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Vol.119 第7戦 カタルニアGP Better Days Ahead

 アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)2連勝である。前戦のホームGP、ムジェロで優勝した際には「次のカタルーニャGPは厳しいと思う」と、苦戦を覚悟する様子を見せ、今回のレースウィークが始まって初日の金曜日に4番手を記録した際にも
「一ヶ月前にテストをしていたから今日はそこそこ走れたけれども、明日はライバル勢がきっと上げてくると思う」と警戒を怠らなかった。7番グリッドスタートの決勝レースでは序盤からスタートをうまく決めて上位グループの後方でタイヤマネージメントに配慮する戦略がピタリと決まり、終盤は後続を引き離して優勝を飾った。
 今回の舞台、カタルーニャサーキットは舗装が古くグリップが低いうえに、F1の影響でバンプ(路面の凹凸)も多く、しかも季節的に強い日射を受けて路面温度が上昇する。タイヤにとっては非常に苛酷な状況で、金曜の段階から多くのライダーが「数周も走ると一気にタイヤ性能が低下する」と口をそろえたように話していた。一般にタイヤの消耗は平易な言い方で”tire wear”という表現が用いられる。ドヴィツィオーゾの場合は、タイヤが減っていくという意味で”tire consumption”という表現を用いることが多い。(ちなみに、ご存じのとおりtireは米語式表記、tyreは英語式表記。トメイトは米語式、トマートは英語式。タマゴは日本語、タメイゴは米語。これはうそです)。この”tire wear”は、少し専門的に”degradation”(性能劣化)という表現もよく用いられる。また、地面の側に原因がある場合には、タイヤを摩耗させやすい(abrasive)路面特性、という言い方もできる。以上、TOEICにはまず出ないであろうMotoGP英語講座でした。

 閑話休題。
 何の話でしたっけ。
 そうそう。で、そのタイヤ消耗を最も上手く管理して巧みにコントロールしきったのがドヴィツィオーゾだった、というわけだ。
 ポールポジションスタートのダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)は、序盤から調子良い走りで終盤までトップを走行していたものの、レース後には「何度もドビが横に並んで来たとき、スロットルを戻して抜かなかったので『これは勝つのは難しそうだな』と思った」とそのときの様子を振り返っている。
 一方、ペドロサの背後にピタリとつけていたドヴィツィオーゾはというと、
「ふたりほど抜いてからダニの後ろにつけて、そこで様子をみた。ダニはとても上手く乗っていて、自分と同様にタイヤを温存していた。でも、自分は加速が良かったのでハードにブレーキする必要がなく、フロントも温存できた」
 と話している。
 ペドロサは最終的に3位でフィニッシュ。前回は最後の最後に転倒ノーポイントで終えているだけに、ポイント確保に切り替えたのだとも話した。それは2位で終えたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)も同様で、
「今日のレースはチームメイトが最大のライバルだと思っていたけど、ドビが追いついてきて、彼こそが本命のライバルだとわかった。とても上手く乗っていて、こちらは直線で負けるわりにコーナーでも埋め合わせられなくて、バイクの限界だった。攻めたけど、ドビが逃げ始めたので、転倒するよりも20ポイントの確保に切り替えた」
 と、レース後に話した。
 この結果により、ランキング首位はマーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)で変わらないものの、ドヴィツィオーゾがその7ポイント後方でランキング2番手に浮上した。そこから16点差でマルケス、そこから4点ビハインドでペドロサ、さらに8点後ろにバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)と続く。ヴィニャーレスからロッシまでは28点差。一触即発、である。四人囃子、じゃなくてまさに五人囃子。

*   *   *   *   *

#04
次のアッセンでも好成績なら「ホンモノ」ですね。

 ところで、今回のレースで厳しい結果になったのがヤマハファクトリーの2台、ロッシとヴィニャーレスである。フリープラクティスから苦戦し続け、土曜の予選では、なんとふたりそろってQ1落ち。サテライトの2台、モンスター・ヤマハTech3のヨハン・ザルコとヨナス・フォルガーが決勝レースでは健闘してそれぞれ5位と6位で終えているのに対して、ファクトリー勢はロッシが8位、ヴィニャーレスは10位、という惨憺たるリザルト。
「去年のレースで勝った2戦(ヘレス、カタルーニャ)が、今年のワースト2になってしまった」とロッシがレース後に話していたとおり、昨年、ヤマハが強さを発揮したコースは今年のレースでいずれも苦戦を強いられている。ただし、グリップが低く、滑りやすい路面の両レースでサテライトの2名(2016年仕様)がいずれも善戦していることから、ヤマハ勢というよりも今年のファクトリーマシンがヘレスや今回のような路面条件を苦手としているのだろうな、という推測ができる。
 じっさいに、ロッシ自身が
「去年のバイクのほうが限界まで持って行きやすかった」「2016年のバイクのほうが旋回性もよく、リアに対するストレスも少ない」
 と発言している。
 ヴィニャーレスは
「(どうしてこんなに苦労するのか)フィニッシュラインを通るたびに自問していたよ(笑)。わからないんだよ。バイクが加速しないんだ」
 と言いながら
「バイクはいいんだ。バイクは走っている」
 とも述べた。彼が言外に込めたかったニュアンスの妥当性はともかくとしても、なぜ彼が今回こんなに悪戦苦闘を強いられたのか、ということについて、ドヴィツィオーゾが土曜の予選後にこんなことを話していた。
「マーヴェリックはかなり苦戦しているけど、彼はヤマハでバレンティーノほど多様な状況の経験がまだないだろうからね。バレンティーノは、マーヴェリックとはまた違ったアプローチをしていると思う。マーヴェリックは良い位置(ランキング首位)にいて勝ちたいと思っている。だからアグレッシブに攻めていて、そこで今回のような難しいコースコンディションの厳しいウィークになったら焦ってしまい、アグレッシブになって余計に悪い方向にいってしまうのかもしれない。バレンティーノは落ち着いて、最後にFP4でも良いラップタイムを出していた。そこは経験の違いだと思う」
 ドヴィツィオーゾの面目躍如、といっていい卓見ではあるが、それもこれも含めて、今回は彼のウィークだった、ということなのでしょう。

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#93

#26
今週の転倒王。 唇に火の酒、背中に人生を。

#46

#25
事後テストでニューフレーム投入。 相性の良いアッセンで逆襲なるか。

 最後にもうひとつ余談。
 今回のパドックでは、某選手が今年の鈴鹿8耐に参戦するのではないか、と強く囁かれていて、話題の特性上、おまえ話聞いてこい、みたいな流れになったので、本人に直接訊ねてきました(We heard a rumor that you might ride for Suzuka 8hours this year. If it is the case, it will be a very big news especially for Japanese road racing fans. So, do you have anything that you can let us know about it? みたいに)
 したら、本人の返答は以下のとおり。
“Yeah, I mean I would like to…,but, we cannot say anything just yet. I think the announcement will be soon, It’s been something that I really want to do ever since I came back to **** in 2015. Happy enough to…maybe be going this year will be good.”
 というわけで、本日ここまで。では次回のアッセンでお会いしましょう。


 



■2017年6月11日 
第7戦 カタルニアGP
バルセロナサーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


4 #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


5 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


6 #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


7 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


8 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


9 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


10 #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


11 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


12 #76 Loris BAZ Reale Avintia Racing DUCATI


13 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


14 #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


15 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


16 #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


17 #50 Sylvain Guintoli Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


18 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


19 #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


RT #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


RT #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA




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