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2016年はパリ〜ダカール・ラリーでホンダのワークスマシン、NXR750がデビューウインを飾ってから30年目にあたる。待望のCRF1000Lアフリカツインは、そんな記念すべき年に日本の道に放たれる。これまでアフリカツインが辿った道、そのルーツを辿ってみよう。 アフリカツインの道は1988年、5月に始まった。 アフリカツインは、今でこそアドベンチャーツアラーというセグメントが普遍的になったが、当時はオフモデルといえば250㏄デュアルパーパスモデルが中心だった国内市場に、排気量647㏄の水冷Vツインを搭載し、24リッター入りの大きな燃料タンクと、フレームマウントの大型フェアリングを備える大陸サイズのツアラーは異色中の異色だった。
1986年にパリ~ダカール・ラリーを制してから4連覇を続けたワークスマシン、NXR750のDNA、スタイルを受け継ぐアフリカツイン。当時のパリ・ダカは、新年を迎えたフランス、パリからスタートし、南岸の港まで一気に1000キロを走る。そしてフェリーで地中海を越えアフリカ大陸に上陸。そこから南下し、アトラス山脈を越え、広大なサハラ砂漠の中へ。サハラでは時に道なき道を走り、大陸の西岸、セネガルの首都ダカールまでいくつもの国、文化を越え、1万数千キロという途方もない距離のラフロードを、僅か3週間で走破する冒険耐久ラリーだった。 大陸間移動、ラフロード、長距離、長期間のラリー。モータースポーツの側面はもちろん、冒険の旅であり、挑戦する人間のドラマがクローズアップされた。
そのラリーに勝利するために造られたワークスマシン、NXR750もまた、いわゆるレーシングマシンの枠を越えた設計思想が封入されていた。総距離の三分の一以上は舗装路を走るこのラリーでは、ダートや砂漠地帯を走る以外の走行性能も重視された。一秒でも速く、よりも生還する事を重視した耐久性、長距離、長時間でライダーが疲弊しないための扱いやすい操縦性、壊れず、高いアベレージスピードを保つ強い生命力。そのエッセンスは、究極のデュアルパーパス・ツーリングバイクの究極の姿だった。
このラリーを走り抜く「強さ」を投影したモデルがアフリカツインである。1日に1000キロだって走れるような走破性とパワー。ダート路を何時までも走りたくなる楽しい操縦性。ラリーだけではなく、ライダーが休日のツーリングで勝利を味わえる一台として誕生したのだ。
歴代アフリカツインはすべてそのトーンが貫かれた。快適性の向上、オフロード性能の向上、乗り易さの向上、それらが混ざり合い大陸ツアラーの性能を押し上げた。目方は重いが乗ると軽い。この事実が浸透し、アフリカツインは世界のマーケットで多くのライダーに受け入れられた。そのモデル史を振り返ろう。
■1988年 アフリカツイン
パリ・ダカを86年、87年、88年と連覇を重ねたホンダは、ワークスマシン、NXR750をイメージさせるアフリカツインを誕生させた。オフロード走破性やタフネスを意識した各部の装備も本格的な一台で、レプリカモデルとしての存在価値も大きなものだった。車体は角断面チューブも用いたセミダブルクレードルフレーム、φ43mmインナーチューブを持つ、セミエア調整式フロントフォーク、プロリンクを介して作動するリアショックは、アルミ製スイングアームを装備する。圧側減衰圧調整機構を持つリザーブタンク付き。前220mm、後210mmというホイールトラベルも特徴的だった。また、前後のリムはゴールドのアルマイト仕上げと、高級感を持たせている。ナックルガード、一体成形のアルミスキッドプレート等、オフロードの走行を意識した装備も標準装備した。メンテナンスに有利なセンタースタンドを装備するほか、φ296mmのシングルディスクやフロントフォークのボトムケースのカバーなど、当時のオフロードトレンドを投入した車体装備はファンを唸らせた。 搭載されるエンジンは、水冷OHC3バルブの挟み角52度位相クランクのVツインエンジン。647㏄の排気量で52psと5.7kg-mを生み出した。 パイプ製のリアキャリア、シート上面にバックスキン調表皮を使った。ホンダのオフロード系モデルでは珍しく筒型整形のサイレンサーを採用。容量を稼ぎ、エンジン特性向上に貢献した。メーターパネルにスポンジを使った点などロードの「レプリカ」ともクロスオーバーさせた。35W×35WのH4ハロゲンバルブを使ったデュアルヘッドライト、大きなウインドスクリーンなど、その後のアフリカツインのスタイルを決定付けたのもこの初期型である。 NXR750同様、アフリカツイン650もパリ〜ダカール・ラリーに参戦し、89年、90年と2年連続で市販車無改造クラスを制覇。パリ・ダカを完走する性能を担保されたツーリングバイクだったのだ。
■1990年 アフリカツイン
デザインイメージは踏襲しながらも、年には欧州でモデルチェンジを受けた750版アフリカツインが国内に登場した。エンジン排気量を拡大した2代目アフリカツイン。Vバンクが52度の水冷SOHC3バルブVツインはそのままだが、ボア×ストロークを拡大。排気量は、742㏄へ。圧縮比は9.0と低下させたが、52ps→57ps、5.7kg-m→6.1kg-mとパワーアップ。オイルクーラーも追加装備された。また、ミッションのギア比も見直された。 電装系では、ヘッドライトが、35W×35Wから60 /55Wへと光量アップ。バッテリーも12Ahから14Ahのものへと換装された。 シャーシ周りでは、フロントブレーキをφ296mmシングルディスクからφ276mmダブルディスクへとし、リアディスクも650時代のφ240 mmからφ256mmへと拡大。 ボディー周りでは、フロントフェアリングを横長意匠から縦長として快適性をアップさせた。リア周りのデザインも一新。パイプキャリアは樹脂製キャリアへとなり、トップボックス装着しやすいようにアレンジされた。アルミアンダーガードは1ピースから左右、センターの3ピースとなっている。
