MBHCC E-1

第99回 第6戦イタリアGP TheCountOfTuscany

 目には青葉 やまほととぎす はつがつお(山口素堂)
 スカルペリア やまトスカーナ まっきっき(にしむらあきら)
 お粗末でした。ともあれ、スーパースター、ロッシのホームグラウンド、ムジェロサーキットのシーズン第6戦である。
 今回のレースは、最終ラップでホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)とマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が繰り広げた火花の散るような真っ向勝負の攻防があまりに鮮烈だが、会場じゅうというかイタリアじゅうというか世界じゅうというか、おそらくは今回のレースで最も注目を集めていた、ポールポジションスタートのバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)はというと、2008年以来となる地元ムジェロの優勝を感じさせるペースでレース序盤の緊張感を一手に引き受けて走行しながら、9周目にエンジンブローであえなくリタイア。午前中のウォームアップ走行中におそらく同様の事象でエンジンをブローさせていたロレンソが逆に決勝をものにしたのだから、まさに「禍福はあざなえる縄のごとし」である。
 ことほどさように、レースでは何が起こるかわからない。
 きっちりと成果を残すためには、レースウィーク各セッションの地道な積み上げがなにより重要とはいえ、土曜まで絶好調だった選手が決勝でぐだぐだになったり、対照的に予選まで大苦戦していた選手がレースでは大活躍してみたり、予想のつかない展開は非常にしばしば発生する。この予測できなさがあるからこそ、人はレースに惹きつけられるのだろうけれども。
 今回の第6戦でいえば、上記のくっきり分かれた明暗がじつに象徴的だが、レースを終えたロレンソは、表彰台記者会見で
「自分のエンジンが壊れたのがウォームアップでラッキーだった。逆にロッシは決勝で問題が出てしまい、アンラッキーだった」「ウィルコ(・ズィーレーンベルグ:ロレンソ担当のチームマネージャー)の話では、モニター画面で見ていても僕の後ろで(ロッシは)かなり気持ちよく走っていたみたいだから、彼は優勝争いもできていただろうね」
 と振り返っている。ロッシ自身も、あり得たかもしれないこの日のレース展開について、
「セッティングもよかったし、速く走れてもいた。ロレンソの後ろについて走っている際には、彼より良いペースだった。勝負を仕掛けることもできたと思う」
 と、やや寂しそうな笑顔で夕刻に振り返った。
 土曜の予選を終えた段階では、ポールポジションを獲得したロッシは当然ながら最有力優勝候補の一角で、じっさい今年のレースでは、過去5戦すべてで、ポールポジションからスタートした選手が勝利を収めている。もちろんそれはある意味では単なる偶然ともいえるだろうし、ポールを獲得するくらいの速さを持った選手がレースペースもずば抜けて高い安定感を発揮してあたりまえ、という意味では、必然的ななりゆき、と言えなくもない。
 ポールシッターのロッシは当然ながら
「それ(PPスタートの選手が優勝を飾っていること)が明日も続いてほしいよね。予選まで強いライダーが決勝でも速いのは当然とはいえ、今年がどうしてそうなっているのかはわからないけどね」
 と語り、一方の5番手スタートだったロレンソは
「まあ、そんなものはあくまで統計データだからね。だから、その記録を破るのも面白いんじゃないの。明日は勝てるようにがんばるよ」
 と話していた。
 結果はかくのごとし、である。


