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第107回 第14戦アラゴンGP One Little Victory


 久々にマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)の持ち味が存分に発揮された第14戦だった。自らのミスでちょいと窮地を招き、そこから失地回復していくことで盛り上げを結果的に演出してしまうというある種天然なところ、そしてクレバーな勝負と後半の力強いレース運びなど、いろんな意味でマルケスらしいレースだった。
 優勝は前半戦最後の第9戦ザクセンリンク以来だが、ドライコンディションでの勝利という意味では第3戦のオースティン以来、ということになる。
「今回は勝負どころのレースだと思ってカレンダーにグリグリの赤丸をつけていたけど、今日はすべてが思いどおりに運んだ」
 とレース後に本人が振り返るとおり、オースティンにしてもザクセンリンクにしても、そしてここアラゴンにしても、強いコースでは徹底して強さを発揮する選手である。では次のグリグリ赤丸レースはどこなのか、と訊ねられると、
「フィリップアイランドやバレンシアは相性が良いし、もてぎでは去年はドライで強さを発揮できた。雨だとダメだったけど。マレーシアは路面が新しいので、どうなるかわからない。赤丸印で勝てなくても、まあ、じっくり戦うよ」
 というこのあたりの落ち着きに関しては、「目先の勝利よりもっと大きな年間総合優勝」を常に念頭に置くようになった、今年のニュー・マルク・マルケスというべきか。


#93
チャンピオン獲得はいよいよ秒読み段階か。

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 2位のホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は今回、シャーク・ヘルメットのアラゴンGPスペシャルサメデザインでレースに臨んだ。この仕様は、昨年のミザノでロッシが自身をサメに追われる小魚に見立てたヘルメットへの意趣返しという憶測もあるようで、まあ、確かにそういうこともあるのかもしれないけれども、ただこの両者の微妙な関係に深入りすると、その方面の話題だけでまるで「女性セブン」みたいになってしまいかねないので、それはそれ、これはこれ、ということで閑話休題。
 今回の彼のレースで面白かったのは、土曜まで選択肢外だったリア用のハードコンパウンドを決勝用に装着し、それが功を奏して2位表彰台を獲得できた、という経緯の面白さだ。
 土曜日の予選を終え、フロントロー3番グリッドを獲得したロレンソは
「リアにハードを入れるとかなり厳しいので、明日はソフトがオプションになると思う。今のところは、ソフトで気持ちよく走れている」
 と話していたのだが、決勝日午前のウォームアップセッションで転倒。決勝レースに向けたマシンの具合を確認するために、グリッドにつく前のウォームアップラップで2台のマシンを乗り比べた。1台はハード側コンパウンド、もう1台はソフト側で走行し、そのときに初めてハードで良さそうなフィーリングを得たのだとか。ソフトではそれまでに感じていたような乗りやすさがなく、グリッドで悩みに悩んだ末、自分の感覚を信じることにして、ハードでレースに行くと決定。
 この一連の経緯を指して「ときにはネガティブなことが良い結果を生んでくれることもあるもんだ」とレース後に語った。
「今日は6位か7位で終わる厳しいレースになるだろうと思っていたけど、良い方に転がってくれた。正直なところ、厳しい状況をうまく抑えきったと思う。(レース終盤は)ロッシが背後にピタリと付けていて、最終ラップに絶対仕掛けてくると思ったけど、彼がブレーキングでミスをしたのはラッキーだった。あれがなければ、最終コーナーまでバトルが続いていただろう」


#99

#99
一時期のスランプからは完全脱出の模様。

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 3位のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)はこれで4戦連続の表彰台である。ランキング首位を走るマルケスとのポイント差は52、ランク3位のロレンソとの差が14。もちろんレースではなにが起こるかわからないとはいえ、王座奪還が現状ではかなり厳しいのは間違いないだろう。シーズンは残り4戦。1戦を経るごとに、ロッシにとっては真綿で首を絞められるような状況が進んでゆく。
「重要なのは、毎戦良いレースをすること。ミスをせずにポイントを稼いで表彰台にあがり、勝利を目指す。マルケスとロレンソは、ここから最後まで強いと思う。自分もどこでも強く戦いたい」
 この言葉の前に「チャンピオン争いのことは考えない」とも言っているのだが、これはチャンピオン争いを諦めるということではなく、自分に主導権がない以上、目の前のレースで毎回最高の結果を目指すことしかできないのだから、余計なことを考えずにそれに集中する、という意味なのだろう。とはいえ、マルケスのしたたかな強さを勘定に入れれば、半ば白旗宣言、のようにも見えてこざるを得ない。


