ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。 |
見る、とにかくよく見る。ツーリングに出かけたり、イベント取材に行くと、本当によく見るモデル、それがGSX-S1000だ。サービスエリアや道の駅、ワインディングの駐車場なんかのバイク駐輪場をのぞいてみると、10台に1台はカナラズいる、みたいな雰囲気。今、たとえば10台バイクが停まっていると、MT-07、MT-09、そしてGSX-Sがいる――そんな風景が日本のあちこちに広がっているのだ。
この「よく見る3モデル」のワケは、販売状況できちんと立証することができる。GSX-Sは2015年7月の発売開始以来、これまでS1000とS1000Fを合わせて1年間で約2500台が販売された。これは、2015年のベストセラービッグバイク、MT-07とほぼ同数。これだけ売れているモデルは、どこへ行っても見かける→あのバイクよさそうじゃない、とさらに注目が集まる好循環に入っていると言ってよさそうだ。このループに入っているモデルが、MT-07、MT-09、そしてGSX-S御三家という意味だ。
あえてカテゴリー分けするならば、GSX-Sはスーパーネイキッド。ネイキッドといえば、ホンダCB1100のような「ちょっとノンビリ系」を指すことが多いが、エンジンやフレームをスーパースポーツ系から流用されているようなモデルだと、スーパーネイキッドという分類になる。Ninja1000/Z1000がそうだし、海外で発表されたMT-10なんかもこのカテゴリーに入るのだと思う。
GSX-Sは、スズキが誇るスーパースポーツ、GSX-R1000をベースに開発されたスーパーネイキッドだ。その狙いは単純明快で『走って楽しいバイクを目指す』というものだ。わかるようで、ざっくりした狙いだが、もちろんスズキはここからさらに的を絞り込んでGSX-Sを作り上げた。走って楽しいとはなにか――意のままに扱えること、パワーは強すぎないこと、使う頻度が高い速度域で使いやすいエンジン特性であること、もちろん高回転を使えば思いっきり速いこと、軽快なハンドリング、がっしりした安定性、スタイリングがカッコいいこと、サウンドが気持ちいいこと、快適なライディングポジション、足つき性のよさ、ざっと数えても、ぜんぶ成立させるには無理がある条件さえ浮かんでくる。
エンジンは、GSX-R1000シリーズの「名機」といわれる05~06年モデル(俗に「K5」と呼ばれる年式)をベースとした。このK5は歴代GSX-R1000の中でも、ボア×ストロークが、もっともロングストローク寄りのエンジンで、レース用途であっても、低回転域からの大トルクで数々の好成績を収めたものだ。WSBKで勝ち、世界耐久で勝ち、AMAスーパーバイクでも勝った、あの世代。ちょうど北川圭一さんが世界耐久チャンピオンになった、あのモデルのことだ。出力特性、そして出力の絶対値の上でも、もっともストリートユースに向いている、と判断されたのだろう。
GSX-Sでは、それをさらに低回転域のトルクに振るべく、カムプロフィール、吸気ポート、エキパイ、マフラーを専用設計。ここまではわりとセオリー通りだが、その徹底ぶりが際立っているのだ。
エンジンをかけてみる。SV650にも採用された、セルボタンをワンプッシュするだけで、エンジン始動まで自動的にセルモーターが回るシステムを採用している。もともと始動性が悪くないインジェクション車には不要のメカだが、スズキの新しいチャレンジのひとつなのだろう。しかし、GSX-Sでは、その次にきっとみんなびっくりする。音が元気なのだ。うるさい、音量が大きいという種類ではない、サウンドがズ太くて低い。すれっからしの僕も「オッ」と思ったポイントだ。聞けばGSX-Sはサウンド面でもかなり開発要件を立てて作り込んでいて、サウンド専門の「デザイナー」がいたというのだ。
発進すると、ドンと押されるトルクは感じない。あくまでもスッ、とボディを押し出すパワーの出方だ。これは、145psもある1000ccともなれば、あっけなくリアホイールをスピンさせちゃうだけの力があるんだけれど、それを「恐怖」と感じるユーザーが少なくないためなのだろう。ただし、GSX-Rよりもファイナルをショートにしているので、スロットルを開けると鋭さがある。ジワッとつなげばスッと出て、パッと開けるとグンとくる。擬音ばっかりで申し訳ない、きっとバイク乗りならわかってくれる(笑)。
