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第39回 年に1度のお楽しみ、トライアル世界選手権
2017年のトライアル世界選手権の開幕はスペイン。HRCのトニー・ボウ選手が優勝、日本が誇る世界のフジガス・藤波貴久選手は5位で始まりました。続く日本ラウンドが全8戦のうちの第2戦目になります。 トライアルはもっとも近くで見られるモータースポーツ。世界選手権ともなると選手たちがコースインするときの目ヂカラ、気合い一発の声から息遣い、成功しても失敗しても雄たけびを上げる姿が見られます。これがだいたいスペイン語? なのでナニを言ってるのかわかりませんが、とにかく迫力に圧倒されますし、それだけの精神をもって挑んでるということです。こちらも、一瞬たりとも見逃せない緊張感に包まれます。
日本ラウンドは5月27、28日にツインリンクもてぎで開催されました。DAY1は前日からの雨が残り、午前中もパラパラ。午後から雨は上がったのですが、コースが乾くこともなく、多くのライダーが掘り返した泥が岩に付着した難しいコンディションとなりました。 チャンピオン、トニー・ボウ選手ですら序盤の第2、3セクションで5点(トライアルは規定時間内に足をつかずに走破する競技。1度も足をつかないで走り抜けると0点、1度つくと1点、2度で2点となり、コーステープを切ったり落車は5点となり、そのセクションは失格。0点は「クリーン」という)を出すほど。それでも走りをまとめて最終的には2位に24ポイントの大量差をつけて優勝。2位は予選トップ、悪路に強いといわれるイギリス人のダビル選手。藤波貴久選手は、最終セクションまでジェロ二・ファハルドと1ポイント差の接戦ののちに3位表彰台を獲得!
2日目、コースはベスコン! 時間が経つほど路面はドライになりクリーンを連発。ですが、1ポイントのミスが重くのしかかるシビアな戦いになりました。上位選手はほとんどクリーンを連発していくのですが、第7セクションは曲がりくねったラインの最後に滝の流れる大岩を越える設定。ここはクリーンの選手のいない難セクションで、観客が大勢押し寄せていました。 2ラップ目、クリーンしたのはハイメ・ブスト選手ただ一人ですが、全日本チャンプのガッチさん(小川友幸選手)も3点ながら最後まで走破して大喝采でしたね! 2日目になると選手達もセクションを覚え、難しくないところはさっさと通過していってしまうので、観客の足が追いつかないハイスピードな戦いに。 トライアルは順位が下位の選手から順にコースインしていきます。たとえば予選7位のフジガスを第2セクションで見ていたとして、ボウ選手や最終のダビル選手を見てから移動するとすでにフジガスは次の第3セクションを終えて第4セクションに差し掛かっているという……観客にも移動のスピードが求められるのが世界のトライアルなのです。撮影する側としては、いくつかの絵になりづらいセクションは捨てて先回りして待つスタイルが定石です。 観客が一番集まる最終の第15セクション。ここは1日目はパス(棄権)した選手も含めてトニー以外全員が5点でしたが、2日目はドライになったので上位選手が華麗にアタックしていく様を堪能できました。ボウ選手や黒山選手、ハイメ選手はエアターンを決めて会場を沸かせました。
結果、ボウ選手は92回目の優勝、そしてタイトルを獲得したX-TRIALから今季は負けなし。なんて人だ! 気になるのは、フジガス以外の日本人選手たち。黒山健一選手(1日目11位・2日目10位・以下同)。1日目第1セクションの最初の岩でクラッシュしたときに指を負傷、4針を縫う怪我を負ってしまいます。2日目はグローブの小指を切ってのレースで、海外選手に割って入る成績を残しました。 野崎史高選手(13・18位)は、2日目の2ラップ目にリアサスが壊れるトラブルで思うようなレースができず仕舞いとなってしまいました。小川友幸選手(20・20位)は腰痛が悪化し、痛みに耐えながらのトライとなりました。後のトークショーで語ってくれましたが、藤波選手やボウ選手のバイクをテストしていて腰を傷めてしまったようで、藤波選手は「自分の表彰台やトニー選手の優勝はガッチのおかげだ」と感謝していました。セクション中でも、ガッチさんからアドバイスを受ける藤波選手の姿が見られ、この2人のハンパ仲良し具合がよくわかりました。 レース後の藤波選手、小川選手、黒山選手のトークショーは、全ての選手に聞かせたいくらい流れもよく、面白くて爆笑の渦でした。 トライアル2クラスでは小川毅士選手が1日目を9位、2日目を5位で終えていますが、1ラップ目を2位につけていただけに惜しくも表彰台を逃し、柴田暁選手は17位、15位、 藤原慎也選手は21位、17位というリザルトでした。
