ヤマハMotoGP2017の苦悩と収穫、そして2018年は? ヤマハモーターレーシングのマネージング・ディレクター、リン・ジャーヴィスに訊く

■取材・文:パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)
■写真:YAMAHA

──今年のヤマハには何が起こっていたのですか。シーズン序盤5戦で3勝をしていた段階では、まさかこんな結末になるとは思いもしませんでした。

「非常に厳しい状況に直面し、我々はそれを最後まで克服できませんでした。シーズン序盤は上々でしたが、問題はル・マン(第5戦)の前に始まっていたのです。何かがおかしい、と感じたのはヘレス(第4戦)でした。2016年はバレンティーノが優勝していたので、今年あれほど苦戦してしまったことに驚きました。ずっと相性のいいコースだったバルセロナ(第7戦)でも、同様の事態が発生しました。ここに至って、グリップの低いコースで我々は課題を抱えている、とはっきり認識したのです。もし明日、ル・マンでレースをすれば、1-2フィニッシュで勝てるだろうと思いますけれども」

──それはヤマハの問題なのですか、あるいはミシュラン?

「レースリザルトには、プラス面でもマイナス面でも様々な要因が絡み合ってきます。しかし、今年はタイヤについて少し独特な課題があって、ラップタイムを安定させるためにいろいろなことを試しました。とはいえ、何を言っても言い訳になってしまいます。ミシュランは、今年のリアタイヤの構造には変化がないと何度も言明していましたが、我々には違和感があり、それが何に由来していたのかはまだ究明しきれていません。というわけなので、タイヤの問題、とも言えるのですが、それは我々の取り組みの問題でもあるのです」



モビスター・ヤマハ MotoGP

──シーズン中にロッシ選手が2016年の車体を使わなかった理由について、あなた方はいつも「2017年のエンジンが乗らないから」と説明してきましたよね。でも、バレンシアの決勝日にはその組み合わせで臨んだようですが。

「今年は数種類の車体を使用しました。2016年の車体には長所もあれば短所もあったので、我々はタイヤライフの改善を目的として車体開発を続けてきました。ウィンターテストでは良い方向に進んでいる手応えがあり、開幕戦でも良好でした。その後に、苦戦するようになったのです。バレンシアの事後テストでバレンティーノは2016年の車体を試す予定だったのですが、レースウィークの状況が好ましくなかったことから、前倒しして使うことにしたのです」

開幕戦カタール、第2戦アルゼンチンと連勝、好調なスタートダッシュを決めたモビスター・ヤマハ MotoGPチームだったが、第4戦スペインで苦戦。昨年は優勝している第7戦カタルニアでは両ライダーQ1落ち(決勝8位、10位)という苦しい戦いを強いられる。

──一方、前半戦に活躍したヴィニャーレス選手はシーズン後半に苦戦しましたね。

「今年は、マーヴェリックに厳しいシーズンでした。プレシーズンから調子が良く、序盤戦で連勝して自信を深めてきたところから、いきなり苦戦するようになりました。ただでさえメンタル面で難しい状況で、一時は30ポイントあった差がどんどん減っていくのですから、精神的にかなり厳しかったと思います。バレンティーノはこういう状況に対応してきた経験もありますが、マーヴェリックはまだ若い選手ですから」



第5戦フランス
ヤマハにGP通算500勝をもたらした第5戦フランスはビニャーレス、ロッシの両ライダーが最終ラップまでトップ争いを展開。コースによる向き、不向きの差が激しいシーズンとなった。


マーベリック・ビニャーレス

──ロッシ選手は、問題はシーズン序盤から明らかだった、と話しています。ヤマハはロッシ選手を信じなかったのですか。ヴィニャーレス選手のリザルトに惑わされていた、ということでしょうか。

「我々は何かに惑わされていたわけではありませんよ。レースのリザルトを見れば、それは明らかです。トップグループにいてレースに勝っているときは、自分たちは正しい方向に進んでいると考えるのではないでしょうか」

開幕戦カタール、第2戦アルゼンチン、第5戦フランスで優勝、シリーズランキング3位で終えたマーベリック・ビニャーレス。

──ヴィニャーレス選手は22歳。経験としてはまだ浅い選手です。その彼が、自分好みの車体を使い続けたいとリクエストしていた、ということですか。

「マーヴェリックはひとりでレースをしていたわけではありませんよ。彼には自分のチームがあり、そしてチームとしての方針があります。たとえば、ドゥカティを見れば、ロレンソ選手はいつもニューフェアリングを使っていましたが、ドヴィツィオーゾ選手はそうではありませんでしたよね。私たちがライダーに使用を強いるようなことは一切ありません。すべては選手たちの選択によるものです」

──ロレンソ選手の名前が出たのでお訊ねします。彼がいなくなったことで開発への影響はありましたか?

