新型CB1100シリーズ最大の特徴ともいえる軽量小型マフラー、果たしてその音は!(こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/oN2HGXGwjkY) |
Honda CB1100 RS
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。 |
まず乗ったのは、新作の中の新作である、CB1100 RS。新しい形状になった燃料タンクは、グラマラスな面構成で、横幅もそこそこにあって、どことなく初代CB1000 SUPER FOURのものを思い出させた。けれど上面と底面を合わせて溶接した部分、いわゆるミミを見せないこだわりの作り込みもあり、もっと丸く柔らかく艷やかな曲面で、思わず手が伸びてナデナデしてしまうアウトライン。デザインとしての好き嫌いは人それぞれだけど、この燃料タンクだけでもCB1100独自の存在感を出すことに成功していると思えた。
この日は撮影用に4気筒CBを代表する古典として、CB750Four(K0)とCB750F(FZ)も並べられていたけれど、それら古き良きホンダ製モデルのイメージをほとんど引き継いでいない。商売的には古典のレプリカを作るという手法もあるだろうが、それをせずに、より手の込んだ作り込みで質感を上げて、オリジナルな新しいCBらしさを追求した作り手の意気込みのようなものを感じてニヤリとした。「どう? 懐かしい姿はこのくらいで充分でしょ」という演出、悪く言えばいやらしい感じがないのが好印象だ。
跨ってみると、今のものらしく、ちゃんとニーグリップする部分が絞られていて、シートも古き時代のものとは違い適度なR断面で角がなく、フィット感がいい。シート高は785mm。身長170cm、71kg(同身長の平均的な人より短足)では両足のかかとまでべったりとはつかないけれど、無理なく車体を支えられるだけは届いた。パイプハンドルの幅は肩幅より拳1個半外で、高さはおへそくらい、適度に手前に絞られていて無理なく手が届く。ロックするまで切り込んでも上半身は余裕だった。
フロントに120/70ZR17、リアに180/55ZR17という現代的サイズのタイヤを履いたこのRS。クラシックなモデルにいきなりモダンな前後17インチホイールはなぜ? と疑問に思う人もいるかもしれないが、現在、欧州メーカーを中心にジャンルとして確立してきているネオレトロモデルの中には、レトロイメージを持ちながら、現代的な足周りをしたものが多い。純粋な懐古主義ではなく、シンプルな構成だった時代のスタイルでありながら現代的な走りは譲れないといった欧州独特の市場性があるのだろう。だから、ドメスティックなものでないなら、この17インチ化モデルは出るべくして出た。使われているフロントフォークはVFR800XのSHOWA製SDBVフォークをベースに仕立てたもので、自由長も延ばしている。キャスター角はEXより1°立たせた専用のディメンション。走り出してすぐ気がついたのは、今までのCB1100とは違うフロント周りのがっしり感だ。
タイヤグリップとより高めのフォーク剛性もあり、効きの優れたブレーキで減速しながらコーナーへ侵入し旋回。一連の動作のしっかり感と安定性は、後で乗った18インチホイールのEXとははっきり違った。クセがなくニュートラルな操作性でスポーティー。単純に走りを楽しめる仕様だ。
試乗はクローズドコースではないけれど、ちょっとペースを上げると、ステップのバンクセンサーが早めにガリガリっと接地。必ずしも運動性能を中心にこだわったスポーツモデルではなく、このスタイルを楽しみながらスポーティーに楽しむものだと合点がいった。ホンダには同じビッグネイキッドに水冷のCB1300 SUPER FOURがあって、水冷エンジンと空冷エンジンで違うが、どういう住み分けしたのか興味があったが、なるほど、ちゃんと別の魅力を持ったものに仕上げている。線引が上手くて感心。わたし的に、「これならCB1300にすればいいんじゃないか」というセリフは出てこない。エンジンパワー、車体、足周りのバランスが良く、幅広いライダーが程よく遊べる面白さ。もっとバンク角を深く、もっと高性能なサスペンションが欲しいとなるシチュエーションが出てくる人なら、違うオートバイを選ぶべきだろう。
