YAMAHA TMAX530 試乗

■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明/依田 麗
■協力:YAMAHA http://www.yamaha-motor.co.jp/

 新型のTMAX530はコンパクトになった印象だ。数値的な差というよりフロントマスクが小顔になって全体的にシャープな感じ。前から見ていると250ccクラスと間違ってしまいそうなくらい。近づいてみると、シボ加工された樹脂部分にある、職人が手作り入れたものを型にしたというステッチのテクスチャーが、クルマの内装みたい。各部のマテリアル感が違っていて全体的なシルエットだけでなくディテール、質感にもこだわったことが分かる。アフターバーナーを全開にして飛びたつジェット戦闘機のテールノズルをイメージしたというメーターも立体的に見えて面白い。流石イタリア、フランス、スペインを中心とした欧州、スクーター大国として知られる台湾などで、確固たる人気とブランド力を持っているヤマハスクーターの旗艦モデルといった作り込み。

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ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。

 
 試乗したのはスタンダートより豪華装備のDX。この日はずっと雨で、濡れた体が冷えるので、DXが標準装備している、グリップヒーターとシートヒーターのスイッチを入れた。その暖かさは、何よりも嬉しい装備だった。伊豆修善寺にある日本サイクルスポーツセンターの周回コースを走り出して、すぐに思ったのは、足周りの動きが良いこと。特にリアサスペンションがどの速度でもしっかりストロークして路面追従がいい。小径(前後15インチ)ホイールを履いたスクーターらしからぬ動き。ところどころ小川のように水が横断しているコンディションだったけれど、タイヤのグリップ状態を掴みやすく怖くない。この新型はスタンダードのSXで7kgも軽量化している。そのダイエット項目の中にタイヤも入っており、バネ下が軽減されたことも効いているのだろう。

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 アルミのメインフレームは新型になって、単体で2.3kgも軽くなり、エンジンを40mm前に出し、19mm上に上げて、リアサスペンションはこれまでのプルロッドからプッシュタイプのリンク式になった。乗車した時の自然な沈み込みから、コーナー立ち上がりで、スロットルを開けていく時にグッと沈み込んでトラクションする立ち振舞は、よりオートバイ的な自然な動き。もちろんロードスポーツモデルとは乗車ポジションも含めて違うのは確かだけど、減速から侵入、そして旋回までの動きが自然でリーンしている時の安定感も高く、積極的にスポーツライディングしたい気持ちになれる。スクーターというとクイックで不安定な動きと想像してしまう人もいるかもしれないが、そういうのはない(旧型でもそうなんだけれどね)。足周りのレベルアップは、小さな溝や穴を通過した時のいなしが落ち着いてスムーズで、スポーツライディングに貢献するだけでなく快適性にも繋がっている。スポーツスクーターとして、走りにこだわってきたTMAXだが、また新しい領域に入ったと感心しながら走り回った。下りながら減速し侵入するコーナーでも、左右に小さく回り込むコーナーの連続でも、スロットルを開けていき、速度をのせて曲がる高速コーナーでも、水に足元をすくわれないように気をつけて走っているとはいえ不安定になるシーンは1度もなかった。
 
 これにはYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)を採用したことも大きい(CVTとの組み合わせはヤマハ初)。なんてったって、トラクションコントロールが付いているんだから。試乗したコースはサーキット舗装ではなく一般道の舗装に近いところ。路面も一部荒れていたりもする。そしてこの天気。小径ホイールにより走破性、安定性で一般的なロードスポーツより苦しいスクーターだからこそトラクションコントロール装備はありがたい。
 
 水冷2気筒エンジンは吸排気を見直して、より低中速トルクを上げた。「これまでのモデルよりゼロ発進から200mまでで4馬身、5馬身くらい先に行く」と商品説明の時に聞いたとおり、開けるとグイグイと加速。さらにレスポンスが良いのに低速のスロットル操作でギクシャクするようなことがない。このエンジン特性とハンドリングの組み合わせで、車格がワンランク小さくなったように俊敏に動け、四の五の言わずに単純に走りを楽しめた。

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 新しいTMAX530は、見た目、利便性、快適性、走行性、どれも旧型よりレベルアップしたと実感した。進化の度合いは大きい。この力の入れ具合が、大きな市場と高い評価をされてきた裏付けでもある。DXで135万円といっきに上がった価格は、はっきり言って安くはない。けれど、本質を上げた今回のモデルなら、こだわりを持ったユーザーも納得できそうだ。ヤマハがスクーターという表現を使わず、“スポーツコミューター”として、スクーターの範疇に入れたくない気持ちが理解できる走りだった。
 
(濱矢文夫)
 

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φ41mm倒立式フロントサスペンション、フロントラジアルマウント式キャリパー、対向4ピストン、フローティングディスクなどの特徴は変わらず。 ヤマハスクーター初となるYCC-T(ヤマハ・チップコントロールド・スロットル)、TCS(トラクションコントロール)、走行モードを選べるD-MODEなどを採用。新設計のアルミフレームで現行モデル比7kg軽量化。 現行モデル比で40mmロング化した新設計のリアアーム、新設計のリンク式モノクロスサスペンションを採用。DXでは初期荷重と伸側減衰力の調整機能を備えている。
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インテリアは塗装部品を増やして新規性を演出。レッグシールド左右のリッドには成形型のテクスチャーラインを入れるなど高級セダンをイメージ。写真は燃料タンクの給油口。 2連のアナログ&3.5インチモノクロTFTメーターパネルを採用。メインスタンドのロック/解除等機能も可能なスマートキーを採用。DXではグリップ&シートヒーター、クルーズコントロールシステム、電動調整式スクリーンなども採用。 大容量のシート下トランクは、新設計のフレームと樹脂製ボックスとのコンビネーションによりスペース効率を向上。ベーシックなジェット型ヘルメットなら2個収納が可能に。
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360度クランクを持つ直列2気筒エンジン、往復ピストンバランサー、軽量アルミ鍛造ピストン、セミドライサンプなどの特徴は継続。 2次駆動用のVベルトは軽量で強度に優れた25mm幅のベルト式を採用。合わせて前後プーリーも新作している。バネ下重量の軽減には4.50インチと幅を狭めたリアホイールや軽量タイヤ、樹脂製リアフレームなどが貢献。 DXには金属感を強調する“マットブルー”、SXにはヤマハのレーシングスピリットを感じさせるブルーを配色した“マットシルバー”を採用。ダークグレーを両グレードに設定している。
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●TMAX530 SX〈TMAX530 DX〉主要諸元
■全長×全幅×全高:2,200×765×1,420mm、ホイールベース:1,575mm、最低地上高:125mm、シート高:800mm、車両重量:215〈218〉kg、燃料消費率:28.6km/L(60㎞/h定地走行テスト値、2名乗車時)、20.6km/L(WMTCモード値、クラス3-2、1名乗車時)■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ、総排気量:530cm3、最高出力:34kw(46PS)/6,750rpm、最大トルク:53N・m(5.4kgf・m)/5,250rpm、燃料タンク容量:15L、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:ダイヤモンド、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、タイヤ(前×後):120/70R15M/C 56H × 160/60R15M/C 67H
■2017年4月7日発売 メーカー希望小売価格:1,242,000円〈1,350,000円〉(税込)

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