2015年12月15日
■オーバルコースでJSBマシンvsオートレーサー? 新しい可能性が見えるオーバル・スーパー・バトル
「オートレース」っていうのは、1周500mのオーバルコースを舞台に行われる公営ギャンブルレース。当然、僕らがいつも見て、知っている「レース」とは、マシンもライダーも、もちろんファン層もまったく違うものだ。
それでも、みなさんご存じのとおり、青木治親や青山周平、渡辺篤らをはじめとした、オートバイレース出身のオートレーサーがたくさんいるし、マシンはスズキ製専用エンジンを搭載したオリジナルと、共通点が少なくないのも事実。
「じゃぁ一緒にやってみよう! お互いに独自のファンがいるんだから、一緒にやってみたら楽しいんじゃない?」って言い出したのは、オートレーサーの青木治親。青木は、オートレース式に言うと「川口オート所属:29期」の一流ライダーなんだけれど、僕らからしてみたら、群馬・子持村の青木スーパー3兄弟の末っ子であり、1995~1996年の、世界グランプリGP125チャンピオンのハルちゃん、なのである。
そのハルが、まずアニキに相談を持ち掛ける。アニキとはもちろん、スズキMotoGPテストライダーである青木宣篤。ノブも、こういう面白いイベントは大好きときてるから、ロードレース側の取りまとめを担当。ハルがオートレースの運営側、ノブがロードレース側のチームとかライダーに話をつけて、もちろん関係各社に根回しをきちんとして、実現したのが「川口オーバルスーパーバトル(OSB)」なのだ。
もちろんオートレース場は、オートレーサーたちの聖地。本来なら、ロードレースとかモタードとか、そんなマシンが走るなんてマカリナラヌ、となるところなんだけれど、そこをきちんと根回ししてくれたハルとノブのおかげなのだ。同じ二輪を使ったレースなんだもん、連携したっていいじゃん、ってことだよね。
左から、モタードにH2R、JSBに390DUKE、オートレーサーにRC390。これぞ異種格闘技! 第1回はJ-GP2マシンなんかもありました。 | スズキ製の水冷2気筒エンジン「AR」を搭載するオートレーサー。600ccとルーキー用の500ccがあって、写真はゼッケン12:青木治親車の600cc。 | オーバルコースの説明をするハルちゃん。ロード系のライダーと久しぶりに会う機会を楽しみにしているのだ。 |
このOSB、2015年が2度目の開催。第1回は2014年にこんなかんじで開催され、関係者の評判も上々。オートの選手も、ロードの選手も面白かった、なんて言ってくれていたし、来てくれたファンのみなさんも楽しんでいるようだったことから、第2回開催にこぎつけたのだ。
その第2回は、あるライダー(T田Mさん・笑)の祝い事と日程が重なってしまって、トップライダーが何人か出場できなかったんだけど、それでもJSBクラス、モタードのトップライダーたちが参加してくれた。オフシーズンに、ほんとありがたい。
参加してくれたライダーは、ロードレースから、声かけした青木宣篤に山口辰也、浦本修充、伊藤勇樹、今野由寛、出口修、須貝義行、酒井大作、寺本幸司に、出口が所属するトリックスターレーシングの鶴田竜二監督、それにAFGモータースポーツの代表、ジェイソン・フーリントンが顔を揃え、モタードからは新井誠。トライアルライダーの野本佳章もバックフリップ・デモンストレーションに駆けつけてくれた。あ、それと芸能界からRGTC(RGツーリングクラブ)代表として、福田充徳さんも参加してくれました。前日もキッチリとコソ練してたのはナイショです(笑)。
それを迎え撃つは、青木治親に、佐藤裕児、岩田裕臣、青山周平、松本康のオートレーサーたち。去年のこのイベントに来てくれた渡辺篤は、山陽オートに出走していたため、不参加でした。残念!
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レースの合間にはトークショーも。さすがバイク芸人、寒い天気だったけれど、トークで客席をドカンドカン温めてました。 | オートレース場のピットにJSBマシン、という見慣れない新鮮な光景。ヤマハ伊藤勇樹、ホンダ浦本修充、トリックスターの鶴田竜二監督は、ウェット走行を回避しました。 |
レースは、KTMの390DUKE&RC390を使用したワンメークレースと、JSBクラス、それに異種格闘技レースが2レースずつ予定されていたんだけれど、あいにくの雨でスケジュールを組み替えて、JSBクラスは1レースのみに変更。これは、雨で未体験の路面ってことで、大事を取って1レースだけにしたのだ。本当は中止した方がいい、なんて声もあったんだけれど、ライダーはみんな「せっかく来たんだから1レースだけでもやりたい」と。こういうクロスオーバーなイベントに可能性を感じているからなんだね、きっと。
KTMワンメークのレース1は、昨年のウィナーである福ちゃんにジェイソン、ロードから寺本&須貝、それにオート界から岩田、佐藤、青山、青木の8人。オートレース式にきちんとハンデが設定されて、福ちゃんが+300m、ジェイソン&寺本&須貝&岩田が+50m。福ちゃんは、昨年450mで8周を逃げ切って、ハルなんかが「あと1周あったら!」って悔しがったものだから、ハンデを減らされて300mになったのだ。
ハーフウェットの決勝レースでは、その300mハンデを守って、福ちゃんがまたも優勝! 後ろからグングンとオート勢が迫ってくるんだけど、終盤はちょっと後ろを見ながらのクルージングで福ちゃんが逃げ切った! これで2年連続優勝だね!
