■試乗&文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:KTM JAPAN http://www.ktm.com/jp/
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このあたりまでだろう--、そう思わせておいてひと伸びするエンジン。パワーもトルクもなだらかに増え続ける。スムーズかつ振動の少ないエンジンがサーキットを遊び場に変える実力に、コンパクトな250の面白さを知る。
ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
本当は「健在!ホットハッチなKTMの魅力全開」的タイトルを390向けに考えてサーキット入りしたのだが、実際、125、250、390と乗ってみると、ホットハッチポジションは250こそそれに相応しい。
ホットハッチってなんだ? という声が聞こえそうだが、ヨーロッパ発祥のコンパクトカーにパワフルなエンジン、引き締まったサスペンション、そしてスポーティーなパーツを奢ったクルマのことだ。初期型ゴルフのGTI が元祖、というのが定説だ。まあ、大人しいファミリーカーのアイコン、カローラ(のクーペ)にDOHC+2連ソレックスの2T-Gを載せ、オーバーフェンダーで武装したTE27レビンのような「元ネタ」あってのスポーツカー的比較級のようなものも、広義ではホットハッチだと私は思う。250デュークはそもそもスポーツネイキッドだから、飛躍した解釈かもしれない。
でも、スモールデュークの中で間違いなくホットハッチ的良質なバランスを持っている。
ポジションはシリーズ共通。シート高が30mm上がって、830mmとなったものの、シートの造りがよく、低くどっかり座る印象だった前作と足着き性は変わらない印象だ。しかし、ハンドル、ステップ、シートで造るポジションは、1290スーパーデュークRにも似た、前傾姿勢のやる気ポジションとなった。
そして、シートとステップのクリアランスが変化した結果、前作のようなシートが前、ステップが後ろ、というどこかちぐはぐなポジションが是正されている。気持ちが良い。
エンジン下だったマフラーエンドは、パイプとサイレンサーを装備してさらに後方に伸び、耳に届く刺激は少々減ったが、単気筒らしいサウンドは健在。そのエンジンは、スムーズで振動が少ない最新モードという印象は従来通り。良いフィーリングだ。
走り出す。ピットレーンを加速する。やっぱりトルク、パワーとも程よく、それでいて、国産モデルのような「こんなモンで充分でしょ?」という見切りがない。走り屋が造ったエンジンだ。加速とエンジン上昇の間にスキが無くエンジンの心地よさが高回転まで続く。とにかく小さな体躯が見せるダッシュ力に口元が緩む。つながりのよいギア比により、6速に入るまで加速力に減退が無い。このあたりがホットハッチ感覚なのだ。
日本のバイクカルチャーにある250は価格が安く、入門編で、ビギナーが乗りやすく、維持費が安い……、というものを踏襲しながら、そんなこと知らない異文化の250として存在感がある。57万円という価格が安いのか高いのか。それは意中の国産他機種と比較してみて欲しい。
ちなみに、KTMデュークは、WPサスペンション、ブレンボがプロデュースしインドで生産するブランド、バイブレ製のブレーキシステム、KTMが連綿とオフロードバイクの世界で培ってきた4スト単気筒技術が直球入魂されていると感心することしきりのエンジン。そして、軽量鋼管を使ったトレリスフレーム。これらコンパクトデュークシリーズのパッケージは、ロードスポーツの最小公約数としてもいいだろう。
メーターパネルの中央に赤く光るシフトタイミングライトの存在意義がよくわかる。シフトタイミングだけ解れば、あとは感覚的に何回転とかあまり頓着する必要がない。このバイクのエンジンは何処までも扱いやすいフラットトルクだ。履いているタイヤも上質。グリップ感やハンドリングの手応え、そしてリーンしてゆく過程もこのバイクにマッチした特性だ。
ブレーキの性能とタッチはリッタースポーツバイク並、といったらホメ過ぎだけど、ブレーキを掛けた時、減速を受け止める車体の反応は上質なバランスをもっている。1コーナーに向けてのハードブレーキングでも、間合いを取るようなブレーキングでも、同様に扱いやすい。速度コントロールに自信が持てること。これはスポーツバイクにとってもっとも大切なファクターだ。
コーナリングでの反応もコンパクトながら、安定感があり、小柄な体躯を忘れそうな安心感がある。もちろん、狙ったラインに載せるのが難しくなく、持てるパワーを存分に叩きつける面白さに40分以上あった試乗時間は、休む間もなく走り続けてしまった。
前後の荷重バランスを変えてみようと、イニシャルプリロードを2段ほど掛けてみた。旋回時にGがかかって沈み込んでいたリアの車高が上がったことで、さらに寝かし込みに入りやすくなり、楽しくなった。
ただし、リアタイヤの接地面がコーナリング中にぐりぐり路面に押しつけられるようなつま先立ち感がちょっと出てしまったが……。そんな変化も即解るってスゴイ! 取捨選択ができる。旋回初期の気持ち良さを採り、フルバンク時のヌメリ感はコチラで受け持つ、とかね。
とにかく、6速全開まで思いのままに走れるパワフルさは病みつきになる。走り出す前、兄弟達のように、メーターがTFTじゃない、LEDライトはどうして着かない? という外枠からだけでは見えない本質をサーキットランでたっぷりと味わい、ホットハッチと呼びたくなるバイクをピットレーンに戻すのだった。
(試乗・文:松井 勉)