いよいよ駒が揃ってきた。なにが、って250ccアドベンチャーカテゴリー。
Ninja250Rが火をつけた250ccスポーツが
とうとうアドベンチャー……というかロングツアラーまで到達したのだ。
■文/中村浩史 ■撮影/島村栄二
■スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
軽量コンパクトで持て余し感が少なく、車検もないから維持費も安い――それが250ccクラス特有の大きな魅力だろう。バイクに乗り始めよう、という時に初めてのパートナーとして選ぶのもいいし、気軽にずっと付き合える相棒としてもいい。しばらく乗っていなかったけれど、久しぶりにバイクに乗ってみようかな、っていう返り咲きの対象としてもいい。
だから今、250ccが人気なのだ。1980~90年代のモデルを知っている身にしてみれば、現代の250ccクラス(に限らず全クラスに当てはまるんだけど)は、騒音規制や排出ガス規制に締め付けられて、ずいぶんパワー感や力強さには欠けるけれど、その分あの頃にはなかったメカや装備がある。デジタルメーターやライドbyワイヤ、それに付随する選択式ライディングモードなんて、あの頃には夢にも思わなかった装備だもの。
そして250ccアドベンチャーカテゴリーだ。かつては250ccオフロードツアラーなんて呼ばれていたこのカテゴリーは、’87年のホンダXLR-BAJAあたりがルーツだろうか。オフロードモデルのXLR250Rがあって、そのツーリング向けバージョンとして誕生したモデルだが、今も変わらない250cc特有のメリットもあって、スズキがDJEBEL250を、カワサキがKLE250アネーロを、そしてヤマハがTT250Raidを発売した。この頃の日本バイク界は、レーサーレプリカ一辺倒からようやく脱却できて、バイクでの旅、ロングツーリングがずいぶん一般的になっていた頃だったのだなぁ。
あれから25年。ひところのミドルクラス不人気は脱したし、この数年で各社とも250ccスポーツは出揃った。こうなれば次は、そのスポーツモデルをベースにしたオフロードツアラーが誕生するのは時間の問題だったのかもしれない。口火を切ったのは、やはりホンダだった。CRF250LをベースとしたCRF250Rallyを発売し、ついでカワサキがVERSYS-X 250を、そしてスズキが発売したのが、このV-Strom250なのだ。
V-Strom250はGSR250系のエンジン/フレームをベースにしたオフロードツアラーだ。しかし、厳密に言うと、ホイールサイズも装着タイヤも、決してオフロード向きってわけじゃない。1000/650のV-Stromシリーズを思わせるオフロードルックではあるけれど、正確にはリラックスポジションのツーリングスポーツ、と言ったところだろうか。
GSRシリーズの最新モデルGSX250R直系のモデルと言えるもので、専用のスタイリングやパッケージを持たせたもの、という見方が正しい。車重はGSX250Rに比べて10kg、GSR250に比べて5kg重いだけで、その分ライディングポジションが思い切りラク。シート高もGSRより20mm、250Rより10mm高い800mmだが、車幅がスリムだから、足着きは身長160cm台のライダーでも不安はないだろう。
エンジンをかけると、本当に静か。ストトトト、と拍子抜けするほど軽快で、アクセルへのツキもシャープではない。けれどこのGSR系の水冷2気筒エンジンは、本当に低回転のトルクが力強い。250ccとは思えないほど発進がイージーで、ストリートでのスピードの乗りが早い。ちょっとイジワルに試してみると、2速3速でも、そう長い半クラッチを使わなくても発進できる。これはライバル勢を上回る強みだ。
その分、高回転のパワー感は控えめ。回転の吹け上りもシャープさはなく、高回転域でのパワフルさもない穏やかな出力特性。これは、物足りないと感じる人と同じくらい、安心だと感じる人も多いはず。このGSR系のエンジンは、このV-Strom250にこそもっともマッチしているとも思わせるのだ。
ハンドリングは安定性が大きめの直進安定性が強いもの。法定速度あたりでの高速巡航では、トップギア6速で80km/hが6000rpm、100km/hが7800rpmといった回転数。振動も少なく、ピタッとした直進安定性が快適だった。スクリーンは、ちょうどヘルメットあたりへの風のあたりを弱めてくれる。
もちろんワインディング性能を云々するバイクじゃないけれど、少し走った時には、舵が大きめに入るタイプで、小回りも苦にしない。ペースを上げて走ると、タイヤ一本分イン側に入れるような、そんなハンドリング。バンク角も大きく、意外とキビキビ走れてしまうのだ。これは、今回はトライしなかったけれど、タンデムや荷物積載時にも安定性を損なわないための車体構成でもあるはず。250ccでもタンデムや荷物積載について考えられているのも、このカテゴリーの大きな特徴だと言っていい。
V-Strom250の得意なフィールドは、やはりクルージング。ライバルモデルで言えば、単気筒エンジンを搭載するCRF250Rallyがややオフロード志向で、VERSYS-X 250とV-Strom250がクルージング向けに思えた。トップギアで60~80km/hで流している時に、あぁどっかツーリングに行きたいなぁ、って思わせてくれるのが、このカテゴリーのいいところなのだ。
決して軽くはない――それは高速道路での安定性の高さにつながっている。
シャープなパワー特性ではない――それは誰にでも扱える穏やかさを狙ったものだ。
オフロードに踏み入っていくモデルではないし、兄弟車の650や1000に比べれば、行動範囲だって広くはない。
けれど、オフでも行けそうだな、長距離走りたいな――そう思わせるのがV-Strom250の魅力なのである。
(試乗・文:中村浩史)
オプションのパニアケース(左右セット:税込4万8600円)をマウントするレールを標準装備している親切設計。アルミ製リアキャリアも標準装備で、ドローコードのフックも装備されている。トップケース(税込2万7000円)のマウントには別売りのプレートが必要。 |
シート下は車載工具のほか、収納スペースはさほどない。写真の車載工具横のフックが内蔵式ヘルメットホルダーで、ヘルメットのDリングをひっかけて、シートを装着してロックする。フックは左右に装備され、タンデムライダー分もロックできる。 |
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