■試乗&文:松井 勉 ■撮影:依田 麗 ■協力:Kawasaki http://www.kawasaki-motors.com/
『出会いと別れ──2017年、カワサキのラインナップが大きくシフトする。その中で世界のカワサキファンを満たしている定番スポーツツアラー、Ninja1000の国内仕様販売が始まったのは嬉しいニュース。さっそく都内でインプレをしてみた』。
ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
期待される役割。
フルパワー──これは逆車モデルが持つ大きな商品性だった。これまでも海外向けモデルの国内仕様は存在したが、パワーの低下、マフラーの国内仕様化など世界と日本の差が少なくないケースがあった。しかし2017年、“ユーロ4”の施行を機に規制などを統一化する流れになり、これをキッカケにして輸出仕様と国内仕様が近い仕様で乗れることになった。Ninja1000も今までは逆車として流通していたが、国内仕様としてディーラーで販売されることになり、より身近な存在になることだろう。
それ自体は喜ばしいこと。保証やパーツの流通にもユーザーメリットが拡がるだろう。近所の店、いつもの店でバイクが買える。これは心強い。
しかし、継続モデルだった定番系モデルには、その新環境規制の施行にあわせ、生産中止となるモデルも少なくない。そんな中、Ninja/Zシリーズに1000、そして650を国内向けにクレジットした(650系の発売予定は5月中旬を予定)ことは変化の先取りで、ユーザーには嬉しいニュースだ。その点でNinja1000がカワサキのモデルラインの中で果たす役割は大きなものになるのだろう。
伝説の原資、そうなる予感。
メタリックスパークブラック×メタリックグラファイトグレーの塗色を纏ったNinja1000は一見して尖っているが、シブイ。フェアリングのミドル部分(主に両サイド)の意匠変更を受け、フロントのウインカー形状を含むパネルの重なり感を重視した造りや、サイドビューでもしっかり存在感がある切れ長のヘッドライトなど、サイドビューのインパクトが強まった。
そればかりではなく、メーターパネルの変化や、電子制御関連でもボッシュ製IMUの搭載など、よりライダーの感性に沿ったマシンコントロールを制御系にも盛り込んだことが解る。装備で進化、官能性でも深化ということだろう。
このIMUは、上、下、左、右、前、後への角度、加速度を測る装置で、ブレーキング時のピッチングや、旋回時のロール、加速時、加速度や前後のホイール回転数差を検知するセンサーなどと協調してウイリー時の姿勢制御や、ブレーキング時の姿勢も同様に見守っている。
エンジンのパワーデリバリーをスイッチングできるパワーモードスイッチを含め、あらゆる状況でよりバイクを安全に、安心して走らせられる純度を高めている。
もちろん電子的な部分だけではなく、メカニカルな部分でも、アシスト&スリッパークラッチを装備することで、クラッチレバーの操作力を低減するなど、ライダーに優しいバイクになっているのだ。これはシフトダウン時、バックトルクでリアタイヤがホッピングする事も弱めてくれるから、安定性確保はもちろん、リアブレーキの制動力も確保しやすい。
こうしたサポート、アシストが備わっているからといって、このNinja1000がソフトで簡単なバイクだと言っているのではない。141馬力もあるエンジンをツーリング中に、見知らぬ道で天候などの悪条件に出くわしても、バイクを安心して楽しみ続け、「バカなコトをした!」と悔いるような事態を遠のけてくれる手段だと理解している。あくまでバイクと乗り手の関係は、従来通り。難しさを愉しさに変換させる歓び、テクニックを磨き、次元を高めたときに得られる達成感などは、ふんだんに備わっているのでお忘れなく。
