Honda CB650F Long Run Test

 
CB650Fとの付き合いも数か月となり、筆者が乗り出してからの走行距離は5000キロに届こうとしている。使い方は変わらず高速道路を主体とした都内へのアクセスおよび日常の移動、そしてたまのツーリングであり、最近の大型バイクユーザーに比べるとレジャーよりもやや日常ユースの割合が多いだろうというもの。そんな付き合いの中でのインプレッションをお届けする。

■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/

 
無理なく付き合えた5000キロ

 趣味性の高いバイクであればあるほど、ゆっくりと味わわずとも乗った瞬間に「これ、すごい!」と大興奮できるものが多いように思う。しかし一方でファーストコンタクトで畏怖の念を抱くような突出した性能を持つものは、付き合っていくほどに疲れてしまったり、使える場面、もしくは興奮して楽しめる場面が限定されていることに気づかされることもなくはない。それは運動性能的な部分だけでなく、取り回しのしやすさであったりポジションの快適性であったりと複合的なものなのだが、CB650Fについては5000キロほどを走った今、そのような気持ちになっていないという事を安心して報告できる。
 第1回目のレポートでも書いたように、「正しく、健やかな、実用的で無理のない乗り物、現実的な公道での使用環境に応じたバイク」という予想は当たっていたのだ。距離を重ねるごとに、例えばお尻が痛いことに気付いてしまうと、それが発端になって、もしくは言い訳になって、特にこの寒い季節では乗らなくなってしまう事だって考えられる。しかしそういった部分がほぼなく、「今日はCBじゃなくて軽トラでいいや」と思うことはほとんどない。だいたいは「よし、CB、今日も行くぞ!」という気持ちで出かけられている。そんな日常的なCBとの付き合いの第2回は、乗り味のレポートを中心にお届けしよう。

RRの血筋を感じられるエンジン

 他メーカーを見渡しても650ccクラスで4気筒というのは、少なくとも国内においてはこのCBだけだ。車体やその他の部分においてはライバル勢と似た成り立ちであるだけに、やはりCBで注目したいのは新型で90馬力の出力を得ているエンジンである。
 第1回のレポートでは4気筒ならではの低回転域でのエンストのしにくさや扱いやすさ、そしてエンジンをかけた時から感じられる高性能さや緻密さなど魅力を伝えたが、馴染んできて走り込むうちにその性能の高さにもすっかり惚れ込んでしまった。
 高速道路を走る機会も多いのだが、まず素敵なのはその絶対的パワーだ。今や1000ccクラスのバイクも一般的でモノによっては200馬力に到達するようなパワーを持つモデルも珍しくない中、90馬力というのは確かに目立った数値ではない。しかしその90馬力を発するフィーリングがCBR600RRを連想させるような、ダイレクトでストレスのないものであるおかげで数値以上の速さを実現していると感じる。高速道路での合流のように一気に速度を乗せたい場面や、スムーズかつ素早く追い越しを完了させたいような場面で、1速もしくは2速落としてアクセルを開け高回転域を使うと驚くほど加速してくれる。車体の軽さやネイキッドスタイルゆえの風の当たり方でその感覚が強く感じられる部分もあるのかな、と思っていたが、先日リッターSSと共に走った時、料金所から加速し追い越し車線へと車体を進めていく領域では同等ともいえる素早さを見せてくれ、改めて「あ、やっぱり本当に速いんだ!」と感激した。国内で使用するスピード域においては、高速道路を含めて他のバイクに後れを取るということはまず考えにくい。よってもしバイク仲間がみなリッタークラスだったとしても心配する必要はないだろう。むしろ650ccってそんなに速いんだ! と見直されるはずだ。
 

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高速道路はよく使うのだが、一般の交通など一瞬で置き去りにできる加速性能がある事に気づき、スタンダードなネイキッドスタイルの中に隠されたSS由来のパワーフィールに惚れ直した。常識的な速度域ではリッタークラスにも引けを取ることはないだろう。これからの季節は冷たい風が辛いためバイザーの類を検討している。