「ロレンソ選手は、ヤマハに素晴らしい成績を残してくれました。現在は、バレンティーノとマーヴェリックががんばってくれています。今年の結果は、ロレンソ選手がヤマハを去ったからではありません。じっさい、彼は今シーズン苦戦をしていましたよね」
──彼があれほど苦戦すると思っていましたか。

「シーズンの最後まで一勝もしなかったのは、少し驚きましたね。一方のドヴィツィオーゾ選手は、あれだけ高い戦闘力を発揮していたわけですから……」

──バレンシアのレースでは、チームのメッセージに従わないという一件もありました。

「あれだけ何度もメッセージを出していたのだから、やや奇妙ではありますね。レース前にああいう事態を想定したミーティングは当然している、と私は思っていたのですが。そうしておけば、ドヴィツィオーゾ選手が前に追いつけるペースがあるのかどうかを見るために、譲ってみることもできたのではないかと思います。指示に従わなかったのは、あまり通常のことではないかもしれませんね」

──2017年シーズンの収穫は?

「シーズン序盤は強さを発揮できたと思います。マーヴェリックはとてもがんばってくれて、我々の期待にも充分に応えてくれました。バレンティーノのアッセンでの優勝と、負傷からの復帰も忘れがたいですね。38歳とは思えないほどの闘争心です。また、ル・マンでは、ヤマハの500勝目を達成しました。そして、ヨハンですよ」

──ザルコ選手の獲得は大正解でしたね。

「今年の彼には驚かされっぱなしでした。開幕前の彼は、たしかに注目株の筆頭ではなかったかもしれません。でも、皆の予想を大きく上回る走りを披露し続けた結果、今では多くのチームがヨハンに興味を持っているようです。KTMのようにね」

──ザルコ選手は、2018年はどのバイクで走るのですか?

「近々のうちに、どうするかを決めたいと思っています。2016年仕様ではないですね。基本的な方針は従来どおりなのですが、2017年のシーズン最終仕様ではないと思います」

──ファクトリーチームに手を入れる予定はありますか。

「チームに問題があったとは考えていません。ルカ・カダローラとの契約もちょうど更新したばかりです。新しいサスペンションエンジニアが一名加わる予定ですが、それはオーリンズの決定によるものです」



ヨハン・ザルコ
MotoGPクラス初レースのカタールでいきなりトップを走行(結果は転倒リタイア)、第5戦フランスで早くも2位表彰台を獲得したモンスター・ヤマハTech3チームのヨハン・ザルコ。シリーズランキング6位、ルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得。


バレンティーノ・ロッシ

──ロッシ選手は2018年以降も継続するのでしょうか?

「彼のモチベーションは、バイクのパフォーマンスに依る部分も大きいでしょうね。バレンティーノの意志を確認するためにも、できればこの冬の間に彼と話をしたいと思っています。とはいえ、おそらく彼は、序盤3~4戦ほど走って自分が今後も充分にやれるかどうかを見極めてから決定するのではないかと思います」

──提示するなら1年契約ですか、あるいは2年?

「交渉次第ですね。状況次第でもあります」

今年38歳、最高峰クラス18シーズン目となったバレンティーノ・ロッシは第8戦オランダで優勝、シリーズランキング5位。

──もし彼が引退するとすれば?

「それも想定しておくべきでしょうね。その場合はヨハンが第一候補になるでしょう。2018年はMarc VDSの二名とクラッチロー選手以外は全員が更新の時期を迎えるので、重大な一年になるでしょうね」

──サプライズも起こりえるでしょうか。

「ファクトリーは6チームあるので、全員がそのシートの獲得を目指すでしょうね。KTMとレッドブルは、ビッグネーム獲得を狙って勝負を仕掛けてくるでしょう。ロレンソ選手とドゥカティの去就にも注目ですが、ドヴィツィオーゾ選手はまず残留と私は見ています。両選手揃ってレベルが高くて高額なライダーを抱えているのは私たちだけで、他のファクトリーは片方が高額ならもう片方はややリーズナブル、という組み合わせを好みそうです。これから数ヶ月は、私たちも仕事が山積みですよ」
(翻訳/西村 章)



テスト
最終戦バレンシア後、新たなカウル形状など2018年シーズンに向けてのテストが行われた。このテストで走らせるために持ち込まれた2016年型シャシーは急遽、決勝レースでも使用されている。

【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。


[第一回 リン・ジャーヴィス インタビュー]
[第二回 アンドレア・ドヴィツィオーゾ インタビュー]