「練習とかで見てたら、もう少し早く追いつくと思ったのに、福田さん速いんだよね……。次はハンデもう少し減らそうよ」とハルちゃんが言えば、福ちゃんも応戦!
「ま、これでハルチカさんに2勝したわけですけど、なんなら次、ハンデなしでもエエですよ! カッカッカ(笑)。正直、ハンデもらって逃げるより、横一線でレースしてみんなとゴチャゴチャやりたいもん。負けたら負けたでしゃーないわ」
かくしてKTMレース2は、福ちゃん80mハンデとなり、トップで逃げるも2周ほどで捕まって、アレヨアレヨとポジションを下げてしまう。しょーがない、やっぱプロは速い! しかし最終ラップ、ジェイソンが転倒してしまい、オートレースのルールにのっとって、レースは不成立! ほぼ負け確定だった福ちゃんも命拾いし、これで3戦2勝、1無効レースと、依然として無敗伝説が継続(笑)。プロライダーたちは、またリベンジに挑むのです。
KTMワンメークレースで勝った福ちゃん、これでV2。300mハンデで勝ったので、来年は200mくらいにまた減らされそうです(笑)。 | ハンデ80mでスタートしたレース2では、2周でプロライダーたちに追いつかれた福ちゃん。でも楽しそうでした! | 昨年のこのレースで初乗りした390DUKE。あいかわらず小っちゃくて速くてクルクル回る、とお気に入りです。 |
JSBクラスは、見慣れないオーバルコースでレインタイヤの戦い。スタートから須貝ドゥカティが飛び出し、そこにBMW酒井が追い付いて、カワサキ出口がトップに立ったと思ったら、ホンダ山口が集団を振り切ってそのままチェッカー。難しいコンディション、知らない路面で、山口たっちゃんのレース巧者ぶりが光りました。
「今年、ふがいないレースが多かったから、最後に勝ててよかった。応援してくれてるファンのみなさんに、最後にいい報告が出来ましたね!」(山口)
ライダーみんな、本気でした! 喜びも悔しがりも本気だったもんね。
そして、オーバルコースでカテゴリーの違うマシンが戦う異種格闘技は、JSBマシンとモタード、そしてオートレーサーが激突! コンディションの悪い路面では、やはり滑らせてナンボ、のモタード勢が速いと見られていたんだけれど、短いストレートでJSBが速いし、進入でまるで減速しない(ように見える)オートレーサー、という対決ですね。
レース1では、やはりモタード勢が飛び出すんだけれど、そこにJSB車が追い付き、その後方からオートレーサーがジリジリくる展開。JSBは青木ノブ、その後方に青木ハル! まさかの兄弟対決! その戦いを制したのがハルで、オートレーサーの速さを見せたのでした。これでまぁ、ノブのファイトに火が付きましたね!
レース2では、雨と路面フィーリングをつかみ取ったか、序盤飛ばしまくるモタード勢をノブが捉えて中盤にトップへ! 後ろから、ふたたびハルが迫ってくるんだけど、ノブが逃げ切って優勝! 兄弟対決はイーブンとなりました。ノブの喜びようと言ったら、いかにこのレースに本気で臨んでいたのかがわかりますね。単に負けず嫌い、ってこともね(笑)。
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大観衆にご挨拶、の青木ノブくん。準備に毎日のように川口に通ってくれていました。ハルともども、青木兄弟に感謝すべきイベントですね。 | ファンのみなさんとの距離が近いのもこのイベントです。福ちゃん、さすがサーキットではよくモテる(笑)。写真とサインのリクエストにたくさん応じてました。 |
雨の中、たくさんのお客さんも集まってくれて、大盛況におわったOSB。レースあり、イベントあり、トークショーあり、バックフリップありの、楽しいイベントでした。
願わくば、このイベントでハルや周平を知ったロードレースのファンが車券を買いに来てくれるようになったらいいし、逆にノブの走りを見たい、ってオートのファンが8耐に来てくれたりね。そういう可能性が見える、クロスオーバーなイベントでした。
(取材・文:中村浩史)