Kawasaki Z900RS 試乗

 
モーターショーで話題をさらい、新旧のカワサキファンのみならず多くのライダーから注目を浴びた「Z900RS」。歴史的名車900スーパーフォア、いわゆるZ1をオマージュして作り上げられたレトロスポーツ車。寒い阿蘇のオートポリスサーキットにてさっそくファーストコンタクトを果たしてきた。

■文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
■カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/

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ライダーの身長は186cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

「Z」の名前

 近年のカワサキはニンジャのネーミングの方がイメージが強いかもしれない。Zはむしろニンジャシリーズのネイキッド版、といった風に捉えているライダーも多いことだろう。しかし遡ればZこそがカワサキの歴史あるネーミング、いやむしろ原点であることは先輩ライダー達にとっては常識のはずだ。ホンダのCB750フォア登場の後、その上を行く900ccという排気量とそのハイパフォーマンスで世界を驚かせたハイパーマシン、900スーパーフォアがそれで、いわゆるZ1と呼ばれた。それの国内版750ccがZ2、「ゼッツー」として知られる750RS。ゼッツーの名前ならばほとんどのライダーが耳にしたことがあるのではないだろうか。
 このZのイメージで80年代後半からはゼファーというモデルもあったが、ゼファーが絶版となり、レトロ路線はローソンレプリカとも呼ばれたZ1000RイメージのZRX、及びW1のイメージを持つW800の2台となっていた。ところがこの2台も絶版になり、いよいよカワサキは70~80年代を彷彿させるモデルがラインナップから消えてしまった。カワサキファンや70~80年代Zシリーズファンにとってこれは寂しいことだったはずだ。歴史を感じさせてくれるようなモデル、もしくは世界に躍り出たあの輝かしい時代と何かしらのリンクを感じさせてくれるモデルがなくなってしまったのだ。そんなロスに陥っていたライダーの琴線に触れたのが、このニューZである。
 ある程度ベースとしたコンポーネントはあるものの、基本的に全てが新設計と言っても過言ではないという。エンジンもフレームも足周りも、全てがこのRSのために作り込まれたものであり、スタイリングだけでなく乗り味や付き合い方も独自の世界を追求。カワサキの歴史を感じさせ、当時をリスペクトし、それでいて最新の技術を投入してライダーを楽しませる現代のZ。限られた時間ではあったが、そのファーストインプレッションをお届けしよう。

ハイパーではない、ネイキッド

 Zというネーミング、もしくはかつてのZ1のイメージなど、そういったものはとりあえず置いておいて、さてこのバイクは何というカテゴリーなのだろうか。カワサキでは「レトロスポーツ」と謳うが、レトロというのは見た目のことが主であり、機械的な部分でのカテゴリーが最初わからないでいた。90年代に登場した「ビッグネイキッド」は1000cc以上の4気筒エンジンを積んでいることが多く、比較的しなやかなフレームにトルクフルなエンジンというのが定番。それらが衰退していった2010年代に代わって登場したのがハイパーネイキッドやストリートファイターなどと呼ばれる機種で、基本的にスーパースポーツ由来の部分が多いカテゴリー。排気量は必ずしもリッターオーバーではなく、足周りは倒立フォークやモノショック、加えて場合によってはアルミフレームだったりもした。
 ビッグネイキッドは大きく豪快なところが魅力だったと言えよう。ポジションが楽でシート高も低く、大きなバイクを労せずに走らせられる快感に酔いしれたライダーも多い。一方で純スポーツ性能で言えば必ずしも高いレベルにあるとは限らず、バイクの趣味性が高まると同時に汎用性は求められなくなり、よりスポーツに振ったストリートファイター系が台頭してきた、というのが流れに思う。ストリートファイター系は軽くて速くてシャープな味付けが魅力だが、一方でタンデムや荷物の積載は重視されていないことが多く、長距離には向かないような特徴もある。なによりポジションが、バーハンであることが多いにもかかわらず尻上がりで戦闘的なものがほとんどだ。
 実車にまたがり、Z900RSはちょうどこの二つのカテゴリーの間に位置するように感じた。ビンビンにフケるエンジンや近代的な足周りにもかかわらず、シート高が低く足つきも良好、ハンドルは高くてあらゆるシチュエーションにおいて無理がなさそうである。タンデムシートもしっかりと厚みがあり、荷掛けフックやヘルメットホルダーといった親切装備もちゃんとある。これらはZのスタイリングイメージを追求した副産物的な部分でもあるかもしれないが、結果として多くの人が求めていたことのようにも思う。日常ユースや長距離ツーリングも許容するある程度の汎用性がありつつ、その気になれば近代的な運動性能を持っているマシン。「レトロ」の名前に隠れているが、実はこれは新しいカテゴリーの誕生のようにも感じて走り出した。

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路面が、近い!

