西村 章

第132回 チャーン(タイ)・オフィシャルテスト Put it that way ●写真・西村 章/Honda/Yamaha/Ducati/Suzuki/KTM

 プレシーズン2回目のテストは、タイ王国東北部ブリラムにあるチャーン・インターナショナル・サーキット。この10月に第15戦タイGPが予定されている開催地である。当地ではすでにSBKやアジア選手権が開催されているが、MotoGPは今年が初めて。それだけに、全チーム全選手とも、秋のレースに向けて情報やデータ収集に余念のない三日間となった。

 今回、総合トップタイムを記録したのはダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)。前回のセパンテストでも総合2位で終えており、開幕に向けて順調に準備を進めている様子が窺えた。また、ペドロサ以外にも、チームメイトのマルク・マルケスが3番手。もうひとりのファクトリーライダー、カル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)も僅差の4番手、とホンダ陣営は総じて良い内容のブリラムテストになったようだ。

 今回のテストでは各陣営ともさまざまなマテリアルを試しているが、ホンダ陣営で目立ったのはカーボンファイバー製スイングアーム。じつは去年暮れのバレンシアあたりから少しずつ試していたようなのだが、この三日間のテストで改めて大きな注目を集めることになった。それまでこのスイングアームについて何も話さなかったのは、特に秘密にしていたわけでも何でもなく、「だって、誰も質問してこないんだもん」とマルケスはいたずらっぽく笑いながら話している。
「この仕様でたくさん乗りこんでいたわけじゃなくて、ちょこちょこと数周程度走っただけなんだけどね」ということで、今回もスタンダードのスイングアームとの比較検討を継続。一長一短があるようで、「グリップが良くなるのはポジティブだけど、ユーズドタイヤではバイクの挙動が大きくなってしまうのがやや難点」なのだとか。

 ペドロサにも、このカーボンスイングアームについて訊ねてみた。
「ホンダが新技術に取り組んでこういうものを持ってきてくれた、ということはとても前向きに捉えたい」と述べ、「もちろん何事もそうで、長所と短所はありそうだけど、(スタンダードとは)特性が違うし、まだ手探りの状態なので、今後に向けてもっと経験を重ねていきたいし、他のコースでも試してみたい」
 と、いかにも彼らしい慎重で控えめな回答だった。


#26
悲願の王座獲得に向けて最高の形でシーズンインできるか?

#35

#93
次回カタールテストで新スイングアームを試す模様!? 「ここほど暑くないカタールで最終確認をしたい」のだとか。
*   *   *   *   *

 今回の総合2番手タイムだったヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3)は、二日目の走行を終えた際に、「今日は1分30秒台だったけど、良い内容で、ユーズドタイヤで走ってもタイムの落ちは少なかった。バイクのバランスが良い証拠だと思う。明日は29秒台に入れることができると思うよ」と話していたとおり、三日目の早い時間に1分29秒867を記録。その後もこのタイムを上回る選手はおらず、タイムシートのトップにいる状態で三日間のテストを切り上げた。が、最終的には夕刻のタイムアタックでペドロサが0.086秒ラップタイムを更新し、ザルコは2番手の位置に落着した。
 ファクトリー勢を上回るヤマハ最上位で終えたものの、
「ラップタイムとレースは別。ユーズドタイヤでも速く走れているけど、ライバルと26周を連続周回して競うのはまた別の話」
 と留保をつけた。それでも、今年は昨年以上に高い戦闘力を発揮して上位を争う手応えを掴んでいるようだ。
「表彰台には近づけていると思う。でも、優勝争いとなるとマルクが強く、僕よりも速く走れるだろう。とはいえ、このテストを見る限りでは、僕も表彰台は可能だと思う」
 現在のザルコは2016年型シャシーを選択しているようだが、その際に参考になるのが、このスペックで高水準の走りを披露していたホルヘ・ロレンソのライディングで、だからザルコは当時の彼の走りに近づけるように努力をしているのだとか。
「ロレンソはとても速いライダーで、先日のヘレステストでもラップレコードを切っていた。バイクも良いのだろうけど、つまり、ライダー自身がとても速いということ。彼のヤマハ時代は、いつもその高い水準にいた。だから、僕もがんばって当時の彼のライディングから学びたい」


#5

#5
世界最速のピアノマン??

 この好調なザルコと対照的に、ファクトリーチームの2名、モビスター・ヤマハ MotoGPのバレンティーノ・ロッシとマーヴェリック・ヴィニャーレスはともに苦戦を強いられるテストになった。

 総合12番手のロッシは、三日目の走行を終えた夕刻に、
「フィーリングが良いときもあれば厳しいときもある。マレーシアよりもバイクの状態は良くなっていると思うけど、今回のタイでは少し問題があった。今回のテストでは電子制御をもっと良くしたかったのだけれども、結局あまり良くならなかった」
 と、良い方向性をまだ見いだしきれていないことを認めた。

