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第115回 第3戦 アメリカズGP The House Is A Rockin'

 マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とマーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)の激突が見られるかと思った第3戦アメリカズGPだが、ヴィニャーレスが序盤に予想外の転倒を喫してしまったため、ガチンコ勝負は次戦以降に持ち越しである。その結果、レースはマルケスが5年連続でポールポジションから優勝を飾り、圧倒的な強さをまたしても見せつけて幕を閉じた。
 それにしても、5年連続で同一会場をポールトゥフィニッシュを飾るなど、過去にもそんな例はなかったのではないだろうか……と思って調べてみたら、ありました。ジャコモ・アゴスチーニが1967年から1973年までベルギーGP(スパ・フランコルシャン)で7年連続ポールトゥウィン、1965年から1973年までフィンランドGP(イマトラ)で9年連続ポールトゥウィンという化け物のような記録を残しているのですね。その当時と現在では単純な比較はできないとはいえ、いずれにせよ、アゴスチーニもマルケスも常人の域を超えた記録を樹立していることはまちがいない。
 2013年の初開催時に優勝した際、マルケスは2位のダニ・ペドロサに対して1.5秒差で勝利を収めている。2014年は4.124秒差(2位:ペドロサ)、2015年は2.354秒差(2位:ドヴィツィオーゾ)、2016年は6.107秒差(2位:ロレンソ)、そして今年は2位のロッシに対して3.069秒のマージンを維持してトップでチェッカー。毎年、完璧にレースをコントロールしている様子は、これらの数字にもハッキリと表れている。
「レース序盤は(毎年連勝していることから来る)プレッシャーもあったけど、うまく走れた」と述べ、「10秒差でも2秒差でも25ポイントの獲得に変わりがないことは、過去の経験からも学んできた」と安堵の表情で話す様子を見ても、今回の結果が次戦以降の戦いに向けて、大きな一歩になったことは間違いなさそうである。


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#25

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 2位のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、開幕戦から全戦で表彰台を獲得し続け、現時点のランキング首位に立つことになった。シーズンが本格化するのはこれからで現状の順位はあまりに暫定的なものとはいえ、38歳という年齢で、日本風に言えばひと周り以上も歳下の選手たちを相手にこの水準を維持しているのだから、それだけでもたいしたものである。
 レース中には、ヨハン・ザルコ(モンスターヤマハ Tech3)との間でヒヤリとする一瞬があり、コースをカットしてやや位置を上げる格好になったことで0.3秒のリザルトタイム加算というペナルティが科されることになった。チームは以後のレース展開を見ながらタイム加算の有無で結果に影響がないことを見極めて、レース中はこの通告をライダーには知らせなかった模様。ロッシ自身も、チームのこの状況判断を高く評価した。
「チームがサインボードで0.3秒のペナルティを表示して、自分がそれを3秒だと読み間違えたら、 その加算分を埋め合わせるために無理をしてミスを犯していた可能性もあったかもしれない。それを考えれば、通知しなかったのは適切な判断だったと思うし、知る必要のない情報だった」
 タイムペナルティといえば、2003年のオーストラリアGPで黄旗無視による10秒のタイムペナルティを通告された際、それで闘争心に火が付いて10秒を取り返し、さらに5秒のマージンを開いて優勝した……なんてこともあったが、あの場合とは状況が異なっており、確かに今回の判断は的確だったといえるだろう。
 なお、この0.3秒というタイム加算に対して、レースディレクションは「不可抗力とはいえ、(コースをショートカットしたことで)有利になってしまった分を帳消しにするための措置」と説明している。
 ロッシ自身はショートカットしたことについて「ああやって回避するか、あのまま接触して転倒するかの二択だったので、他に方法がなかった」と言い、レースディレクションもその事情は充分に斟酌した上での措置だと話す。じっさい、ロッシはこの措置に対してレースディレクションに異議を唱えることはなく、「むしろザルコの問題。才能のある選手で速さも発揮しているけど、もう少し落ち着いて走り、乗り方も変えたほうがいいね」と、ルーキーのアグレッシブすぎるライディングに原因がある、と矛先を向けた。
 そのザルコはというと、今回も5位でレースを終えており、リザルトに対しては非常に満足、と話しながらも、上記の一件に関してはこんな風に説明した。
「バレンティーノが1コーナーでミスをして2コーナーで遅かったので、そこを突こうと思って3コーナーで仕掛けたけど、さすがそこはバレンティーノで、思いのほか早くリズムを戻してきた」
 さらに、ペナルティの妥当性については「それは自分にはわからない」と少し困ったような口調で話し、「ぼくは最後はホンダ勢について行けなかったけど、バレンティーノはついて行っていた。マルクとの差が開いていたしダニとも2秒差だったので、結果には影響しなかった」とも述べた。
 おそらく今回の出来事は、いわゆるレーシングインシデントの部類で、どちらか片方のみが一方的に悪い、というようなものではないように思えるのだが、どうでしょうか。
「バイクは非常に良いし、表彰台が目に見えるところまで来ていると思う」と語るとおり、今回の出来事に臆することなく、次戦以降の走りでも引き続き皆を驚かせ続けてほしいと切に願っております。

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 3位にはダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)が入り、昨年第13戦サンマリノGPで優勝して以来の表彰台となった。開幕前からなかなか仕上がりがまとまりきらず、プレシーズンから第2戦まで彼の話を聞いていても、苦戦傾向にある印象は拭いがたかったのだが、今回の表彰台でようやく光明が兆してきた感もある。あともう少しで戦闘態勢完了、というのが、おそらく現状の正直な状況ではないだろうか。
「もう少しよくできた部分もあるものの、総じて良い内容だった。序盤にレースをリードできたし、タイヤに気をつけてうまく温存しながら走ることができた。この週末はずっとリア右側のライフに苦労していたけれども、今日はリアをうまくマネージメントできた。ところがレースでは、フロントの右側が終わってしまったので、バレンティーノについて行けなくなった。バイクについてだいぶ理解が進んできたし、重要な一歩になったと思う。次のヘレスは、得意コースなので楽しみにしている」
 了解です。今シーズンこそ、不運に射すくめられることなく、このまま上昇機運に乗っていってほしいものであります。


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 日本人勢はというと、Moto2の中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)が今季2回目の3位表彰台。前戦ノーポイントの雪辱を果たして、ランキングでも4番手。長島哲太(Teluru SAG Team)は難易度の高いコースに苦しみながらも19位で完走し、「次戦のヘレスに向けて、ポジティブに終えることができました」とのこと。
 Moto3は佐々木歩夢(SIC Racing Team)が18位。今回も初体験のコースで様々な学習をしながら、ウィーク全体のセッションの進め方に関してもたくさん吸収するところがあった、と話した。鈴木竜生(SIC58 Squadra Corse)はガス欠のような症状がレース終盤に出てリタイア。鳥羽海渡(Honda Team Asia)は2コーナーでフロントを切れ込ませて序盤に転倒、という結果でありました。

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 次戦からはいよいよ欧州ラウンド。イベリア半島南端のヘレスサーキットで開催されるスペインGPである。ではまた次回。愛はイベリコ豚とともに。

#29 #42 #44 #38

 



■2017年4月23日 
第3戦 アメリカズGP
サーキット・オブ・ジ・アメリカズ

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


2 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


4 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


5 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


6 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


7 #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


8 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


9 #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


10 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


11 #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


12 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


13 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


14 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


15 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


16 #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM


17 #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


RT #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


RT #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


RT #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


RT #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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