 シート高が低いニューモデルに乗るのが久しぶりに感じる。余裕の足着きでしかも大アップハンだから非常に楽で快適な乗車姿勢だ。ライダーの重心を高い位置に設定して運動性を引き出そうとする最近の風潮とは違って、低重心ならではの安心感が走り出しからたっぷりとある。アップハンをスイスイと左右に振るとその操作感に、「あ、ゼファーぽい」などと妙に感心してしまったのだが、これは最近忘れていた90年代ビッグネイキッドの気軽さを持っているという事であってその感覚は別にゼファーに限定したものでもないだろう。ビッグネイキッドのようにスッと馴染め、かつ車体は軽いのだから気軽さは大きい。キビキビした反応は楽しく、走り出してすぐに自信をもって操作することができた。
 最初の走行ステージはサーキットだったこともあり、タイヤを温めたら腰をずらしてスポーティに走らせてみる。するとすぐにヒザを擦ってしまったのだ。シートが低いゆえにバンク角がそれほど深くなくとも路面が近く、とても安心感がある。無理して飛ばさずとも膝をガリガリとできてしまうのだから楽しい。その後すぐに今度はステップを擦ってしまうためサーキット走行に主眼を置いていないのは明らか。またハンドリングも、同時に乗ったセパハンのニンジャ250/400に比べれば前輪が遠くに感じ、ダンロップのGPR300というスタンダードなタイヤを履いているという事もあって、クイックという印象ではない。むしろフロントに積極的に荷重していかなければ曲がっていかない感じもあり、ここも現代のストリートファイターではなくかつてのビッグネイキッドに似ていると感じた部分だ。もっとも、当日は気温がとても低くあまり攻め込んだスポーツ走行は怖くてできなかったが。
 しかしそんな状況でも楽しく走り続けることができたのはその接しやすさゆえだろう。あまりにシャープな乗り味では怖さが先行して撮影が済んだら早々とピットインする所だが、Zはしばらく走り回っていたのだからそれが証拠だ。しかも飛ばしても飛ばさなくても楽しめる、というトコロも好印象。ライダーの重心位置の低さと余裕あるポジションのおかげで無理なく乗り続ける事ができたのだ。

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倒立フォークが嫌じゃない

 偏見かもしれないが、筆者は公道に主眼を置くバイクに倒立フォークという組み合わせにあまり優位性を感じていない。ダイレクトな操作性や剛性感は出るし、何よりカッコ良いのかもしれないが、路面状況が悪くなってくるとそのカチッと感がむしろ繊細に感じてしまう場面もあるし、ハンドリングとは違った部分でハンドル切れ角が犠牲になることが多いというのも懸案事項だ。様々な路面コンディションを考えると正立フォークで十分なんじゃないか、というひねくれもの、もとい現実主義者である。ましてやZ。イメージ的に倒立はどうか、とも思ったのだが、しかし乗るとこれが嫌ではなかった。まずハンドル切れ角がしっかり確保されていたため走り始めてすぐの印象が良い。そしてネック周りに剛性感はあるものの作動そのものは柔らかめでしなやかさがあった。サーキットだけでなく公道試乗もあったのだが、繊細さ、言い換えれば神経質にも感じるような場面、には一度も遭遇しなかった。そしてカラーもいたずらに派手にせずブラックとしているのもイイではないか。機能的な部分で納得するとスタイリング上でも気にならなくなるから不思議だ。
 同様にリア周りもモノショックの動きがとても自然。適度なストローク感があり、クッションのあるシートのおかげもあって乗り心地や路面を感じられる能力は高く感じた。100馬力以上あるエンジンのためこの気温でトラクションコントロールを効かせるようなアクセルの開け方はしなかったが、いざという時はトラコンもある、というのも現代的な安全装備だ。総じて足周りの印象は、サーキットにおいては少し柔らかめかもしれないがとても良いものだった。個人的にポイントに思ったのはZ1を連想させる大アップハンドルなのに付け根がファットバーになっていること。倒立フォークのダイレクトなフィーリングを長いハンドルバーで逃がしてしまわないよう剛性を持たせてハンドリングを演出したのではないかな? と思えてそこに意図を感じられてうれしかった。