ところで、トライアルには選手に寄り添ってアドバイスや激励をするアシスタント、マインダーも特徴のひとつ。ラインを指示したり、危険なときにサッと手を出してタイヤを掴んだりします。ちなみにマインダーがバイクにタッチしたら即5点で失格。ですから「危ない」という絶妙なタイミングでキャッチするのです。イケるときにはバイクに手がかかっていそうで触っていないのです。この見極めはどうするのか?と、藤波選手に伺ったところ、普段の練習などで危険かそうでないかを判断するのだそうですが、「僕の場合はそれでもいけるときがあるから判断はすごく難しいと思うよ」。バイクを暴れさせながら豪快にクリアして観客を沸かせるフジガスですから、もし失敗したら? の問いには「キレる!(笑)」とのこと・・コワッ・・・マインダーも相当な判断力を要するわけですね。
今シーズンからタイムトライアル予選が行われることになり、コースインの順番が毎戦変動したり、また2ラップ目に入る前に20分休憩が設けられていたりと、トライアルも改革の波が押し寄せているみたいです。予選の様子はネットで見ることが出来るのでファンにとってはありがたいです。 小山知良選手や古市右京選手、伊藤勇樹選手など、ロードレースやモトクロスのライダーも観戦に来て熱心に見入っていました。シーズンオフなどにトライアルでバランス感覚を磨く選手も少なくありません。 大会に先駆けてウエルカムプラザでトークショーやトライアルデモなどが開催されました。MotoGPの5万人超には敵いませんが、観客数は1日目6,700人、2日目9,500人 。この大半というかほぼ100%が、唯一日本人でフル参戦しているフジガスの応援をしていると思いますから、フジガスというひとりの選手が引き寄せるパワーって凄いなと思います。DAY1では期待に応え表彰台に上がってくれ拍手喝采。また来年も! という温かい空気が会場全体を包んでいました。
●各選手のコメント トニー・ボウ選手 「最高の週末になりました! 今年から予選のシステムが変わっていろいろと大変でしたが、ホンダのホームであるもてぎで勝つことができました。最後のセクションがうまくいって気持ちが良かった! これからも皆様のサポートをよろしくお願いします」 藤波貴久選手 「表彰台に戻ってこられたのはとても良かったです。終始難しいコースで大変でしたが、3位は大切なことです。ライダーを育てる立場でもあるので、ハイメも一緒に表彰台を独占できればよかったですけどね。2日目は勝つ気満々で前半の調子も悪くなかったのですが、イライラが爆発して空回りもしていたし、チェーンが外れて5点とか(1ラップ目11セクション) 後半はマシンの状態も悪くなって、だましだまし乗っていたような状況でした。勝とうという気持ちが強すぎて余裕がありませまでした」(思えば、セクションに入る前に叫んでいたり、ちょっと不機嫌そうなところもあったかも?) 黒山健一選手 「全日本よりハードなレース展開とハードなセクションを走るには、まだちょっとバイクの性能が足りない部分などが見えました。じゃじゃ馬なバイクを扱う体力もまだ足りない。エンジン、ギア、サス全てにおいて発見があったことが非常に良かった。1ラップ目は、もうちょっと上位に残れそうなポジションにいたので、ちょっと夢を見ましたが、結果的にいつもの順位に落ち着いたかなと。これが自分の今の実力です。ありがとうございました」 小川友幸選手 「世界の選手層が厚くなってるのも分かっていたし、今年はいつになく難しくなるとは思っていました。ひとつのミスで一気に順位が落ちるのも分かっていました。ポイントがとれなかったのは痛いですが、身体が悪化しなかったのは良かったことです。腰の痛みは走っているうちに徐々に良くなってきた気がしました。最終セクションは、得意なパターンのところなのに手が離れてしまって勿体なかった!」 小川毅士選手(トライアル2クラス) 「1日目、自分的には乗れてなかったのに9位に入れたので、2日目は表彰台いけると思っていたんですが……現実は厳しかった。全日本よりも超絶悔しいです」