3000~4000rpmあたりの回転域では、この瞬発力がかなりの武器だ。ここでもスロットルを開けるスピードをゆっくりすれば穏やかに応じてくれるし、パッと開けたらグンとくる。耳に届いてくるサウンドも元気で、この回転域の気持ちよさを上手く演出しているのがわかる。回っているエンジンは、次に爆発させる力を蓄えている感じで、レスポンスがいい。このスロットル開度と開けるスピードに順応性が高いエンジンって、すごくコントローラブルに感じるものだ。
ただし、いざ高速道路に持ち込んでクルージングしてみると、エンジンの穏やかさが強調されることになる。6速100km/hは4250rpmほどで、そのままジワーッと走れるし、そこから開けた時の反応も鋭い。スピードコントロールがしやすく、力を取り出しやすい。もちろん、その奥には「はいもっと開けて!こっちはいつでも200km/hまで連れていくよ」って主張してくるような、そんな力強さがあるエンジンだ。
ハンドリングは、安定性を伴なった軽快さが印象的だ。やみくもに軽すぎないで、もちろん鈍重じゃない。これは、街乗りスピードでは軽快に感じるし、高速道路を走っているとしっとり安定している、というイメージ。もちろん、1000ccなりのマスはあるし、並列4気筒のボリュームもあるのに、それがきちんとライダーにフィットして、決してデカすぎない重すぎないを感じられるところだ。これはライディングポジションがイイのも関係していて、ハンドルグリップが良い位置にあって、下半身が内またからふくらはぎまできちんとボディに密着するから、バイクがひと回り小さくなったようなコントロール性を感じられるのだ。
少し意地悪して、キツめにブレーキをかけてみたり、メリハリなくダラーッと寝かせてみたりしても、バイクが傾いた時のハンドルの切れ方(=舵角の入り、といいます)が自然で、きれいにフロントが回り込んでくるりと曲がってくれる。サスが固すぎなくてきれいにストロークして、この純正タイヤ(ダンロップD214)がイイんだね。
これは、上手い人には「良く曲がる」車体だし、そうじゃない人には「怖くない」ハンドリングって感じさせてくれるものだ。もちろん、サスやタイヤだけの設定じゃなく、GSX-S用に専用設計されたフレームの剛性やねじれ特性のおかげでもあるんだけれど、そんなことをわかる必要はない。きちんとタイヤが接地しているフィーリングが掴めて、速くも走れるし、ゆっくり曲がり角も曲がれる――これでいいのだ。
ちなみにもうひと段階イジめるつもりでサーキットも走ってみたんだけれど、今度は高回転域のパワーの出方がきれいで、9000回転+αあたりまでぐんぐんパワーが湧き出て、しかも搭載されているトラクションコントロールの介入の自然さが際立って、ここでも速い人もそうじゃない人も怖くなく楽しめる、ってキャラクターが際立っていた。そうそう、GSX-Sは高速道路のサービスエリアだけじゃなくて、サーキットのスポーツ走行や走行会でもよく見かけるモデルだから、サーキットランもしてみたい人には本当にお勧めできるね。走行会へ自走で、自宅を出て一般道を走り、高速道路を走ってサーキットへ、そこで半日走りまわって、また帰ってくるって用途に、すごくピッタリなのだ。スズキでいえば、Bandit1250であり、GSX-R1000なかんじ。まさに、コンセプト通りの出来だ!
ストリートからロングツーリング、さらにサーキットランまで、GSX-Sの間口は本当に広い。難を言えば、タンデムはダメだね(笑)。タンデムシートが小さすぎて高すぎるから、カノジョや奥様を後ろに、という考えは短距離だけにしておいた方が無難だと思う。あくまで緊急用、と考えた方がいいかもしれない。
難を言ったかわりに、もうひとつベタ褒めしたいのは、価格設定だ。S1000が103万3000円、S1000Fが108万円(どちらも税抜き価格)というのは、本当に素晴らしい!
<試乗・文:中村浩史>
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