 ツーリングシーンではこのSS的なパワーフィーリングは影を潜め、日常的に使うことの多い3,000~6,000rpm領域ではむしろスーパーフォア的なフレキシビリティを持っている。アクセルに過敏に反応するという事もなく、路面の凸凹に車体が揺さぶられて意図せずアクセルを少しだけ開けてしまうようなことがあっても、車体がワッと前に出てしまうことはなく適度なアソビがあって扱いやすい。このおかげでツーリングシーンでも疲れないし、舗装林道や予想外の砂利道でも車体からのインフォメーションを感じながら、怖がることなく走らせることができると感じる。
 最初の2000キロほどはステップ周りへの微振動がいくらか気になったりもしたのだが、最近ではそれもまろやかになってあまり気にならなくなってきた。エンジンにアタリがついたのか、各部の締め付けや立て付けが落ち着いたのかその理由は定かではないが、ライダーが慣れたという以上に微振動は確かに減少し、当初の「4気筒なのにけっこう微振動があるなぁ」という印象は払しょくされた。
 なお、ここまでの燃費は一切燃費走行を意識せず、場面によってはかなり元気に高回転域も使って、19.3km/Lを維持している。という事はのんびりしたツーリングや、燃費を意識してもっと大事に乗ればリッター20kmオーバーも現実的だろう。油種がレギュラーという事もあって大型バイクとしては財布にもやさしいといえ、エンジンは性能と実用性、経済性など全方位から見てとても良いバランスにあると感じている。

しなやかな車体と全てにおける「程良さ」

 エンジンの素性が良く、ライダーの意思通りに加減速及びパーシャル領域の保持ができると車体もおのずと好印象となる。予想外の動きが起きないし、姿勢の補正がアクセルで無意識にできるからだ。1回目でも報告した通りCB650Fの車体はいい意味で「普通」の鉄フレームや正立フォークという構成。奇をてらわない、もしくは必要以上にスポーツ方向の高性能を求めない、さらに言えば商品性の名に踊らされない質実剛健な装備なのだが、やはりこれが公道での使用においてはとてもシックリきている。低速の荒れた路面で足周りがゴツゴツ感じることもなければ、高速道路を元気に走っている時にフレームや足周りが頼りないと感じる場面もない。むしろフレームや足周りに意識が行くことがないぐらい、うまくその存在を消し脇役に徹しているように感じる。
 ブレーキも前後ともとても良く効く上にコントローラブルだ。パッドがディスクに触れた途端にフォークが地面に突き刺さるように減速する極スポーツバイク的味付けではないが、ジワッと効いてタイヤをロックさせることなく奥まで握り込んでしっかりと減速させるという意味では本当に公道向き。ABSももちろん装備されているが、荒れた道を走っていても実際にABSが作動したことはないように思う。それだけコントローラブルであり車体の性格にマッチしたブレーキなのだ。
 
 一方で走り込むほどにさらにこうだったらいいかもしれない、という部分もなくはない。5000キロに近づきリアタイヤが台形になり始めているという事もあるだろうが、クイックに旋回させようとするときにはリアが少しだけ重いように感じる場面にも気づく。また低速の連続するつづら折りの峠道などではリアタイヤの存在感が強く、安心感はあるものの、車体の軽さやフロント周りのクイックさがもたらす程よい切れ味を阻害しているふうに感じなくもない。これは純正装着されているダンロップのD222というスタンダードタイヤの性格によるものでもあるだろうから、もっとスポーツ志向のタイヤを装着すればまた印象が変わるのかもしれないが、さらに突っ込んだことを言うとすれば、スーパーフォアと同じ160幅のタイヤサイズでも良かったのではないかなどとマニアックなことも想像してしまった。180サイズのリアタイヤの採用は、唯一CB650Fがほんの少しだけ流行りに流されてしまった部分、商品性という魔物に心が浮ついた部分なんじゃないか……なんて思うのは勘繰りすぎだろうか。
 

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バイク雑誌などに登場する絶景の気持ちよいワインディングなんて言うのはどちらかというと珍しい方で、日本の峠道の多くはあまり道幅が広くなく、所によっては荒れているなんていうことも珍しくない。あまり速度域が上がらないこのような峠道では大排気量車は持て余すこともあるが、そういう意味でもCB650Fは車体の設定、ブレーキの設定、そしてエンジンの性格付けなどが絶妙である。走る場面を選ばないというのは大きな魅力。