 ヴィニャーレスは、テスト初日には「アルゼンチンに似た傾向のコース特性で、けっこう自分のライディングスタイルには合っているかも」と話していたのだが、三日目12番手(総合8番手)タイムという結果が示すとおり、試行錯誤で終えた三日間になってしまった。テスト三日目には、ザルコと同じ2016年シャシーを試した様子だが、
「ライダーとして100パーセントがんばってるし、コースでは全力で走っているけど、今日は昨日よりも苦戦した。どの領域でもすべて不十分で解決方法を見つけることができず、できることはすべてやったけれども何も機能しなかった。セパンも良くなかったけど、今回はもっと苦労した」
 と、お手上げの様子。
「ヤマハに初めて乗ったときの、あの(素晴らしい)感触を取り戻したい」
 と困惑を隠そうともしなかった。

 ファクトリーとサテライトのこの齟齬には、ライダーたちは当然ながら、ヤマハ技術陣も頭を悩ませていることだろう。


#46

#25
このテストで39歳の誕生日を迎えた。 何かがうまく噛み合わない……。
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 同じくドゥカティも、悲喜こもごものテストになったようである。

 陣営最上位は、2017年仕様に乗るサテライトのジャック・ミラー(アルマ・プラマック・レーシング)が記録した総合6番手。ミラーは前回のセパンテストでも連日5番手タイムで、今回もトップタイムから0.404秒差、とまずまずの充実した内容。その0.007秒背後の7番手に、ファクトリーチームで最新スペックのマシンを駆るアンドレア・ドヴィツィオーゾがつけた。三日目の走行を終えて、
「今日は車体をいろいろと試して、ポジティブな一日だった。ネガティブな面もあるけど、何かを試したときに即座に違いを決めつけるのは難しいので、違うコースでいろいろとやってみてシーズンに対する方向を決めたい。現状ではベストを尽くして昨日よりも理解は進んだので、次のカタールテストを待ちたい」
 とロジカルにテスト内容を振り返った。
 昨年は最終戦までチャンピオン争いを繰り広げたが、今季の予測については、以下のように述べている。
「まだなんとも言えないよ。マルクは去年からの流れでいい状態だし、ダニもいい。ザルコも経験を重ねているから、さらに強くなるだろう。ヤマハファクトリーは予測不可能だけど、レースでは強さを発揮するはず。プラマックのふたりも速いだろうね」


#43

#04
今年のジャックはひと味違う!? 「2018年仕様のほうがいいのは確実」だそうです。

 一方、かなり厳しい状況でブリラムテストを終えたのがホルヘ・ロレンソ。前回のセパンテストではトップタイムだったのだが、今回は総合16番手。三日目だけに関していえば、まったくタイムを上げてゆくことができず、22番手に沈んでいた。今年型の車体がいまひとつ気に入らないとのことで、この日のロレンソはプラマックのガレージから2017年仕様をわざわざ借り出して、2018年型との比較も行ったものの、明快な結論には至らず、ドゥカティに対し、2017年と2018年の良いところをハイブリッドした仕様を希望しているようである。ただ、それを開幕戦に間に合わせるのは難しいだろう、とも言う。
「どちらかを選ぶのであれば、最新仕様のほうがポテンシャルが高いので、そちらで行くことになると思う。序盤数戦は苦戦を強いられるかもしれないが、カタールでは今回よりも良い走りをしたいし、ミックスバージョンが届けば本来の実力を発揮できると思う」

 いずれにせよ、悩みはちょっと深そうである。


#99
セパンから一転、今回は大苦戦に……。

 開幕戦までいよいよ一ヶ月。今回のテストでは、上記各陣営の動向以外では、スズキ勢、とくにアレックス・リンスや、ドヴィツィオーゾも言及しているプラマックのジャック・ミラーが快調な走りを披露している。彼らも交えて上位陣が激しい争いになれば、非常に見応えのあるシーズンになるのではないか、と期待をしてみたい。走るほうは大変だろうけど。

 というわけで、では、また。

#30 #42 #29
総合10番手タイムと大健闘。 リンちゃんも今年はひと味違う!? 若いチームメイトの健闘が発憤材料?
#45 #38 #55
新環境に適宜順応中です。 今年は正念場の2年目。 東南アジア初の最高峰クラス選手。

 



■2018年2月16日~18日
チャーン(タイ)・オフィシャルテスト 総合結果

Pos No. Rider Team Motoycycle Time

1 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA 1:29.781

2 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA 1:29.867

3 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA 1:29.969

4 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA 1:30.064

5 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI 1:30.178

6 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI 1:30.185

7 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI 1:30.192

8 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA 1:30.274

9 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI 1:30.367

10 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA 1:30.456

11 #53 Tito RABAT Reale Avintia Racing DUCATI 1:30.476

12 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA 1:30.511

13 #21 Franco MORBIDELLI EG 0,0 Marc VDS HONDA 1:30.648

14 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA 1:30.701

15 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI 1:30.718

16 #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATIA 1:30.729

17 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI 1:30.883

18 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM 1:30.921

19 #36 Mika KALLIO Red Bull KTM Factory Racing KTM 1:31.169

20 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA 1:31.311

21 #12 Tom LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA 1:31.354

22 #55 Hafizh SYAHRIN Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA 1:31.537

23 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI 1:31.661

24 #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI 1:32.019

※西村さんの最新訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です!
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