1991年 アフリカツイン
1991年3月25日350台限定発売。
1992年 アフリカツイン
冒険ツアラーとしての存在感を確立したアフリカツイン。1992年に登場したこのモデルでは、多機能デジタルトリップの搭載が話題になった。このメーターは、次世代アフリカツインへも継続された。もともと輸出用のXRシリーズの一部の輸出国向けに投入された「デジタルエンデューロメーター」をベースにしたもので、実際にこのメーターボディーはNXR750にも採用されていた。ツイントリップ、減算トリップ、時計、タイマー、ストップウォッチなど、ナビゲーション機能に特化したもの。速度計、回転系などがあるメーターパネル上部に搭載され、表示サイズが大きく、メーター内にある回転ボビン式のトリップメーターと比較して、視認性は格段によかった。また、ウインカー内ポジションを採用。ボディー、エンジンに変更はない。
1993年 アフリカツイン
アフリカツインは3代目へとモデルチェンジされた。そのデザインは89年のパリ・ダカに勝利を収めたNXR750を思わせるもので、オーバーハングを短くした意匠が特徴的。車体レイアウトでは、シート下にあったエアクリーナーボックスをエンジン上部、ステアリングヘッド後部へと移動。燃料タンクもガソリン搭載位置がライダーに近くなり、マスの集中化が図られた。重量的には2㎏の軽量化にとどまるが、このレイアウトが効いて乗り味は大いに軽快になった。 また、エアクリーナーボックス容量も5.4リッターから7リッターへと拡大。エンジンに変更はないが、キャブレター形式もよりレスポンスの良いモノをチョイスしたことで、乗り味はより軽快になった。これらのレイアウトはNXR同様で、埃を吸いにくく、外部からのメンテナンス性も向上する、というラリーマシン風な拘りが見て取れた。 ボディー外装では、タンクサイドの面が平滑になり、フィット感を向上させたほか、サイドカバー周辺のスリム化も図られた。快適性向上のため、フロントスクリーン形状も伸ばされている。 新設計のセミダブルクレードルフレームと、シート下からエアクリーナーボックスが移動したことで、シート高を15㎜低減し865mmへ。低められたフレームの恩恵でシートフォームの肉厚は逆に先代より20mm増量された。シート下にできた「空き地」には4リットルのユーティリティーボックスが備わり、利便性を高めている。リアサスペンションのストロークを210mmから220mmへと伸ばし、さらにオフロードでの走破性、操縦性を高めている。リアにラジアルタイヤを装備したのもニュースだった。3代目のアフリカツインの完成度の高さは多くのファンを魅了した。
1994年 アフリカツイン
1994年1月下旬200台限定発売。
1996年 アフリカツイン
この年販売を開始したアフリカツインは、3代目として外観、スペックにマイナーモデルチェンジを受けた後期型となる。外観では、フロントアッパーカウルと、スクリーン形状を変更し、ライダー、パッセンジャーの快適性を向上させた。また、シートフォームの肉厚を増量し、座り心地を改善。シート高は僅かに5㎜上昇したが、アフリカツインのコンセプトである「ロングディスタンスを快適に」という点にさらに磨きが掛けられた。また、使い勝手の面では、初代750モデルから採用されている樹脂製のリアキャリアに、盗難防止用のU字ロックを搭載できるホルダーが新設されている。 また、サイレンサーの大型化と点火系をフル・トランジスタ式バッテリー点火とすることで、最高出力と燃費性能を向上させているのも特徴だ。キャブレター型式もVP50 からVP51へと変更された。サイドカバーがタンク同系色ではなく、マット調のグレーとなる。
1997年 アフリカツイン
ホワイトベースにスプラッシュ系のグラフィックだったアフリカツインだったが、シックなシルバーをベースカラーに採用。歴代青いシートを採用してきたが、この年式以降、黒シートが標準に。上面のバックスキン調表皮は継続される。
1998年 アフリカツイン
単色+グラフィックを施したアフリカツイン後期型3作目。サハラブルーと呼ばれるメタリックを採用したモデル。スペック、価格などに変更はなし。
1999年 アフリカツイン
1998年12月22日300台限定発売。
2000年 アフリカツイン
3世代目になって7シーズン目のアフリカツイン。サハラブルーと赤を大胆に使ったカラーリングに、ワシをイメージしたグラフィックを施したモデル。スペック、価格などに変更はない。 この翌年、2000年8月にブラックのアフリカツインが限定200台で発売される。アフリカツイン登場以来、アドベンチャーツアラーのジャンルを2分する人気を持っていたBMWのGSシリーズは、排気量を94年に1100㏄に、98年には1150㏄へとアップデイトするなど、着々とモデルチェンジを重ねていた。ホンダはスペイン生産のバラデロで対向するが、アフリカツインを愛するユーザーにとって、アフリカツインが提示した何処へでも、何処までも、というコンセプトを受け継ぐモデルが待ち望まれた。この3代目は国内での販売を打ち切り、海外向けも2003年で生産終了となる。
2001年 アフリカツイン
2000年8月9日300台限定発売。
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