今月、出張先で乗った(助手席に)1000㏄のレンタカーにも「自動ブレーキ制御」や「車線はみ出し警告装置」なんて運転支援装置が装備されていた。4輪はすでにセミアクティブセーフティ装備が珍しくなくなっている。そんなクルマと混走する今、前走車が急ブレーキ、アッ!と思ってフロント握りゴケで自爆、なんて痛い事態は避けたい。心がけと練習も大事だが、それだけではカバーできない時、保険のようなものだ。それが装備されるバイクを選択する、ということはプロテクターを着けて走ることと同様、身を守る意識に繋がると僕は考えている。
ビッグバイク感充分。
Ninja1000に跨がってみる。軽い前傾姿勢のライディングポジションを作るハンドルがスポーティーさを演出。ZZR1100あたりから継承されるタンクのカタチと、滑らかな体とのコンタクト感はカワサキらしさを思わせる。リアサスのスプリングレートがタンデムや、積載時も考慮しているせいか、815mmというシート高をしっかりと感じることに。しかし、シート前端が絞られた形状と、ステップ周りとふくらはぎなどが干渉しない設計の恩恵で、足着き性は良好。
エンジンはアイドリングからスムーズ。4本マフラーをひっさげ、2003年にデビューしたZ1000以来、スーパースポーツのエンジンから空冷エンジンのごときサウンドを出すチューニングは健在。ヒュン、ヒュン回るのにどこかビッグバイク的「重み」を湛えている。ゾクっとくるのだ。
軽い操作力でクラッチを繋ぐと、トルクが後輪を押し出す感じはカワサキのビッグバイクらしい所作だ。前後にバトラックス ハイパースポーツS20を履くこのバイク、左右へのロールが軽いのに、それが意のままな感じだ。最新モデルはS21だけど、最初の100メートルでマッチングの良さにナットク。パワーとトルクの特性はとてもリニアなので、アクセルワイヤーの遊びやチェーンの調整はバッチリしたいところ。それらのチューニングを自分に合わせるだけでこのバイクとの距離感はさらに詰まる。
市街地での印象は、加減速でのピッチング、交差点での左右へのロール(旋回)とも、重くないのに重厚さがある。バイクから発せられる走りの質感とでも表現したほうがよいだろう。乗り心地も悪くない。以前乗ったヴェルシス1000の吸収力の高さほどではないが、スポーツツアラーで市街地を走っているコトを思えば合格だろう。
ブレーキのタッチは良好。フロントはスポンジーという表現の対極にある剛性感を持つ。それはカチカチ過ぎず、レバーを引いたときに起こる制動のリアクションがとても解りやすい。タイヤの接地点、サスの動きと相まってここも上質だ。リアブレーキも市街地で主体に使って速度調整ができるほど使いやすいもので、ピッチングを起こしたくないタンデム時には重宝しそう。
ペースを上げて見ると端々に息づくスポーティーさに気が付く。自重しないと加速感に弱い(悶える)脳は、5000rpm以上の誘惑に負けそうだ。段付きロケット加速をするような特性のエンジンではないことは確認しているので、身構える必要はないが、回せばスポーツバイクとして満足感のある加速をする。しかも、この加速Gにしてはアップライトなポジションのため、加速感すら演出されているように感じる。カウルの中にそんなエンジンを潜ませている、という優越感にも似た余裕の気分がNinja1000の魅力でもある。だから、湾岸線レベルでの80km/h巡航など余裕すぎて、余裕過ぎて……。
可動式のスクリーンは効果的だった。寝かすか一番起こすか。解りやすい選択肢はその二つ。あとはライダーの身長や好みに合わせて選べばよさそうだ。
速度を問わず動きは質感のある軽快さで、運動性重視のビッグバイクであることをライダーに巧く伝えてくる。これはエンジンを始動し、音を聞いた瞬間から試乗を終えバイクを降りるまでそんなスジが一本通っていた。きっと、20年後には2010年代後半の伝説の一台として末永く愛されていそうな気がする一台だ。しっかりとしたキャラクターが備わっている。走りも大切だが、そんな魂のようなものを感じられたバイクだった。
(試乗:松井 勉)
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