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第106回 第13戦サンマリノGP Back To That Same Old Place


 いやそれにしてもなんと鮮やかで切れ味の鋭いオーバーテイクの連続であったことか。第13戦サンマリノGPで優勝したダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)の走りは、今シーズンここまでの不振が嘘のような力強さで、彼のヘルメットが象徴するような、「寄らば斬るぞ」といわんばかりの迫力に満ちていた。
 完璧なレース運びで2015年マレーシアGP以来の優勝を達成したこの日の展開について、ペドロサは
「序盤はドビとバトルしたけど、向こうは直線が速いので厳しかった。マルクやホルヘと走ってリズムを掴むと、バレンティーノに追いつけそうだったので『この機を逃すな』と思って追い上げた」
 と28周の戦いを振り返った。さらに、
「今日は勝てたけれども、地に足を付けて今後もがんばりたい。(フリープラクティスのパフォーマンスで)ストレートにQP2へに行けないこともあるので、今後も集中して取り組み続ける。勝利は気分が良いしモチベーションも上がるけど、今日勝てなかったライダーはもっと高いモチベーションで迫ってくるだろうから、気を抜かず今後も力強く走れるようにがんばりたい」
 と、いかにもこの選手らしい謙虚な展望を語った。
 第6戦イタリアGP以降、ロレンソ−ロッシ−ミラー−マルケス−イアンノーネ−クラッチロー−ヴィニャーレス、と来て今回はペドロサ。8戦すべてで異なるライダーが優勝しているので、どうせなら次のアラゴンも誰か違う選手に勝ってもらって、この連続記録をさらに伸ばしてもらいたい、という気もしないではない。そろそろドヴィツィオーゾあたり、いかがでしょう。


#26

#26
まさに胴田貫のような鮮やかな切れ味でした。
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 自宅からほど近い文字どおりのホームコースで優勝を狙ったバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、レース途中まで圧倒的な速さでトップを維持し、満場の黄色いTシャツを着たファンを喜ばせたものの、後半にペドロサから居合い抜きのようなオーバーテイクを仕掛けられ、2位でゴール。
 ペドロサはフロント用にソフトコンパウンドを装着し、一方の自分はミディアムコンパウンドだったが、それは間違った選択ではなかった、とレース後に話し、
「ダニのタイヤは自分には使えなかったので、自分は的確なチョイスをしたと思う」
 と述べた。勝利を収めたペドロサに対しては
「追いついてきてから、彼は速かった。自分も後ろでがんばったけど、残り7周は長く、追いつけなかった」
 と潔く負けを認め、勝利を称えたが、その一方で、やはりホームコースで勝てなかったことには忸怩たるものを感じていたようで、
「ここがミザノでなければこの結果はとてもハッピーだけど、今日は1位になることが重要だったレースなのに、それを達成できなかった。それでも良いレースをできたと思うし、よいレースウィークだった」
 と、この三日間の戦いを振り返った。
 ところで、毎年ミザノでロッシが用意するスペシャルヘルメットだが、今回はご覧になればおわかりのとおり、彼が若い頃から最も好きな作品と公言する映画『ブルース・ブラザーズ』がモチーフになっている。さらに”Sweet Home Misano”と記されているが、これは映画内でジョン・ベルーシとダン・エイクロイドが唄うブルースのスタンダード”Sweet Home Chicago”のもじりになっている。ブルース・ブラザーズのバージョンもカッコいいが、やはり決定版はロバート・ジョンソンとマジック・サムでしょう。ギンギンのバディ・ガイやアーシーなフレディ・キングのバージョンもカッコいいけれど。興味のある方は、いちどお聴きになってみてください。


#46

#46
観客席はすべて真っ黄っ黄。 残念ながら優勝はならず。

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 3位はホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。表彰式後の記者会見席上で、ロッシのロレンソに対するオーバーテイクはアグレッシブすぎただのそんなこたあないだので、間にペドロサを挟んでふたりで激しい舌戦を繰り広げたが、まあ、今回はロッシのホームGPで、地元コースで乾坤一擲の勝負を仕掛けてくるのはある程度想定内だっただろうし、こと、あれに関する限り特別に危険なオーバーテイクでもなかったのではないかとも思うのだが、ロレンソにしてみれば、そうではないと感じたのだろう。
 それはともかくとしても、ここやムジェロでは毎度のこととはいえ、一部観客のロレンソに対する猛烈なブーイングには、本当に辟易する。自分たちのスーパースターを応援するのは結構だが、<坊主憎けりゃ袈裟まで憎い>式のライバルへの悪罵は、自分たちの品位を貶めていることに気づこうとすらしない彼らの視野狭窄ぶりには本当にげんなりする。とはいえ、それもスポーツを応援する娯楽性のうちと言ってしまえばそれまでなのだが、やはりものには限度というものもある。
「そんなにハッピーじゃないけど、がっかりしているわけでもない。表彰台を獲ったことに変わりはないのだから。今日は自分ではなく、ダニの日だった」
 とレース後に淡々と語っていたとおり、ロレンソ自身は強い精神力の持ち主ではある。