#46
ムジェロ名物・決勝後にコースへ乱入する黄色いファンご一行様。

#99

#46
これで115ポイントです。 今回ノーポイントで現在78点。
*   *   *   *   *

 マーヴェリック・ヴィニャーレス(チーム・スズキ・エクスター)も、予選までの好調さから一転、決勝では予想外の事象に泣かされたクチである。
 予選2番グリッドのヴィニャーレスは、日曜午前のウォームアップではトップタイム。決勝に向けた仕上がりは上々に見えたし、じっさい、もしも彼が表彰台を獲得したら「スズキがこれだけ高いパフォーマンスを発揮するようになったのだから、来季のヤマハ移籍をちょっと後悔していない?」と、少し意地の悪い質問をしてみよう、ともひそかに考えていたのである。
 だが、あにはからんや。レースがスタートするとゴボウ抜かれで一気に11番手まで順位を下げてしまい、そこから懸命に追い上げたものの、最後は6位フィニッシュ。結局、当初予定していたのとは全く別の質問の、「いったい、スタート直後から1コーナーで何があったの?」と訊ねざるを得ないことになってしまった。
 ヴィニャーレス曰く、
「電子制御に問題が出てしまったんだ」
 とのこと。
「スタートが決まれば、上位陣について行けたと思うので、本当に残念だよ。ウォームアップを終えて表彰台を争える手応えがあっただけに、本当に寂しい。スタートでいきなり加速しなくなって、皆に次々に抜かれた。やがて良いペースで走れるようになったけど、追い上げでタイヤを使ってしまって、あれ以上は前に迫っていくことができなかった」
 レースというものは、なかなか思いどおりにいかないものであるよなあ。


#25

#41
現在ランキング5位。 来年の去就はまだ確定せず。

*   *   *   *   *

 明から暗、の選手もいれば、暗から明、の選手もいる。今シーズンのダニ・ペドロサは本来の持ち味であったはずの序盤から一気に飛び出す速さをなかなか発揮できず、むしろレース中盤以降に追い上げる展開が続いている。今回のレースも予選では7位に沈み、決勝も序盤にやや引き離されたところから少しずつ順位を上げて、最後は4位フィニッシュ。
 レースを終えたペドロサは、それでもまあそれなりには納得、といった表情で、
「いつものように序盤で引き離され、つけていけなかった。中盤から追い上げ、自分たちの長所を活かして頑張ったんだけど、ストレートでは(順位を競っていた)ドゥカティ勢が圧倒的に速かった。表彰台は厳しかったけれども、最終的なペースには満足してるよ。バイクのネガもかなり知ることができたし。とにかくレース序盤をよくしなければならないよ」
 と今日の戦いを総括した。なので、彼に対しては「じゃあその序盤をよくするためには、今のホンダのバイクには何が必要なの?」と訊いてみた。
「自分自身が、スタートをもっとよくできると思う。あとは、とくにレース序盤の荷重配分などを少し見直さなければならないのかも。序盤でうまく走れれば、終盤の展開ももっと前で戦えるはずだからね」
 小柄で軽量な選手だけに、彼の返答内容と口調から察するに、フルタンク時の挙動とその扱いに苦労をしているということなのかなあ、とも想像するのだが、機を見てさらにそのあたりについては訊ねることにしたい。


#26

#93
今回は4位。ランキングも4位。 最終ラップで強烈なバトル。ランキング2位。

*   *   *   *   *

 てなわけで、他にも言及したい選手は、たとえば金曜に古傷の首の痛みが出て土曜にそこは復調したものの日曜に今度は腕上がりに泣かされてしまったアンドレア・ドヴィツィオーゾなどなど、たくさんいるけれども、続きはというか、新たなレースウィークのあれやこれやは、次戦のカタルーニャGPにて。では、ひとまず今回はこれまで。


#04

#ストーナー
悪運払拭の契機となったか? ドゥカティ地元でやはりケーシーさん登場。

 



■2016年 第6戦 イタリアGP ムジェロサーキット

5月22日 


順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


3 #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


4 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


5 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


6 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


7 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


8 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


9 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


10 #51 Michele PIRRO OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


11 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


12 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


13 #50 Eugene Laverty Aspar MotoGP Team HONDA


14 #6 Stefan Bradl AAprilia Racing Team Gresini Aprilia


15 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


16 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


Not Classified #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


Not Classified #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich HONDA


Not Finished 1st Lap #43 Jack Miller Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


Not Finished 1st Lap #19 Alvaro Bautista Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


Not Finished 1st Lap #76 Loris Baz Avintia Racing DUCATI



※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

[第98回|第99回|第100回]
[MotoGPはいらんかねバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]