エンジンはより洗練された。どのギアにあっても低回転から、高回転域でストレスなく回り、全域でフラットに近いトルクは車体とライダーを右手の動きひとつでグイグイ進ませた。Uターン時など極低回転域でも制御しやすい。6速、60km/hで1千600回転くらい。これで余裕の巡航ができ、平地に近ければギアを落とさずスロットルだけで車速をのばしていける。180サイズでロープロファイルのリアタイヤらしい、確実なトラクション感があって、まっすぐ走っているだけでもEXとの違いが明確だ。二輪車の環境規制が昨年10月1日からユーロ4との整合性を取ったものになり(ちなみに継続生産車は今年の9月1日から)、日本では特に厳しかった加速騒音が若干緩くなった。それもあってサイレンサーの構造が簡素で軽くなった(-2.4kg)。さらにテールエンドが70mmライダーに近く、いわゆるショート化された。これでマスの集中化が進んだこともあり、切り返しなどで車体のカタマリ感が出てきた。
Honda CB1100 EX
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。 |
その後、CB1100 EX、ローハンドルバージョンのTypeⅡに乗り換えたが、エンジンやフレームなど同じなのに、見事にテイストが違っていた。シートはEXの方が5mm低い数値だがRSとの差は気になるものではない。成人の平均身長より低い私にとって、先代EXで不満だったのは燃料タンクの形状で、太くてフトモモに角があたるようなニーグリップ感に違和感を持った。堂々としたボリュームを演出したものであったのだろう。しかし、それもRSと同様の新型タンクのおかげで解消だ。体が触れる部分はどこもすぐに馴染んだ。EXはシリンダーから上がシルバーだったり、フェンダーがRSのブラックではなく、クロームメッキだったり、シート表皮がワッフルタイプのパターンであったり、よりクラシックさを強調している。何より、ホイールがワイヤースポークだもん。このホイールもアルミ切削クリア仕上げのハブに、今までの亜鉛メッキからステンレススポークに変更された。EXとRSはとことんディテールにこだわっている。
RSより線が細い、ヒラヒラした乗り味は、まさに18インチホイールならでは。タイヤのグリップ力がほどほどで、フォーク、ホイールとあわせて剛性を抑えたなんともしなやかな乗り心地に。それでも’70年代から’80年代にあった空冷4気筒スポーツのような古臭いハンドリングより明確に軽快だ。曲がる時にタイヤが描く弧は、同じコーナーでもEXの方が大きくなる。RSより姿勢を起こして、リアタイヤを曲げていくあの感じがちゃんとある。同じエンジンだが、こちらの方がタイヤの外径だけ若干ハイギアなのも加わって、当然ながらトラクション感や、直進する時の印象も同じではない。先代のEXより神経質な部分がもっと小さく確実に乗りやすくなって、レトロらしさもちゃんとある。これだけ見た目以上に走りの味が変わっていれば、RSかEXかと迷うことは少ないだろう。
正直に話せば、2007年に初めてCB1100に乗った際と、先代EXが登場した時に、小さいけれど煮え切らない気持ちがあった。気になるクセがなく、ホンダらしいオートバイとしてマイナスポイントが気にならないまとまった魅力があったが、どうしても中途半端さが残っていて、わざわざ新設計した空冷4気筒エンジンを採用する理由がはっきりとは伝わらなかった。しかし、今回のフルモデルチェンジですっきりだ。まず迷いを感じさせない作り込みなどでオートバイとして底上げをして、嗜好の立ち位置を際立たせてくれた。この日試乗した業界ライダー数人に「どっちが好き?」と問うてみたが、意見が割れたのが愉快だった。それが差別化の成功を物語っている。私は──────ん????、“迷うことは少ない”と書いておきながら迷う、ハハハ。
<試乗・文:濱矢文夫>
CB1100 EXの足周りも新設計。18インチアルミ製リムを採用。小径ハブでワイヤースポークの美しさを強調している。 | EXもシリンダーはブラックだが、ヘッドは個性化のためかシルバーとされている。 | リアホイールも18インチ。ステンレス製40本スポーク。 |
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