#46

#46
シーズン終盤はランキング2位争いが白熱。

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 彼らと対照的な結果に終わってしまったのが、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)。前戦のミザノを強靱なレース運びで勝利し、今回も予選グリッドこそ7番手に沈んだもののレースペースは非常に高水準で、土曜夕刻段階ではロッシやロレンソも、ペドロサをトップ争いの有力候補に挙げていた。
 しかしレースは、今年の苦戦の典型例のような走りで6位フィニッシュ。決勝後に話を聞いてみると
「リアもフロントも、最初からタイヤのフィーリングがなかった。序盤は熱が入っていないのかと思ってがんばってみたけど、ずっとグリップがなく、レース中盤にはフロントが終わってしまった。リアとフロントの両方が悪いと、ライダーにはもう対処のしようがない。できる限りがんばって、なんとかゴールした。今日の温度条件なのか、何が原因なのかはわからないけど、コントロールできる範疇外だったので、これでは悔やみようもない」
 と、やや憮然とした表情で振り返った。
 ミシュランの作動温度域は、その範囲内にハマるとバツグンの性能を発揮するが、外してしまうとまったく作動しない、というのは昔から良く聞く話だ。
 予選は4番手で好感触だったものの、決勝ではフロントが作動せずに11位に終わったアンドレア・ドヴィツィオーゾは、このタイヤの特性について、こんなふうに話した。
「判断を間違ったり、少しでも温度が高かったり低かったりするとうまくいかない。これはあくまで、ひとつの要素なんだけど。僕たちは、タイヤをもっとうまくマネージしなければならない。昨日は作動範囲内だったけど、今日は状況が変わったのだと思う。厳密にその温度域内でなければ、問題が発生する。というのは、自分の意見だけどね。苦戦の原因はいろいろ考えられる。ミシュランとデータをシェアとして原因を究明していきたい」
 また、今回のレースウィークは土曜の夕刻には、ミシュランのテクニカル・ディレクター、ニコラ・グベールの囲み取材があり、10名ほどのジャーナリストが参加した。その際に「企業秘密もあるだろうけれども、作動温度域の幅はだいたい何度くらいなのか?」という質問も投げかけられたのだが、「それはちょっと、回答が難しいですね。ライダーによってタイヤの負荷は違うし、全周回の7割をうまくまとめられればよい選手もいれば、そうではない選手もいるので、答えは簡単ではないですねえ」となんとなくはぐらかされてしまった。


#26

#04
現在はランキング4位。 今年9人目のウィナーならず。

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 さて、次戦はいよいよ日本GPである。ツインリンクもてぎはホンダのお膝元とはいえ、全日本メーカーの母国GPであることに変わりはない。これらのメーカーを代表して、シルバーストーンで劇的な復帰後初優勝を遂げたチーム・エクスター・スズキの両選手に日本GPへの思いを訊ねてみた。
 マーヴェリック・ヴィニャーレスは、「ま、どのメーカーにとってもホームGPだけどね」と笑ったうえで、ポジティブな印象を語った。
「日本では、去年もいい走りをできた。去年のレースは8番手まで追い上げたところで転倒してしまったけど、今年はフィーリングよく走れているし、自分のスタイルにも合っているので、行けると思う。あとは天気が持ってくれるといいな。それと、ミシュランがもう少し柔らかめのタイヤを持ってきてくれるとうれしい。そうすれば、さらに自信を持って走れると思う。タイヤを温存できるように、制御にさらに磨きをかけたい。今回はタイヤは18周目までふんばれたから、次は最後まで頑張れると思うよ」
 アレイシ・エスパルガロは、「日本に行くのはいつも楽しみで、好きな国だからいつも先乗りするんだ」と述べた。
「スズキの2年間のサポートに感謝している。彼らにこの2年間の謝意を表すためにも、FP1から全力で走るよ。簡単には行かないだろうけど、トップに迫れるように全力を尽くしたい」
 彼の言葉を聞いていると、移籍に至るまでの経緯をずっと見てきただけに、この選手は本当にスズキのチームを愛していたのだなあ、とつくづく思う。心から健闘を祈りたい。


#25

#41
今回は4位でゴール。 「俠(おとこ)」なんです。

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 ところで、今回のアラゴンGPではふたりの世界チャンピオンが誕生した。Moto3クラスのブラッド・ビンダーと、RedBullルーキーズカップの佐々木歩夢だ。
 佐々木は、今回行われた2レースのうち、土曜のレース1でチャンピオンを決める可能性があり、本人としてもそのつもりでアラゴン入りをしたようだ。しかし、確定まで1ポイント届かずに、日曜のレース2まで持ち越しになった。そのときの心境について佐々木は
「(レース1の)最終コーナーで3位だったので、『チャンピオンが決まったかな』と思ったら、最後の直線で抜かれて4位になってしまいました。でも、24ポイント差があったので焦りはなかったし、レース2では1周目にチャンピオンを争っていた選手が転んだことがサインボードでわかったので、『最後は勝つしかないな』と思ってトライして、しっかりと勝てたので良かったです」
 と振り返った。
 この数時間前にMoto3クラスで王座を獲得したビンダーは、ルーキーズカップから世界選手権へステップアップした選手、という意味で、佐々木にとっては先輩にあたる。彼のチャンピオン獲得は、日本人の少年にも大いに刺激になっているようだ。
「ビンダーさんはアライヘルメットのサービスカーで会って話をしたり、レッドブルのホスピタリティでもお会いしました。今年は誰がどう見てもビンダーさんが一番速かったので、すごいな、と思って見ていました。あんなふうになれるように、僕もがんばりたいと思います」
 うん。がんばってちょうだい。
 というわけで、次は日本GP。ツインリンクもてぎでお会いしましょう。 


#41

#58
1980年以来の南ア出身王者。 彼らの来年の活躍に期待しましょう。

 



■2016年 第14戦 アラゴンGP モーターランドアラゴン

9月25日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


2 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


3 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


5 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


6 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


7 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


8 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


9 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


10 #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


11 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


12 #51 Michele PIRRO Ducati Team DUCATI


13 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


14 #50 Eugene LAVERTY Pull & Bear Aspar Team DUCATI


15 #69 Nicky HAYDEN Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


16 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


17 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


18 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


19 #45 Scott REDDING OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


Not Classified #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


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