#99

#99
ここ数戦の不振を払拭した感もアリ。

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 チャンピオンシップをリードするマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は4位でチェッカーフラッグを受けた。ランキング2番手のロッシが2位を獲得したことにより、ふたりのポイント差はレース前の50点から43点に縮まった。この現状について、マルケスはレース後に
「レース前はもっとポイント差が詰まるかもしれないと思っていたけど、7ポイント差で済んだ。それが最も大事なこと」
 と話し、
「今は、バレンティーノやホルヘはリスクをとることができるポジションにいる。シルバーストーンでは彼の前でゴールするチャンスがあったけれども、ミスをしてしまった。今日は彼が速くて、ぼくが遅かった。たとえば彼が勝って自分が4位だったら問題だったと思うけど、43ポイント差はまだ許容範囲内」
 とも述べた。
 チームメイトのペドロサが優勝したことに関しては
「チャンピオンシップだけではなく、チーム全体にとって良い結果になった。データやセットアップを比較できるし、彼の勝利が自分へのアシストにもなった。ダニは2位や3位で自分とバレンティーノの間で終える可能性もあったけど、今日は素晴らしい走りで10位スタートから僕たちみんなを抜き去って優勝した。彼のためにも、うれしく思うよ」
 と<先輩>の今季初優勝を祝福した。


#93

#93
チャンピオン獲得も刻々と迫りつつある。

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 さて、冒頭で少し触れたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)だが、今回は6位でチェッカーを受けている。一週間前のシルバーストーンを6位で終えた際に「次のミザノはホームコースで二週間前にテストをしたばかりなので、かなり期待している。レースを終えたら、『現実』がハッキリするだろうね」
 と話していたので、今回のレースを終えて、またもや6位という結果の『現実』を自分ではどう捉えているのか、と少し手厳しい質問を彼に投げかけてみた。
「リザルトがすべてを表しているよ。昨日と今朝もライバルに比べてネガティブなポイントがあったけど、レースではそれがさらに大きくあらわれた。残念だけどそれが『現実』。旋回性がライバルほど良くなく、序盤から良いペースで走れない。残念だけどこれが限界なので、改善するように頑張りたい。今日のような速いペースのレースになると限界がすぐに出てしまう。とはいえ、自分たちのほうが強いコースもあると思う」
 と冷静に話した。次のアラゴンでは、ケーシー・ストーナーが2010年に勝って以来、ドゥカティ勢は優勝していないが、勝てば今シーズン9人目の優勝者である。ぜひ、目指してください。ひとつよろしく。


#04

#04
今季は2位がベストリザルト。 ファクトリーまで高速道路で1時間。

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 Moto2クラスでは、中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)が2戦連続の3位表彰台を獲得した。初日から土曜日午前までは全セッションでトップ、予選もフロントロー2番手だっただけに、今回は勝ってくれるのではないかと思っていたのだが、やはりレースはそう簡単には思いどおり運ばないものである。それでも、序盤に8番手まで下げてもみくちゃにされかけたところから、ひとりまたひとりと狙い澄ましたようにオーバーテイクして、最後はポジションキープへと冷静に切り替えた走りは、非常に好内容のレースだったといえるだろう。
 レースを終えて開口一番、
「悔しさ半分、うれしさ半分、ですね」
 と語った中上自身のことばに、この日の彼のレース内容が凝縮されている。
「序盤から混戦の展開にしたくなかったので、スタート後の1コーナーでブレーキングを遅らせすぎて、オーバーランしてポジションを落としてしまいました。その後も、1〜2周目はフロントのフィーリングを掴めず、バタバタして順位を落としてしまったのが今日の一番の敗因ですね。
(前の集団は)一発で仕留めて逃げたかったので、2〜3周様子を見て、8コーナーで抜いて次のコーナーでも抜いて、ふたつのコーナーで一気にふたりを抜いて、そこからは逃げようというつもりで、3位まで順位を上げる動きはスムーズにできたし、自分も冷静だったので、レース中盤以降は良いレースをできたと思います。
 今週は勝てるチャンスが高かったけれども、決勝レースは厳しいなかでも最低限の仕事をして表彰台で終われたので、さらにもっと良い状態を追求していきたいですね。シーズンはまだ日本GPを含めて5戦あるし、チャンピオンシップも前回から7位は変わらないけど、ポイント差が一気に詰まったので、そのあたりも楽しみつつ残りのレースをがんばりたいと思います。
 今回、悔しかったぶんは次のアラゴンでリベンジします」
 はい。よろしくお願いします。
 では、そのアラゴンでふたたびお会いいたしましょう。
 


#30

#58
優勝は来年の宿題。 レースのないときは閑静なたたずまい 。

 



■2016年 第13戦 サンマリノGP ミサノサーキット

9月4日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


2 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


3 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


5 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


6 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


7 #51 Michele PIRRO Ducati Team DUCATI


8 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


9 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


10 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


11 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


12 #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


13 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


14 #50 Eugene LAVERTY Pull & Bear Aspar Team DUCATI


15 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


16 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


17 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


Not Classified #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


Not Classified #12 Javier FORES Avintia Racing DUCATI


Not Starting #22 Alex LOWES Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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