候でも性能を発揮できて、そうそうコストも安い方がいい、って目標で開発され、装着されている。
その中で「ある項目」を突出させるのが、タイヤを交換する、って意味だ。ロングライフだけを期待する人、直進安定性だけを期待する人、サイドグリップだけを期待する人、快適な乗り心地だけを期待する人、いろいろいるだろう。
けれど世の中のバイク乗りは、そもそもタイヤを替えたことがない、って人も少なくない。しばらくバイクに乗ってる→タイや摩耗するくらい距離走る→バイク自体を買い替え、とかね。タイヤを知ると、バイクに乗ることはもっと面白い。タイヤを替えると、グンにおっちゃんがアドバイスしたように、とたんに速く走れるようになることだって、あるんです。
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