Zの味付け、今のトレンド

 エンジンは948ccで111馬力というスペック、当然速い。特に3000回転付近からアクセルを開けると、空冷カワサキ時代のようなトルクの載り方をしてグイグイと車体を進めてくれる。60キロぐらいからの加速は本当に得意で140キロぐらいまではギア選択に関わらず自由自在に加速できる印象。そこから先はネイキッドバイクの宿命、風との戦いであり特に体が起きたポジションである事もあってメーター読み190キロ付近で作動するリミッターまで一瞬で加速していく、というわけではないが、公道ユースにおいては常にパワーに余裕があると思っていいだろう。
 面白いのはそのパワーの出かただ。駆動がかかってからはズズズュルーゥっと雑味を伴いながら、どこか空冷らしさみたいなものも感じさせつつ回転が上昇するのだ。「カワサキはゴリゴリしたエンジン」といったような印象を持っているライダーの期待を裏切らないフィーリング。エンジン内部の味付けについては教えてもらえなかったものの、クランクを重く設定しているのか中低速が得意なカムを使っているのか、その要素が何であれこの味付けにはそうとう力が入っているのではないかと思わせられ、多くの先輩ライダーはどこか懐かしさを感じながら走らせることができるのではないかと想像できた。
 一方でアクセルのツキの部分は近代的な、どこか今のトレンドであるストリートファイター的な要素も感じられる。アクセルの開けに対して敏感な部分もあり、開けると決めて開けていく時には打てば響くその反応が気持ちいいものの、先のコーナーのアールがわからずにパーシャル領域で間合いを図るような(公道ではわりと遭遇しやすい)場面ではギクシャクしてしまうように感じることもあった。そのツキは慣れればエキサィティングに感じる部分かもしれないが、特に柔らかめの足周りとの組み合わせを考えると、もう少しファジーだったらよりこの車両の性格に合っていたようにも思う。この開け始めの部分においての現在の設定はツーリングライダーより、むしろアクティブな走りを楽しみたいライダーに向けたものなのであろう。

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説明書はいらない

 乗る前になにか身構えるようなことがないのが良い。誰が見ても「バイク」というカタチであり、「僕にも乗れるかな?」という気にさせてくれる。またがってもスイッチ類はいつも通りの使いやすい所にあり、メーターは「いったいどこを見れば良いの?」ということはない。普通にアナログのスピードとタコが並んでいて、針が数値を指し示してくれる。トラコンの操作も難しいことはなく、とにかく操作において難解な部分が一切ない。ヘルメットホルダーはどこだ? とならない。いつもの所に、普通にある。荷かけのゴムネットはいったいどこにひっかければ? とならない。欲しい所にちゃんとフックがある。こういった部分はカワサキの良心であり、最近のバイクが失いつつあったところだと思う。さらにはUターンも楽にこなすハンドル切れ角やタンデムの快適性も考慮された点など高い汎用性が好印象だ。これなら説明書を読む必要などないだろう。普通に誰でも気負わず走り出せること、これは大切なことだ。