少しだけ手を加える

 実用的な部分でのカスタムは、ライダーが十人十色なのと同じように使い方も様々である以上多少は行われることだろう。筆者の場合、シートに大きめの荷物を括り付けて移動することが多いため荷掛けフックの少なさが気になってしまった。シートのタンデムベルトの付け根部分には突起がありゴムロープやネットをかけられるのだが、後ろ側はシートの裏から取り出せるナイロンのループがあるだけで、頼りないだけでなく大きな荷物では安全に固定することが難しい。そこで、純正オプションであるキャリアを装着するために用意されている雌ネジ(普段はカバーで覆ってある)にボルトをねじ込み、フックをかけられる突起を追加した。これでだいぶ荷物の固定が容易になったため、もし大きめの荷物を縛り付ける予定がある場合は検討すると良いと思う。なおあまりに大きな荷物の場合はテールランプを隠してしまう恐れがあるためオプションのキャリアも検討したいところだ。
 筆者はこのように荷物を括り付けることが多いため、コンビニなどで停車した時にヘルメットホルダー(純正ではシートを外して挟み込むタイプ)が使えないというのも困っていたところ。社外の汎用品を追加し対応しているが、キーが一つ増えてしまったのが不満と言えば不満だ。ホンダにはワンキーシステムというメインキーでオプションのトップボックスなどを開閉できるシステムがあるため、ヘルメットホルダーもこのワンキーシステム対応でオプション設定してくれていたら嬉しく思う。
 
 最後にもう一つ書くのは簡単に変更・交換・追加できる部分ではないため悩ましいのだが、LEDのヘッドライトの色調がどうにも慣れずに戸惑っている。道路や他の車両についている反射材に当たると強烈に反射するのだからきっと数値的には明るいのだろうし、道路に照明がある都市部では気にならないのだが、筆者が暮らす北関東の夜は真っ暗闇であり、闇の中に伸びる黒いアスファルトを照らす青っぽい光はどういうわけか感覚的に「明るい」と感じられないでいる。光量ではなく色調の問題なのではないかとは思うが、特に雨の日の夜などはどうにも頼りなく感じてしまう場面があり、タヌキやイタチの飛び出しに恐々とすることもあった。とはいえ、最近はその色調にも慣れてきたのか乗り始めた当初に比べればいくらか明るさを感じられるようにはなったが。
 今は多くのバイクや車がLEDを採用しているだけに、ライダー側の慣れの問題でもあるのだろう。ただ個人的にはもう少しオレンジっぽい明りの方が、漆黒の北関東では安心感があるのではないかと思っている。

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積極的に走らせるとバイクとの対話が楽しいのに、景色を楽しむような場面では存在を消してくれ脇役になってくれるCB650F。農村部を散策するのも苦ではないが、ハンドル切れ角はもう少しあっても良いな、とこの写真を見て思い出した。

オールシーズン乗り続ける

 5000キロを共にして、当初の「CB650F、良いんじゃないか!?」の見当が外れていなかったことを嬉しく思っている。使い勝手の部分では自分の使用状況に合わせて多少変更したものもあるが、このバイクの基本性格については最初の好印象そのまま、いやむしろ微振動が減ったことや高回転域での元気さやSS由来のパワーフィールも知ったことでなお好きになったといえるだろう。
 出先や取材先などで「ノア君、どうなのよ実際?」などと興味をもって話してかけてくれる人も多いが、本心で「何でもできるオールラウンダーとして良いですよコレ」と答えることができている。特に(多くのライダーがそうであるように)バイクを1台しか持つことができない環境にあるライダーにとっては、CB650Fのように多くの場面で満足感を与えてくれ、そして同時に全ての場面で及第点を確保する性格付けがされたモデルは、付き合いが進むほどに「あぁ、これにして良かった」と感じられるはずである。
 楽しいことや速い事、興奮できることは趣味である以上もちろん大切だが、路面や季節、走る距離を選ばない汎用性も長く付き合うにはとても大切なこと。日々寒くなってきている師走の時期だが、純正オプションのスポーツグリップヒーターのおかげもあり筆者は日常的に元気に走り回っている。欲を言えば高速道路での冷たい風が染みるようになってきたため、メーター上にちょっとしたカウル(バイザー)でも付けたいと思っている今日この頃のCB650Fとの日々である。
 
(文:ノア セレン)
 

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※リンク
第1回目についてはコチラをどうぞ。
http://www.mr-bike.jp/?p=135265


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