ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。 | ZRX1200 DAEG Final Editon。 |
ZRX1200 DAEG にFinal Editionが発売された。1997年のZRX1100からスタートしたこのシリーズには多くのファンがいて、20年近く継続してきたが、これがひとつの区切りである。
エディ・ローソンが乗ってAMAスーパーバイク選手権を制したKZ1000J改のレーシングマシンと、それのプライベーター仕様として発売したKZ1000S1があり、そのイメージを持って出てきた公道用市販モデルがZ1000R、通称ローソンレプリカだ。ZRXは、この’80年代初頭の古き良き4気筒大排気量レースモデルとスーパースポーツモデルを連想させるオーソドックスなスタイルと、力強いトルクで押し出すように前に進む走りを魅力としてきた。
モデルチェンジをしながら進化を続け、ZRX1200R/SからZRX1200 DAEGになったのは2009年。このDAEGは最初から輸出を考慮しない日本専用車として誕生した。エンジンは5速から6速になり、最高出力と最大トルクはZRX史上最高値。ビッグネイキッドスポーツとしては短めのホイールベースと立ち気味のキャスター角と相まってスポーティーな走りに磨きをかけた。このFinal Editionは基本となる機械的な部分にほぼ変更なくそのままだが、各部のディテールがカワサキビッグバイクファン、ZRXファンにはたまらないものになっている。
これまでも往年のローソンレプリカを彷彿とさせるライムグリーンに白青のラインはあった。けれど、太すぎない白青ラインにそれと重ならない位置に取り付けた“Kawasaki”エンブレム、この色のゴールドホイールなど、いちばん忠実に1982年に発売された最初のローソンレプリカ、Z1000R1を再現している。近づいて見たら、AMAスーパーバイクチャンピオンを誇っていたタンク上面の盾型ステッカーも再現して、そこに「SUPERBIKE CHAMPION」ではなく、「FINAL EDITION」と入れているので、初めて見た時はニヤリとしてしまった。
このモデルに施された特別な部分はそれだけではなく、各部に散りばめられたゴールド、クラシカルなデザインの表皮にホワイトパイピングを施したシート、サイドカバーのエンブレム、フロントフォークトップのアルマイトカラー、エンジンヘッドカバーのリンクル塗装(結晶塗装)、など手が込んでいる。オーバーコートクリア塗装で、滑らかな表面になっている外装を触り眺めながら、そういえばカワサキはゼファーの最後モデルでも、質にこだわった初代Z1のような火の玉カラーにしたなぁ、と思い出した。それと同じやり方だ。なんとも所有欲をくすぐるのが上手い。
シートに腰を下ろすと、贅肉を削ぎ落としたスーパースポーツとは違い、ずっしりとした質量と存在感があるが、幅がそれほど広くないハンドルバーを掴むと身長170cmとそれほど大きな体ではない私でも、手にあまることがないと思わせるちょうどいいサイズ。このシートは従来より座面が5mm下がっていて、よりクッションが平たく薄めに感じ、まるでアンコを抜いたような’80年代テイストのノスタルジックな座り心地だ。おかげであとちょっとで両足がかかとまで地面に届きそう。
エンジンに火を入れアイドリング、そしてブリッピング。環境規制がいろいろ厳しくなり、太く長く伸びたサイレンサーから出て来る音はこの排気量とボディサイズから想像するものよりかなり静か。耳で感じる迫力はないけれど、クラッチをミートして走り出したら、全域でフラットで分厚く出てくるトルクのおかげで、ずっと常に背中を押されているような力強さ。これは水冷DOHC4バルブ4気筒1164ccだということを実感させる。スロットルを大きく開けても唐突でのけぞるような加速ではなく、低中回転域からずっと連続し、スピードメーターの針が小気味よく右回りに円を描いた。
乗った場所は、適度な高低差に低中速コーナーが連続するワインディング。DAEGの車両重量は246kgと、このカテゴリーのライバルの中では軽い方だ。それがフットワークから分かる。徐々に走るペースを上げながら、コーナーに向けて強く減速すると、フロント周りと車体の剛性感があって、太い17インチラジアルタイヤの適度なグリップと合わせて、しっかりと立ち上がる減速G。そこからリーンしていく動きが軽く、なかなか素早い。当然、これはビッグネイキッドとして、という前提になるけれど、ライダーがコントロールしたいという気持ちを邪魔しない従順さ。
車体がバンクして傾いてからの旋回は、すぐに向きを変えるというより、オンザレール感覚で安定感を保ちながら出口に向いていく走り。速く走りたい気持ちを持ったなら、もう少しフロントの接地感を増やして旋回力をより高めたいと思うかも。でも、低速から高速まで操る醍醐味を感じさせるスポーティーなハンドリング。この乗り味がキャラクターにぴったり。シャカリキに速くではなく、バイクと対話しながらスポーツライディングする悦びを楽しむ。カワサキが思い描く大排気量スポーツらしさを大切にしたのだろう。DAEG独特の走りだ。もし、それに不満があるならば、前後のサスペンションはフルアジャスタブルなので、好みに変更すれば良い。スロットルを開けていった時のトラクションも良好で、エンジンの特性も含めて動きに危なげな感じがない。幅広いライダーが大きなバイクをスムーズにコントロールでき、気持ちよさに包まれる。これがDAEGを魅力的なバイクにしている重要なポイントだ。もっともっとスポーティーにやろうと思えば出来ただろう。それをやらないフィロソフィー。Finalだと思うと寂しくなる。これがカワサキビッグバイクの亡者の列に加わるとしたら、もったいない。そう思うのは私だけでないはずだ。
<試乗・文:濱矢文夫>
カラーは「ライムグリーン」(LIM)のみ。 | メーター下のプレートをゴールドに変更。メーターリング、ブレーキレバー、クラッチレバー、ラジエターカバーはブラック塗装。 | 各デカールを添付した上からオーバーコートクリア塗装を施す。 |
エンジンをはじめ基本メカニズムには一切の変更無し。 | ノーマルのDAEGに比べてシート高が5mmダウンの特製シート。 | ゴールド仕様のホイールを採用。 |
エキセントリックチェーンアジャスターもゴールドに。 | エンジンのスピンマークやクラッチカバーロゴもゴールド。 | ホイール、キャリパーはゴールド塗装。 |
フューエルタンク上部には「FINAL EDITION」特別デカール。 | サイドカバーに特別エンブレムを採用。 | フロントフォークトッププラグをゴールドアルマイト加工。 |
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