時代を超えて愛される

 カワサキは細部までこだわって作り込み、「Z1同様に時代を超えて愛される魅力にあふれた」バイクを作り上げたという。これを成し遂げるのは非常に難しいことだろうが、Z900RSにはその要素が溢れているように思う。流行りに左右されないスタイリングやトレンドに流されない車体/エンジンの味付け、そしてあらゆる使い方に対応できる、不便のない各種ユーティリティ(ちなみにETCは標準装備)。気軽に乗ろうかと思わせる車重やポジションなどもそうだ。これなら無理なく付き合い続ける事ができるのではないかと思え、多くのライダーに薦める事ができるように感じた試乗だった。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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カワサキのロゴが刻まれたラジアルマウントキャリパーはφ300mmディスクと組み合わされ高い制動力を発揮。ラジアルポンプマスターの採用と相まって特に好印象だったポイントだ。 車名は900だが実際は948ccのエンジン。空冷エンジンをモチーフにシリンダーヘッドにはフィンをデザイン。低中回転域の力強いトルクフィールを重視したセッティングが施されている。 アルミスイングアームとモノショックは現代的装備だが、スポークを意識したデザインのキャストホイールは特に美しい。オレンジ車体では側面が切削加工されなお上質だ。
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前後のサスペンションは減衰調整機能付きのフルアジャスタブルタイプ。出荷時の設定では一定の剛性感がありつつもゴツゴツした印象がなく使いやすいと感じた。 カワサキ初の「エギゾーストサウンドチューニング」を施したマフラーは自信作だそう。高品質ステンレス鋼製バフ仕上げのメガホンマフラーは「低く厚みのある迫力のエギゾーストサウンドを実現」している。
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馴染みやすい2眼のアナログメーターはとても見やすい。写真では点灯していないが中央にはギアポジションや燃料計などを表示する液晶パネルが。新旧の融合といった趣きだ。 ダイヤモンドフレームを覆うようにデザインされたタンクは、Z1を知っている人からすると少し幅広に感じるかもしれない。容量は17L。燃料はハイオク指定だ。 ライダー側の快適性のみならず、タンデムライダーの快適性や荷物の積載性などの面から見ても優秀なシート。アクセサリーでグラブバーもあり、またハイシートの設定もある。ヘルメットホルダーや荷掛けフックもちゃんと装備している。
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細かなLEDをたくさん並べるのではなく、一つの大光量LEDバルブを面発光させることで光り方にもこだわったテールランプ。形状もテールカウルと共にZ1をイメージしたもの。 砲弾型メーターと丸ライト、メッキハンドルが往年のフロントビューを演出。しかしハンドルはファットバーとなっているなど近代的な部分も。ウインカーはLEDを採用。 内部が6室に分かれているLEDヘッドライトは4室がロービーム、2室がハイビーム。φ170mmと大径としたことで高い視認性を確保しているとするが、今回は夜間走行なく未確認。
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メーカー純正カスタムマシンとして、このカフェスタイル“Z900RS CAFE”もラインナップ予定。独自のカラーリングだけでなく、低く構えた専用のハンドル、カフェ感漂うカウル、専用設計のシート及び各種専用デカールなど細部まで作り込まれている。詳細の発表および発売が楽しみだ。(写真の上でクリックすると大きな画像で見られます)
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/Xztv9uL–W4
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カスタムを楽しむ向きもあるだろうと、カワサキが先行してビルダーに車両を提供。カスタムコンセプトとして当日は3台が展示された。
(上左)モトコルセによるカスタムは前後にオーリンズサスペンションやカーボンホイールといった機能パーツを投入し走りの性能を高めている。Zらしさよりもモダンカフェレーサーイズムを追求した提案だ。
(上中央)ビトーR&Dは「より自然なフィーリングを求めて」前後に自社JBブランドの細身の18インチホイールを採用。チタンフルエキで軽量化しつつ、キャリアを装着するなど実用性も追及。
(上右)よりZらしさを追求したのはドレミコレクション。やはり18インチ仕様なのだがそのブランドはモーリスで、鉄フェンダーと共に当時の雰囲気を演出している。マフラーはもちろん、4本出しだ。(写真の上でクリックすると大きな画像で見られます)
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●Kawasaki Z900RS 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,100×865×1,150mm、ホイールベース:1,470mm、シート高:800mm、車両重量:215kg■エンジン種類:水冷直列4気筒DOHC4バルブ、排気量:948cm3、ボア×ストローク:73.4×56.0mm、圧縮比:10.8、最高出力:82kw(111PS)/8,500rpm、最大トルク:98N・m/6,500rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:17.4L、変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):φ300mm油圧式デュアルディスク × φ250mm油圧式シングルディスク、タイヤ(前×後):120/70ZR17M/C 58W × 180/55ZR17M/C 73W、フレーム:ダイヤモンド■メーカー希望小売価格:1,296,000円/1,328,400円(12月1日発売)

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