ヤマハ発動機MS開発部部長でヤマハファクトリーレーシングを率いる中島雅彦氏も「マシンの重量が1kg変われば、トラクションやアジリティ、ブレーキング等に大きな影響を及ぼす。それが4kgなのだから……。告知からレギュレーションの発効まで一年間のリードタイムがあるのならばともかく、すべてできあがったあとで、12月になっていきなり『来年から変更します』なんてあり得ない。個人的には非常に不満に感じる。技術的な案件というよりもむしろ、政治的な案件といったほうが妥当なのではないか」と述べる。
しかし、悪法もまた法なり、という古諺に従うわけではないけれども、決まってしまったものはしかたがない。ホンダもヤマハも、現在は2012年のマシンにウェイトを積み増しすることで、規定の157kgという<新>重量をクリアしている。将来的にはバイクの部材をより重いものへ変えてゆくことで、ダミーウェイトを減らしてゆくのだろうか、と思いきや、ヤマハ中島氏は「どんなに小さなパーツでも、慣性モーメントや重量配分を考慮したうえで素材を決定している。その重量が変わると、マシンのバランスにも大きな影響を及ぼす。だから、そう簡単にエキパイの素材を変えたりクランクケースを重くしたり、というわけにはいかない。おそらく今シーズンは、4kgのウェイトを積んだまま最終戦まで走ることになるのではないか」と、やや苦々しげな表情。HRC中本氏は、前回のテストで4kgのウェイトを積んでいたことを認めたうえで、「もうすでに少しずつ始めているよ」と意味深な言葉もつぶやく。今回も4kgのウェイトをフルに積んでいるのかどうかに関しては、笑みをうかべながら首を傾げてあいまいにぼかすものの、「シーズン最後までに(ダミーウェイトからバイク重量への転化を)すべてやりきれるかどうかは、わからないけどね」とも漏らすそのあたりが、正直なところなのだろうか。
とはいえ、マシン面で不利な条件を呑まされることになった両陣営は、この2回のセパンテストでいずれも好タイムを記録している。だからこそ(といういいかたも語弊があるけれども)、今回の重量変更は深刻な議論に発展していないのだろう。だが、だからといって競技の公平性を担保するべきルール改訂に関わる議論が、「まあまあ、みなさん。ホンダとヤマハは速いんだから、別にいいじゃないの。結果オーライと言うことで、ね?」というようななし崩しで済ませてしまっていいものでもないだろう。
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ウェットコンディションで良い手応えを掴めた、と上機嫌。 | ピット風景にも手作り感が漂うCRTのガレージ。 | 前回テストの好感触から一転、「むーん……」という雰囲気に。 |
近代スポーツである以上、ルールはその競技を構成する団体や競技者に対して垂直的にも水平的にも公平である必要がある。この公平性を実現するためには、ルールを頻繁に修正できる合理性も必要になるけれども、この合理性を実現するためにはルール決定システムにも透明性と平等性が保証されていなければならない。
ルールの運用と解釈を巡る議論は、どんな種目にも常につきまとうものだけれども、モータースポーツの場合は工業技術に関わる部分も大きいだけに、どうしても些末なものと捉えられて見過ごされがちな場合もあるように思う。でも、それではいかんのだよね、きっと。そのためにも、MotoGPの現場でなにが起こっているのか、そしてそれはどういう意味を持つのか、ということを平易に理解するための素材を提供するチャンネルが必要なのだろうな、とまるで他人事のようにほざいているんじゃなくって、自らを戒めてさらに精進いたします。はい。ということで、次回は開幕直前のヘレステスト。では。
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走行の合間にtwitterでつぶやき中。 | 泰然と構える息子よりも父親の方が、気が気でない様子。 | 湿気と熱気と強い日差し。部屋とTシャツと私。 |
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